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転職したら〇〇だった件

 女神官はニッコリ微笑んだ。


「ミミッ子殿もイル美殿も基礎能力が高いのでお仕事をやりたい放題でありますな。ゆっくり選ぶでありますよ」


 後ろには長蛇の列ができていようが関係ない。俺たちも相応の時間を待ったのだ。


 二人はまるでカフェのメニューで「これ美味しそう」「こっちもすてがたい」と、迷っていつまで経っても注文が決まらない女学生のようだ。


 不思議な冊子は手にした者の能力に応じて、なれる仕事の欄が光るらしい。特にオススメの職業はピカピカと眩しいくらいである。


「ミミッ子氏はいろいろできるデスけど、特にオススメなのは黒魔導士と武闘家とメスドレイ? というお仕事デス。ところでこのメスドレイとはどういうお仕事デスか?」


 おい誰だそんな職業を一覧に入れたのは。


 ミミッ子は胸を揺らして頷いた。


「よくぞ訊いてくれましたねイル美ちゃん! これはご主人様にたっぷりと愛でご奉仕し、時には愛のエキスをちゅっぽりドクドクぬるこぽぉっと注ぎ込まれるという……」


 俺はミミッ子の口を塞いでイル美に告げた。


「メイドさんの上位職だ。そうだよな神官さん?」


「え、ええと、そうでありますよ!」


 話のわかる女神官で助かる。


 イル美は胸の前で手を組んで「わあぁ、愛される上位職なんてミミッ子氏はすごいデス。ボクもメスドレイになりたかったなぁ」と尊敬の眼差しだ。


 俺はミミッ子に視線で「選ぶなよ絶対に選ぶなよ。魔物の職業選択の自由を声高に主張するなよ」と、くぎを刺した。


「心配しなくてもミミッ子は身も心もすでにロジャーさんの愛の虜囚ですよ? あえて選ぶ必要なんてありませんから」


 清々しい聖女のような笑みでミミッ子は俺に告げた。そして眼鏡の女神官に向き直る。


「神官さん質問でーす!」


「はい、なんでありますか?」


「えっとぉ、わたしは回復魔法とか向いて無いんですかねぇ? こう見えてもロジャーさんって普通に強いんですよ。アタッカー二枚は必要ないかなぁって」


 神官がミミッ子の手にしている冊子の一覧に視線を落とす。


「どれどれ……あっ……」


 察した表情が曇る。そして――


「人にも魔物にも得意なことと苦手なことがあるでありますから」


 女神官の諭すような一言に、ミミッ子はその場で膝から崩れ落ちてつっぷした。


「癒やし系ミミックに生まれたいだけの人生でした! 我が一生に悔いばかり!」


 俺はミミッ子の肩にそっと手を置いて慰める。


「お前はお前らしくしていればいいと思うぞ。まあ、時々回復役がいてくれたら多少の無茶やゴリ押しができると思うこともあるけど、それは盗賊の戦い方じゃないからな」


 顔を上げてミミッ子は涙目で訴えてきた。


「ロジャーさんを回復できれば、わたしの魔法力が尽きるまで夜の営みができるじゃないですか!」


「そのパカパカ開く口に鍵をしてやろうか?」


「ひぃ! 壁ドンならぬ蓋ドンですかロジャーさんどこまでミミッ子を喜ばせてくれるんですぅ?」


 何を言ってもこいつにはダメージが通らないのだろうか。メンタル最強ですか?


 で、結局どうなったかというとスリットの入ったタイトなドレスっぽい服装も相まって、ミミッ子は武闘家になるつもりらしい。


 俺は攻撃魔法を使えないので黒魔導士でも良いように思うのだが――


「物理アタッカーなら俺がいるだろ?」


「まーそうなんですけど、ロジャーさんてカウンタータイプだし、魔法って耐性持ち多いんですよね。火属性と死属性の耐性持ちが出た瞬間に、ただの箱になっちゃいますんで」


「なるほど。お前、ちゃんと考えてるんだな。全然空っぽなんかじゃない。ちょっと言い過ぎたよ。ごめんな」


 素直にそう思って頭を下げると、ミミッ子の顔が耳まで赤くなった。


「そそそそそんなもったいない滅相もない! わたしってばまだまだ空っぽの空箱ですから!」


 焦りながらも恥ずかしそうにアメジストの瞳を細めて、銀髪の少女は眉尻を下げた。


 え? そこ謙虚なの? 謙虚な箱なの?


 普段、もっと恥ずかしがるべきところで恥ずかしがってほしいものだ。


 一方、イル美はというと――


「ボクはコクホウとジュウヨウブンカザイとセカイイイサンになれるみたいデス」


 それ職業なの? ちょっと確認が必要そうだな。


「もう少し冒険者向けっぽいのはないのかイル美?」


「えーとえーと……あ! ゴールデンアイアンナイトっていうのがあったデスよ」


 金なのか鉄なのかそれが問題だ。いやそれ以前に盾役はありがたいが魔物といえども女の子を盾にするのは、いかに盗賊王の俺といえどもいかがなものか。


 すでに何度か庇ってもらったことは一旦棚に置くとする。


「イル美は何になりたいんだ?」


「ボクはロジャー氏のお嫁さんになりたいデス」


 様子を見守っていた女神官がポッと頬を赤らめつつ祝福の十字を空に切る。やめて!


 イル美の背後に立つとミミッ子が大きな胸を背中に押し当てて、イル美の耳元で囁いた。


「それはもう決まったことじゃないですか。わたしとイル美ちゃんはロジャーさんにキープされてるんですから、安心してサブ職業を決めればいいってことなんですってば」


 俺に相談及び選択権はない。いつものことである。


「ふえぇ……ど、どうしたらいいデスかロジャー氏?」


「正直に言うと、お前に守ってもらうのはちょっと心苦しいんだ。女の子なわけだし」


 パーティー編成なんてものを考え出すときりが無く、一人が気楽だと改めて実感する。


 が、イル美ではなくミミッ子が俺に詰め寄ってきた。


「ちょっとロジャーさんそれどういう意味です? イル美ちゃんに守られたくないって。ぶっちゃけイル美ちゃんの防御力ナメてますよね。わたしが言うのもなんですけど心情的な意味でってことなら、イル美ちゃんだって覚悟キマってますから!」


 なぜお前がそこまでムキになるんだ。と、ミミッ子から視線をイル美に戻すと、ルビーの瞳がじっと俺を見据えて、うんうんと二回頷いた。


 適材適所とはいうが、本人のやる気まであっては俺の心情的な抵抗感などで止めようもないか。


 ミミッ子がさらに追い打ちをかけるように言う。


「それに女の子の盾役って優遇されるんですよ?」


「優遇ってなんだよ。いったい誰がそんなことするんだ?」


 ミミッ子は天を指さした。


「そんなの神様に決まってるじゃあないですかロジャーさん」


 イル美も激しく何度も首を縦に振り、俺はこれ以上の反論を諦めた。


 二人が職業を決めたところで、眼鏡の女神官が俺に訊く。


「ロジャー殿はどうするのでありますか?」


「俺は無職になりにきたんだが」


「あー、そういうのもあるにはあるのでありますが」


 あるのかよ。すごいなソーマ神殿。と、ふとここで割と根本的な事に気づいた。


「ところで神官さん。転職っていうけど、別に誰でも自由に名乗ることくらいできるだろ? 俺だって攻撃魔法は使えないけど、自称黒魔導士とか。冒険者の職業でなければ、今からでも俺はパン屋を目指したり漁師を目指せるんだが、それとここでの“転職”って何が違うんだ?」


 本人の気の持ちようならば、長蛇の列を並ぶ意味もない。


 女神官の眼鏡がずり落ちた。


「おっとっと、基本的なことを知らなかったでありますか。えー、ソーマ神殿では最低でもレベル20以上でないと利用できないであります」


 ミミッ子が前のめりになって「R18じゃなくてL20ってどんな成人指定かわたし気になります」って言い出したのでその場に正座待機させた。もし、首にかける看板があれば「わたしは真面目な場面でエロイことを言いました」と書いたものを装備させたいところだ。


 なぜか怒られていないイル美までミミッ子の隣に正座する。仲の良いことで。


「続けてくれ神官さん」


「この神殿では特別な大神樹の芽を通じて、その人の能力の最適化を行うのでありますよ」


「最適……なんだって?」


「実はロジャー氏にも魔法力が備わっているのでありますが、魔法を使えるほどではないので無駄になっているのであります」


「そいつはもったいないな」


「そこで、その魔法力をゼロにしてそのぶんを敏捷性や腕力などに振り分けるという感じでありますな。ただ、そのためには元の能力がある程度必要でありますから、ソーマ神殿での転職はレベル20からであります。あと、元々の才能以上の力や、極端な振り幅での再配置みたいなことはできませんのであしからず」


 細かいルールはあるようだが、俺も盗賊から盗賊に転職すれば今よりパワーアップできるのかもしれない。


「わかった。じゃあ俺もその最適化とかいうの目当てで転職したいんだ」


「冊子をどうぞであります」


 本を受け取って開くと――


 ほとんどすべての職業の文字が適性無しの表示に変化した。


 しかも……。


「おいちょっと待て! 盗賊の適性がないんだが?」


「あー、これは珍しいのであります。ロジャー殿の天職は別のものだったようでありますな」


 冊子の職業索引ページを何枚かめくると、一つだけ眩しいくらいに燦然と輝く職業の文字列が残されていた。


「ロジャー殿が才能を活かして転職できるのは、今の所こちらの職業だけであります」




 【変態魔物調教師】 適性レベル★★★★★★★★★★(マスタークラス)




 うわぁ……そう来たかぁ……。





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