お風呂の手前の脱衣場でやりたい放題
紅茶で人心地ついたところで、俺は二人に告げた。
「とりあえず今夜は遅いから休むことにしよう」
俺の提案にミミッ子が椅子をガタリと鳴らして立ち上がった。
「夜のお楽しみはこれからですよロジャーさん? 盗賊王、宝箱、財宝が一つ屋根の下で夜を明かして何も起こらないわけがないです!」
イル美がそわそわし始めた。
「ボクは奪われるんデスか? それともミミッ子さんの中にしまわれてしまうのデスか?」
頬を赤らめるイル美に溜息すら出ない。
「安心してくれ。寝込みを襲うほど節操なしじゃないからな」
赤い瞳が俺の顔をじっと見つめた。
「あ、あの、ロジャー氏さえよければ、いつでも奪いにきて欲しいデスから」
言ってからキャアと声を上げてイル美は両手で顔を覆ってしまった。
そんなイル美の隣に寄り添うようにミミッ子は立って、自慢の胸で包むように抱きしめた。
「イル美ちゃんったら見かけによらず大胆なんだから。動かざる事黄金像の如しと思ってたのに積極的ぃ♪」
「い、い、言っちゃいましたデス。は、恥ずかしいよぉ」
ミミッ子が俺の顔をビシッと指さす。
「お宝に好かれるなんてさすがロジャーさん! さあ、このミミッ子の腕の中からイル美ちゃんを奪うことが出来ますか?」
「奪わんぞ」
ミミッ子が何を考えているのかもさっぱりわからない。自意識過剰を承知で言うが、ミミッ子は恐らく俺の事が好きでストーキングしている。
普通、相手を独占したいと思ったならライバル(?)の立候補はミミッ子的に嬉しい事ではないだろうに。
ミミッ子が目尻をつり上げた。
「それってイル美ちゃんに魅力がないって言ってるんです?」
「いやいやそんなことは……大人しくて常識的で愛らしいと思うぞ」
おまけに胸まで大きいのだが、問題は種族が違いすぎるというところだ。
ミミッ子の胸の谷間に半分顔を埋めたままイル美は「う、嬉しいデス」と素直に喜んだ。
が、ミミッ子は収まらない。
「じゃあじゃあイル美ちゃんは可愛いとして、わたしはどうなんです?」
「そうだなぁ……見た目は100点満点だ」
「気になる中身は? 宝箱は中身で勝負ですから!」
「アレだな……迷宮の奥地でついに見つけた宝箱の中から、薬草が出て来たような感じだ」
俺の例えはミミッ子に突き刺さったらしく、彼女はその場で床に突っ伏した。
「その感想は……ミミッ子にはショックであった」
自分にナレーションつけるの止めなさい。
俺は立ち上がって銀髪美少女に手を差し伸べる。
「悪かった。ちょっと言い過ぎたよ。薬草はないよなさすがに」
アメジスト色の瞳をウルウルさせてミミッ子は顔を上げた。
「そ、そうですよね! もっと良い物が入ってますよね!?」
「まあそうだな。町で買ったばかりの鋼の剣くらいの嬉しさだ」
「それ微妙に嬉しくないやつじゃないですかやだもー!」
イル美まで「そんなことないデス。ミミッ子氏はとっても良い箱デスから、中から七つ集めると願いを叶えてくれる宝玉が出てくるデスよ」と、最大限の賛辞(?)で励ました。
「イル美ちゃんって本当に良い子。その優しさを某盗賊王さんに分けてあげたいですよ」
今度はミミッ子がイル美の胸に顔を埋めてぎゅーっと抱きしめた。イル美も困惑して俺に助けを求めるように視線を向けてきたが……。
俺はそっと虚空を撫でるようにした。
「は、はいデス。よしよしデスよミミッ子氏」
「うわあああん! 優しみがすごいよぉ」
優し「み」ってお前なぁ。
ともあれ宝物と宝箱、仲の良ろしいことで。
「じゃあ、俺は寝るから」
イル美の胸から「ぷは」と顔を上げるとミミッ子が吼えた。
「お風呂入りましょうよロジャーさん」
「はぁ?」
「ほらせっかく温泉的なものが掛け流しなんですから」
言われてみれば確かに風呂があったっけか。
「じゃあ、先に入っていいぞ」
イル美がぶんぶんと金髪を左右に揺らした。
「ロジャー氏を差し置いてそうはいかないデスよ」
「それを言うのはむしろ俺の方だ。この家はイル美が作ったんだし」
もう一度、イル美はぶんぶんと全身を揺らすようにクビを横に振る。まるで水浸しの犬が自力で脱水しているみたいだ。彼女を包んだリボンが解けてしまわないか心配だ。
見れば少しずつだがちょうちょ結びが緩みつつある。
が、気づかずイル美は俺に真剣な眼差しで告げた。
「ボクを使ったロジャー氏の迷宮デスから、所有権はロジャー氏にあるデスよ」
「そうなのか。じゃあ遠慮せず俺が許すので二人とも先に風呂を使ってくれ」
さらにイル美が全身をふるふると振ると。
リボンが解けた。
ハラハラとリボンが解けてイル美はあられもない姿になる。
桜色の突起や無毛の渓谷が露わになった。
「あ、あ、あわわわわわわ」
前腕で胸を守るように隠しながら、イル美はへなへなとその場にアヒル座りをした。
すかさずミミッ子がイル美を自分の背に庇うようにする。そして――
「恥ずかしがり屋さんのイル美ちゃんから視線を誘導するために、ここはこのミミッ子が一肌脱ぎましょうとも!」
自分から上着に手を掛けミミッ子は脱ぎだした。
「風呂場の脱衣場でやれ!」
脱ぐ手を止めてミミッ子はハッと目を丸くする。
「あっ! わかりました! ロジャーさんアレですね。お風呂を覗きたいんですね! そういうイベントをご所望ですか。しょうがないにゃ~」
俺は二人に背を向けると脱衣場に向かった。
「悪いが先に風呂に入らせてもらう」
と、もっともらしい理由をつけて俺は逃げ出した。
チラリと視線を向けるとミミッ子の口元からたらりとヨダレが出ているように見えたような。
良からぬ事を考えていなければいいのだが。
脱衣場で服を脱いで風呂場に出る。
浴槽は俺が足を伸ばして入れるほどの大きさだ。悪魔像の口から湯が掛け流しになっていた。
さらに温水のシャワーに花の香りのする石鹸など至れり尽くせりである。
身体を清めてから湯船に浸かると、この数週間の疲れがお湯に溶け出して消えていくような心地よさだ。
溢れた湯で風呂場はミストサウナのように白くぼやけた。
「ふうううぅ……極楽極楽」
自然と言葉が漏れる。実際、藁山をベッドに馬小屋で寝泊まりしていたのが嘘のような快適さで、イル美が作った迷宮の中とはいえ天国のようだ。
じんわりと身体が火照っていく。ただの湯ではなく温泉のようだ。
風呂上がりに冷えた麦酒があれば最高だが、それはさすがに贅沢すぎるな。
「……………………ハッ!?」
一瞬、うとうとしかけて意識が飛んでしまった。
あまり長湯はしない方がよさそうだ。俺の後にミミッ子とイル美も控えている訳だし。
名残惜しいが湯船から上がろうとした時――
脱衣場に人の気配……もとい魔物の気配を察知した。
くぐもった声が扉越しに聞こえてくる。
「これロジャーさんが一日はきっぱなしだったパンツですよ?」
「ミミッ子氏、パンツは食べ物ではないデスよ」
「大丈夫大丈夫! こうやってロジャーさんの成分だけを補給してるので、パンツは綺麗になるしわたしもロジャーさんを味わえるし、まさにWin-Winの関係ってやつですから」
「あっ……本当に染み一つ残さず新品みたいに綺麗になったデス。ミミッ子ちゃんすごいデス!」
「でしょー? はい、それじゃあシャツの方はイル美ちゃんどうぞ。わたしばっかり楽しんじゃ悪いし」
「ボクにはミミッ子氏みたいなことできないデス。むしろ汚しちゃうっていうか……というか、お洋服を綺麗にするのは良い事だと思うデスけど、やり方がバレたら怒られちゃうデスよ?」
バレてるから。そして良識があるならどうか止めてくれイル美よ。
ミミッ子がイル美に返した。
「ほら、わたしっていつもロジャーさんにお世話になってばっかりだし、顔を見てお話してるとついつい恥ずかしくなって素直になれずに、エッチな言葉のキャッチボールで誤魔化しちゃうから……こういう所でくらいはちゃんと役に立ちたくて」
ミミッ子お前……箱型の洗濯桶だったのか。
イル美の声がかすかに聞こえた。
「ミミッ子氏はキャッチボールって言ってるデスけど、ロジャーさんあんまりキャッチしてくれてないデスよ。避けてるデスよ」
「イル美ちゃん言わないで! 現実と言う名の残酷なナイフでわたしの心はズタズタよ! 可愛い顔して即死魔法使いなの?」
「ご、ごめんなさいデス。ミミッ子氏を傷つけるつもりはなかったデスから」
俺が言っても聞かないことを、よくぞ言い聞かせてくれたなイル美よ。
しかし二人が脱衣場にいては風呂から上がれないではないか。
と、思っていると――
「よーし! 前菜はこれくらいにしてっと……いくよイル美ちゃん!」
「はいデス。ロジャーさんの入浴を介助するんデスよね」
「そうそう! で、そうしている間に恋愛感情が芽生えてしまったというていで」
「ていデスね」
そんなやりとりが終わるなり、二人の少女が風呂場のドアを開けて乗り込んできた。
全裸で。