6.そして転生へ
六話目です。
もう一作の方にかまけていて更新が遅くなりました。
二人で帰ったあの日から一層仲良くなれたと思う。
勉強以外の他愛のない事も話せるようになった。
何気無い会話に穏やかにほほ笑む彼女。明るく元気な彼女。たまに拗ねた顔も可愛い。
本当に毎日が幸せだった。
勉強もますます捗り、1学期の期末試験の結果も5教科400点を越えていた。
各教科の先生は僕の頑張り具合に驚いている。
数学の嫌味な先生はカンニングを疑って授業中抜き打ちで難問を解くよう言ってきたが、その公式は先週塾で覚えてきた内容だったので問題無く回答を黒板に書くと渋々だが実力だったと納得してくれた。
7月に入りますます暑い日が続いているがそんな事はお構い無しに毎日充実して勉学に励んでいる。
先日行われた模試もかなりの手応えを感じる事が出来て結果が帰って来るのが今から楽しみだ。
この分だと今月末の塾の実力テストも上位が狙えると思う。
今僕がいる中級クラスは彼女が居る上級と僕が元居た下級クラスと日がずれており放課後彼女と一緒に帰る機会が減ってしまったのが残念だ。
そう、先週行われた実力テストでトップと1点差の2位だったので今週から中級クラスに通っている。
この結果に次第に周りからの評価もただのモブと言う存在であった僕に対して羨望の目を向けるようになってきた。
―僕は今までただのモブと思っていたがそうじゃなかったんだ!やらなかっただけで僕は主人公になれるんだ!
この所続く夢みたいな成功体験の数々におそらく調子に乗っていたのだろう。
モブはモブであると言う役割を超えて身の程知らずな行動をしてしまった報いか。
それとも恐れ多くも主人公と結ばれようした天罰なのだろうか?
冷めない夢は無い、幸福はいつまでも続かない、これを禍福は糾える縄の如しと言うのだろう。
そしてその日は訪れた…。
朝から日差しが強く茹だる様な暑さだった。
セミ達の大合唱に学校へ向かう生徒達のいつもの楽し気な喧騒も掻き消される。
終業式まで2週間、そんな7月のある日の事だった。
9月に行われる文化祭、と言っても合唱発表会の様な物かな。
今までは正直面倒臭くて適当にモブよろしくその他大勢に紛れて歌うだけだった。
その合唱の際に舞台に並ぶ生徒たちの後に飾られるホリゾント。
そこにクラスで発表する曲に合わせた絵をみんなで描きあげる。
先日その絵のコンペが有り見事選ばれたのが彼女―柴原蛍の絵だった。
彼女は去年までコンペに参加する事は無かった。
今年は中学最後の記念だからと言って思い切って参加したとの事だ。
それは素晴らしい絵だった。彼女の才能は芸術にまで及んでいるのか。
だけど以前の様に彼女に二物どころか両手で足りるかと言う才能を与えた神様を恨む事は無かった。
一緒に勉強した期間で彼女は才能に溺れず人一倍の努力も怠らない事を知ったからだ。
その絵は選曲した合唱曲のイメージを見事に表しており煌びやかな空の下、たくさんの人々が天を仰いでいる構図だった。
その中の一人に彼女の面影が有る人物も描かれていた。
そしてその隣で手を繋いで笑っている人は…僕?いや自分があまり特徴の無い顔なのは自覚しているのでただ単に無個性な"人"を書いた結果僕に似ただけなのだろう。
それにそんな事は今となってはどうでも良い事だ。
彼女は作者でもあるので製作リーダーに選ばれていた。
塾の無い日は放課後残って当番のクラスメート達と一緒に元絵の拡大作業を行っている。
勿論僕も当番の日は残るのだが塾の関係上すれ違いとなるのが歯痒かった。
「じゃあ豊川君また明日ね」
彼女は笑顔で挨拶してきた。
「うん柴原さんも頑張ってね」
その日の放課後、僕は塾の日だったので彼女を残して家路に付いた。
まだまだ日は高く刺す様な日差しの中を気怠く歩き家に帰ると母親が模試の結果が届いてると封筒を持って玄関までやって来た。
早く開ける様に促す母親に勿体ぶった態度で封筒をゆっくり開ける。
実際は怖さは有る物の感じた手応えから期待は大きくすぐにでも開けて確認したかったのだが、僕は本当に調子に乗っていたのだと思う。
中に入っていた二つ折りの通知書類を開くとそこに書かれていた難関○×川高校への判定結果は"A"だった。
先程の態度は何処へやらこの誇らしい結果に母親と抱き合うばかりに喜んだ。
―そうだ!まだこの時間なら彼女は学校に残っている筈だ!まだ塾が始まるまで時間が有る。すぐ学校に行って彼女にこの結果を報告しよう!柴原さん喜んでくれるかな?
そう思い立ち急いで用意をして家を飛び出す。
既に日が傾き空は茜色に染まり出していた。
彼女が喜んでくれると信じ息を切らせながら学校に向かって走った。
教室の明かりは点いており、まだクラスメートが残っている事が分かった。
「良かった!まだ残っている」
彼女はリーダーであるので責任感の有る彼女なら帰るとしたら一番最後なので間違いなく教室に居るはずだ。
そう確信して下駄箱に向かう。
靴を履き替えている時に汗だくで息を切らせている自分に気付き、このまま会うのも暑苦しいと暫くクールダウンをして息を整える。
手に判定結果の紙を持ち、今からそれを見た彼女の笑顔を想像して緩んで来る顔に活を入れつつ廊下を歩く。
もうすぐ教室の入り口に着くと言う所で、何やら声が聞こえて来た。
この声はリア充男子か?内容は…。
息を潜め教室の中を伺うと教室の真ん中に二人の生徒が立っていた。
一人はリア充男子、もう一人は柴原さんだった。
気付かれないように聞き耳を立てる。
「蛍ちゃん!いい加減あんな地味男に構うのは止めなよ」
その言葉に心臓がドクンと跳ねた。
「どうせ罰ゲームとかで嫌々やってるんだろうけどさ」
彼女は言葉を発しない。
僕の心臓はドクドクと激しく脈打ち出した。
「それに勘違いさせたらあいつが可哀相じゃん、最近のあの勘違いした態度と言ったらもうみんな大爆笑!」
ヘラヘラと軽薄そうに笑い出す。
それでも彼女は言葉を発しない。
暑さとは違う汗がダラダラと流れ落ちるのを全身で感じる。
「あんな面白味の無いジミーはほっといて俺と付き合いなよ。」
リア充は笑いながらそう言った。
「あんな奴と違って俺の方がカッコいいし優しいし絶対その方が幸せになるよ」
俯いてる彼女の顔を伺うと頬を赤く染め口許には笑みが浮かんでいた。
それを見て心臓が握り潰されたかのような感覚を覚えた。
そして彼女は顔を上げ、嘲った様な口調であの言葉を口にした。
「そうね、―」
その言葉に僕の体はビクンと飛び跳ねその場から逃げ出した。
頭の中はグチャグチャになり声にならない声を上げがむしゃらに走る。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
やっぱり僕なんかに優しかったのはただの悪ふざけだったんだ!
僕なんかに僕なん僕僕僕僕ぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!
二人で居ても周りが何も言って来なかったのはみんなして影で笑っていたんだ笑ってあぁくそくそくそくそくそ!
みんな死んでしまえ!みんな死ね!シネシネシネシネシネ死死死死死死死死ししししし!
脇目も振らず一心不乱に走る。
柴原さんはいや柴原は天使なんかじゃなく優しいとかじゃなく僕をからかってただけなんだ!
ビッチだ!あいつはビッチくそビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッチビッビッビッビッビィィィィチ!
上靴のまま校門を飛び出した。
入道雲が大きく空を覆いだしている。
雨の匂いが鼻を擽るがそんな事はどうでも良い。
もうだめだ!僕はもうだめだ!僕はもうだめだ!僕はもうだめだ!僕はもうだめだ!何であんな事をしたんだ!玉砕した奴の様にはならないとか言っておきながらもっと惨めな末路じゃないか!
最近の自分の調子乗った態度に対して今更ながら恥ずかしくなり激しい自己嫌悪に陥った。
頭の中がぐわんぐわんする。目は開けているのに周りの風景が入って来ない。
雨が降って来たのだろうか?
何かが全身を激しく打つ。
パップァァァーーー!
耳を劈く様なクラクションに我に返った。
突然の事に頭が真っ白になってその場に立ち尽くす。
音の方に目を向けると目前にトラックが猛スピードで迫っている。
視覚の端に映っている歩行者信号は緑に輝いていた。
えっ?何で?何で車が来るの?
金縛りにあったかのように体が動かない。
ガンッ!
体に衝撃が走る。
スローモーションの様に周りの風景が僕を置いてゆっくり流れていく。
―いや違うな、どうも僕は跳ね飛ばされているらしい。
ふと上を見上げると天井が見える。
―あぁ、あれは天井じゃなく地面なんだ。
全てから色が消え灰色の世界に一人取り残された。
頭の中には今までの思い出が浮かんでは消え、消えては浮かんでくる。
―これが走馬灯と言う物か。
しかし浮かんでくる記憶は本当に平凡な人生だったと言うのを痛感する。
体を捩ろうとしても動かない。
僕はどうしようもないまま地面に叩きつけられた。
その瞬間時間が動き出す。
「あっ、うぅ、あっ、…」
ダメだ…、声を出す事が出来ない。体が動かない。
ザーザーと滝の様な音が聞こえる。
―雨かな?さっき降ってたもんな?
その時遠くから誰かの声が聞こえて来た。
―誰だろう?分からない。
「…くん!……わくん!」
―誰だろう?
「豊川くん!死なないで!」
―あぁクソビッチだ。何を言っている。
「豊川くん!一緒に高校行くって言ったじゃない!」
―それはお前の罰ゲームだったんだろ?もうほっといてくれ。
柴原から離れようと体を動かそうとしたがもう体の感覚が無くなっている。
「死なないで!お願い…」
何かが頬にポタポタと当たる。雨かな?
僅かに動く瞼を開くと柴原の顔が見えた。
彼女は大粒の涙を流しそれが僕の顔に落ちて来ているようだ。
その顔は悲しみに破顔していつもの天使の様な面影は微塵も感じられない。
―何が悲しいんだ?何で泣いているんだ?
分からない。
―俺なんてただの罰ゲームの対象だっただけだろう?
それなのに彼女は泣きじゃくりその涙は僕の顔を濡らし続けた。
―ああぁ目の前が暗くなって来た。もう何も見えない。
相変わらずザーザーと言う滝の様な音が聞こえている。
その向こうで「神様助けて」と言う彼女の声が繰り返し聞こえてる。
どうも本気で悲しんでいるようだ。なぜなんだ?でも…。
―暖かい。
もう殆ど感覚が無くなっているのに顔に落ちて来る彼女の涙はとても暖かく感じた。
心の中のどす黒い感情が消えて行くのが分かった。
―もういいや。うんもういい。みんなのあこがれの柴原さんにこんなに泣いて貰えるんだ。あぁそれでもういい。どうせ死ぬんだ。
もうザーザーと言う音も聞こえなくなって来た。
何も見えない何も聞こえない何も感じない。
全てが暗闇だ。
―このまま死ぬんだ。
そう思って暗闇に全てを委ねた。
どれくらい経ったのか分からない。
一瞬の様な何十、何百年の様な…。
もう時間の感覚も無いようだ。
…ジッジジジ…
もう何も聞こえないはずなのに遠くからノイズの様な物が聞こえて来た。
…ジッ、ルマ…テムノ…シャクヨ…ジュ・・・ジジッ…
ノイズの奥に何か言葉が聞こえる。
…ジッ、カ…シス…ヲ…キド…ス…ジジッ…
その瞬間僕の意識は全て途絶えた。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
「…ト!…ルト!」
遠くから誰かが呼んでいる。
「クルト!大丈夫?」
ん?誰だ?僕を心配する声だ。
「んん、誰?柴原さん?」
あんなに僕の為に泣いてくれていた柴原さんかと思いその人物にそう声をかける。
「…………」
暫くの沈黙。
「はぁぁぁぁ?シバハラ?誰よそれ?」
その人物は大声で怒り出し…ってアッツい!
腕に激しい熱さを感じベットから飛び起きた。
そこに立っていたのは燃える指を突き出しながら顔を真っ赤にして怒っているリーナだった。
書き上がり次第投下します。




