5.彼女の真意
五話目です。
もう一作と平行して書いてます。
あの騒動のから暫くの後、男子ネットワークの情報が更新されていた。
どうも彼女の祖父は入り婿で、その家系は代々武芸百般を修める武道家の一族らしい。
彼女も小さい時から祖父の教え受け相当な腕前との事だ。
…なるほど、あの威圧感は気のせいじゃなかったのか。
いやいや、彼女主人公過ぎるでしょ!
設定盛りすぎて胸焼けするレベルにまでなっているよ。
なんかモブ過ぎる自分に少しでも能力を分けてもらえないだろうか…。
しかし男子ネットワークの情報収集能力ってなんか中学生の枠を超えているな。
そっちもそっちで恐ろしいものがあるわ。
彼女に勉強と手伝って貰いながら迎えた中間テストも努力の甲斐有ってかそこそこの点が取れた。
まだまだ目的の高校には遠いけどね。
でも手応えはしっかりと感じたよ。
そしてお待ちかね塾の実力テストの結果と言えば…5位と言う残念な結果に終わってしまった。
彼女とは2クラス離れているから早くて2ヶ月後か遠いなぁ。
彼女とは何回か塾が無い日の放課後に図書室で勉強をした。
周りの生徒は羨ましそうに僕らを見ていたが先日の騒動で若干彼女との距離を取っている生徒も増えており、遠巻きに見るだけで誰も邪魔してこなかった。
僕も正直あの時の彼女がすごく怖かったけど、彼女の笑顔を見ているうちにどうでもよくなった。
たまに男子からのやっかみや男子ネットワーク調査委員会からの尋問等々は有ったけど、誰もモブの俺と彼女が付き合うとか言う発想は無く、受験生として勉強に燃える彼女が同じ高校を目指している出来の悪いペットを躾けている程度にしか受け取っていないようだ。
それにしても本当に彼女は何故僕のような何の変哲も無いモブなんかを相手にしてくれるのだろう?
もしかして自分より下の人間を近くに置く事による優越感を味わっている…?
いやいやあの誰にでも優しい完璧超人に限ってそんな事は…。
ネガティブな考えを心の奥に押し込んで、不思議に思いながらも口に出したら終わってしまいそうな束の間の幸せに身を任せていた。
塾が無いある日、またまた二人して図書室で勉強していたらその日は興が入り過ぎていたようで下校時間の放送が流れた。
「げっもうこんな時間?集中すると時間が経つのは早いなぁ」
「フフッ、すごい集中力だったね。ずっと見てたのにまるで気付かないみたいに…」
そう悪戯っぽく笑いながら彼女は言ってきた。
なっなにを言ってるのか!柴原が僕の顔を見ていた?
「えっ?あ、あいや、そ、そんな…」
あまりの事に頭が追いつかずどもりまくる。
「フフフ、冗談よ。でもほんとに本気なんだね勉強」
なんだ冗談か…。そうだよね。
「ひどいなぁ、そりゃ一度決めた事に対して男に二言は無いよ。」
一緒に彼女と同じ高校に行くんだ!
「君と一緒の…いやゴニョゴニョ」
あっ心の声が漏れてしまった。
顔を真っ赤にして焦る。下心丸見えなのがバレたか?
ただの気紛れの親切から手を焼いただけのこんなモブ男に思い寄せらたと知られたら気持ち悪いと思われても仕方無いよな。
終わった…、終わってしまった…。
この楽しかった日常も今日で終わりだ。
舞い上がって本音をポロリと言ってしまった愚かな自分に後悔しながら短かった幸せの終わりに絶望した。
「豊川君も冗談が上手いのね」
彼女はおかしそうに顔を綻ばせた。
ん?アレ?冗談と思われた?もしかして好いた惚れたとかそんなレベルに満たしてないほど僕への認識は低いのだろうか?
その扱いに軽くショックを受けながらも彼女にキモがられなかった事に安堵する。
「今日は塾もないし一緒に帰りましょうか」
「え!」
「嫌だった?」
「そ、そんな事ないよ。ちょっと待ってすぐに準備する」
突然の彼女の誘いに驚いてしまった。
何度か図書室で勉強した事は有ったが一度も一緒に下校した事は無かった。
彼女からの誘いは当たり前だが、僕から誘うなんて事も気弱な僕にはそんな事到底出来る訳がない。
いつもは時間が来るとなんと無しに解散してそれぞれ別々に帰っていた。
帰る準備を終え図書委員に挨拶して一緒に図書室を出る。
なぜ?どうして?色々と疑念が浮かんで来ては彼女との下校の楽しさに消されていった。
「柴原さんってバラエティ番組とか見るんだ…。」
「えっ?そりゃ見るよ。普通に年頃の女の子だもん。今は勉強で見る暇があまり無いけどお笑い番組とかよく見るよ?笑点とか」
年頃の女の子がお笑いで笑点ってのはどうかと思うがまぁ普通にテレビ見るのか。
「へぇ~意外だなぁ。笑点なら僕も良く見てるよ」
実際によく見てる。あの小気味良い噺の応酬は台本が有るとかやらせとか色々と言う人も居るけどそれがどうした。
元々落語だって台本の下に成り立ってるんだからそれと同じと思えば良いんだよ。
「最近男子の間で私がなんかどんどん変なイメージで語られていっててちょっとうんざりしているの」
彼女はため息をつきながら顔を伏せた。
「ご、ごめんなさい…」
うわっ彼女を怒らせてしまった!しかし彼女がそんな風に思っていたなんて。
「ううん、良いの。だから小路君みたいな物怖じせずに話しかけて来る人は結構貴重だったのよね」
ガーン、ハイ終了。オワタオワタ…。
急にリア充男子の名前が出て来て、やはり僕の事なんて男として見られて無い事を痛感する。
この下校も遠回しにこれ以上付き纏うなと言う最後通牒だったのか。
はぁ~この幸せと思っていた日常も終わりか。
何も言えず死刑台に送られる囚人の様な面持ちで歩く。
もうこのまま走って帰っちゃおうか…そんな事思っていると、
「と言っても、私あの軽いノリは苦手なんだけどね」
「え?なんて?」
「彼は色んな女の子に対してあんな感じであんまり信頼出来ないっていうか、ちょっとね…」
彼女は何が言いたいんだろう?彼女の真意が分からない。
と言うか彼女が特定の人間を指して悪口を言うのを初めて聞いた。
「あっあっ、そうなんだ。ははっ」
現金な物で彼女の考えている事は分からないけど、リヤ充男子が好きなわけじゃないってのを聞いて元気が戻ってきた。
そんなこんなで色々と楽しく世間話をしながら歩いていると急に彼女が立ち止まりある一点を見つめだした。
何を見ているのだろうと僕も目をやると少し離れたところにある林を見ているようだった。
ああ、あの林って昔野犬の住処になっていたなぁ。
小さいころ何回か追いかけられたことがあって怖い思いをした事を覚えている。
いつの間にか居なくなったけど多分保健所に連れて行かれたんだろうな。
「ねぇ?覚えてる?」
不意に彼女がそう言った。
「えっ?何を?」
なんだろう?野犬のことかな?
「ううん、なんでもない」
彼女は少し苦笑した感じで首を振ってそう言った。
「私の家、こっちだからここでさよならね」
「家まで送ろうか?」
あっしまった!また身の程知らずな台詞を言ってしまった。
「大丈夫よ!もう野犬なんて居ないんだから、また明日学校で」
「そうだね、じゃあさよならー」
良かったキモがられて無いようだ。
あとやっぱり『覚えてる?』ってのは野犬の事だったか。
あれは怖かったもんなー。
あーそう言えば一度野犬に噛まれて大怪我したことがあったなぁ。
いまでも腕に傷が残っている。
もしあの犬が狂犬病だったとかなら今頃死んでたと思うと背筋が冷える。
なんで噛まれたんだっけ?
なんか怖すぎてそこら辺の記憶が曖昧なんだよなぁ、まぁ良いか。
そんなことを考えながら、今日と言う天からの贈り物のような出来事に心を弾ませ家路に着いた。
現代パートは後一話で終わる予定です。




