2.村人A倒れる
二話目です。
うーん昨晩夢見が悪くて朝から憂鬱だ。
今日はおとなしく宿屋の店番でもしておくか。
そう言えば、うちの村の裏山、ブラヌ山の中腹に昔世界を救った勇者様が立ち寄り神様から神託を承けた言われる祠が有るんだ。
祠と言ってもなんか大きな石が円を描いて配置されているだけと言う感じだけど。
その他にも勇者様が休息の際に水を飲んだ泉…と言われる沼や、腹ごなしを行った果実の木…と言われる枯れ木等の胡散臭い言い伝えの場所も有ったりする。
胡散臭いとは言え、それでも俺の小さい頃は勇者様にあやかろうと観光名所としてお客は来ていた。
森が開放されて平和になった今じゃそんな客もめっきり減って、ソルダス王国から峠を越えて来て一息つきたい旅人や森に向かう冒険者とかがそれなりに。
解放されたんで魔物が滅多に出なくなったから今は森の資源採取目的で行く人が多いかな。
昔は重そうな鉄製の鎧を着てデカい武器を携えた厳つい冒険者ばかりだったけど最近じゃ軽装な皮鎧な人が多い。
中には普通の服に籠を背負っているなんて人も居るくらいだ。
しかし最近王国間の街道が大改修され、うちの村の近くの峠から1日程離れた所に新たな峠道が開通してしまった。
元々近くの峠は道幅が狭く馬車ですれ違うのにもギリギリだったしステュリ大森林のせいで魔物の出没も多く商人たちの間から改善要望が出ていたんだ。
そこでフランダール王国とソルダス王国の王が共に立ち上がりステュリ大森林へ軍隊や冒険者を派遣して
見事森を開放したのだった。
当時はすごく喜んだんだけど解放されてからは一気に村への客が減ってしまった。
さらに悪い事に新街道に近い小さな町は開発の梃入れで結構大きな宿場街に様変わりした所為で、旧街道となってしまった峠の近くの大した娯楽も無いうちの村の需要が無いなんて事は子供でも分かる当然の結果だ。ちくしょうめ。
さっき客がそれなりって言ったけど、うん訂正。
最近じゃ一週間に数組来たら大繁盛、下手すりゃ一組有るかどうかってくらいお客が減っている。
やばい!これすごくやばい!
間違いなく俺が継ぐ前に宿屋潰れちゃうよ。
あっ多分リーナのところの雑貨屋は大丈夫。
品揃えは保存食や旅の道具、後は日用品とかで殆ど自作メインな上、他の商品の仕入れもガツガツやっていないみたい。
おっちゃんは店番をおばちゃんに任せて昼間自分の畑耕して自給自足しているしね。
それに国境の近くなんだから泊まる客は無くとも旅の準備は大切なんでアレ買い忘れたーとか途中で手持ちが切れたーとか需要は有ると思うんだよね。
うちは宿泊の他、客への食事とそれの買い出し等色々とやる事が有るので親父と母さんと俺な少数先鋭の家族構成じゃ畑で自給自足なんてとてもとても。
夜に酒場を開くとかも考えたけどそんなことをすると外からの客より村民達のたまり場になるのが目に見えてるし、村内では普段基本物々交換上等主義なので酒代の代わりと作物やら山から採取したあれやこれやが積み上げられていくのが想像出来る。
そんなもの売りに行くのも大変だし酒の仕入額割っちゃってあっという間に破産だよ。
金勘定が出来るから雑貨屋のリーナと結婚して雑貨屋を継いだら良いって?
いやいやリーナはアレだよ?
いつもいじめてくるし俺の事が嫌いなんだろう。
結婚以前にその内殺されるんじゃないかと思っている。
物理的では無くとも俺の心労とか神経的なそんな感じで。
あれはベンに譲ろう。うん。
俺としてはおしとやかで優しい俺の事を立ててくれる女の子が好みだな。
たまに夢で見る、見た事も無い場所で見た事も無い無い服を着た、けれどどこか懐かしい様な気がする名前も知らない可愛い女の子。
穏やかにほほ笑む彼女。明るく元気な彼女。たまに拗ねた顔も可愛い。
そんな夢を見た時はすごく心が温かい。
おそらく俺の理想の女性像が夢として現れているのだと思う。
ただ昨晩のように時々夕日の中、頬を染めながら彼女を少し離れた場所で眺めている夢を見る時がある。
暫くすると彼女はゆっくりと顔を上げながらいつもの彼女とは違う少し嘲り気味な口調で、
『そうね…』
その言葉を聴いた瞬間、心が張り裂けそうな程悲しい気持ちでベッドから飛び起きてしまう。
頬に涙が伝い、酷く呼吸が荒い、心臓もドクドクと波打っている、そんな日は一日中憂鬱だ。
そんな日は、弱った俺を見逃さない捕食者がこれ幸いと手を突き出して追いかけまわされるので更に憂鬱だ。
その他にもたまに知らない言葉や見た事の無い場所が頭に浮かんでくる時が有る。
昔はその事を周りに喋ってたりしたけど、馬鹿にされたりしたので今はそんな事が有っても黙っている。
うーん、でも最近ちょっと増えてきた気がするな。宿屋が廃業するかもしれないストレスで疲れているのかも。
将来は読み書き計算の能力を生かして宿場街の商店にでも働き口を探すかな。
そんな事を考えながら宿屋のカウンターで一人憂鬱なまま椅子に座り机に肘をつく。
親父は宿場街へ買い出しに行ったし、母さんは裏で洗濯でもしてるだろうか。
昼過ぎのこの時間帯はチェックアウトもチェックインも一段落ついて凄く暇だ。(今日は両方無かったけど)
あまり暇なので村の入り口まで気晴らしに散歩でもしようか。
勿論リーナに見つからない様に気を付けないと。
うん今日はいい天気だ。ただの夢で気を落としてても仕方無い。
体を伸ばしたりしながら村の入り口まで歩いて行くと峠の方から慌ててやってくる人影が見えた。
目を凝らしてみると服装は旅人風の軽装な出で立ちの若い男のようだった。
よし!お客さん候補っぽい!
男はこちらに気付いたらしく安心したのか後ろを確認しながらも歩幅を緩めた。
うーんなんだろう?行商人でもなさそうだし冒険者としても武器も無く軽装だ。
もしかして新街道が出来た所為で巡回の兵士も最近減って来てるし盗賊でも出たのかな?
魔物なんかはここ数年姿を見せないし。
どちらにしてもそれは宿屋として見逃せない由々しき事態だ。
そんな噂が広まったら更に客は減っていくよ。
村長に報告して領主さまへ討伐の上告をして貰わないと。
なんて事を考えている内に男が村の入り口まで到着した。
おっといけない、取り敢えずはお客様候補だ。営業スマイルスマイル!
「いやー峠でひどい目に有ったよ。無事に着けて良かった。すまないが村長に会わせてくれ」
その男は手拭いで汗を拭き疲れ顔ながらも安堵の表情を浮かべ、少し早口でそう言ってきた。
ひどい目と言うのが凄く気になるけど取り敢えず笑顔で今まで何十回?いや何百回言ったかな?そんなゲームに出て来る村人A所謂モブ臭い台詞を口にする。
「ようこそここはテール村。村長の家はこの道をまっすぐ行ったところですよ」
ん?ゲーム?村人A?モブ?あぁまた訳の分からない物が頭に浮かんできたな。
そう思った瞬間激しい頭痛と強烈な眩暈で目の前が歪む。
意識が薄れ倒れそうになった時、視界の端に必死な形相で駆けて来るリーナが映った。
ああ捕食者に見つかった。熱いのは嫌だなぁ―
そんな事を考えながらそのまま倒れ俺は意識を失った。




