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私は、生まれつき勘の鋭い子供だった。
幼いころから、なんの前触れもなくめまいに似た症状が訪れることがよくあった。ときには、“めまい”と一緒に白昼夢のような映像を見ることもある。そして、その夢は、かなりの確率で現実になった―――。
子どもの頃は、自分の勘の良さを特別だと思ったことはなかった。
平和な田舎での暮らしである。せいぜい、「○○ちゃんが、今度のマラソン大会に優勝しそう」だとか、「明日の遠足は、雨になる」といった程度のことであれば、はた目にはただの“予想”と区別がつかない。
祖母も勘が良かったので、それが当たり前のことだと思っていた。
だが、少し物事が分かる年齢になると、この“勘”は人を不快にさせるものだと理解するようになる。いや、理解せざるを得なかったというべきか。
特に、良かれと思って怪我や病気について教えてあげると、喜ばれるどころか逆に不気味な目で見られた。
そのころには、亡くなった祖母がどこかの神社で巫女をしていた家系なのだと知った。
母にはその力は受け継がれなかったが、このことは家族以外には内緒にしようと約束した。
それからというもの、たった一度をのぞいて、私はその約束を今日まで守って生きてきた。
「あなたには、危険を察知する特殊能力がありますね。その力を私たちに貸していただきたいのです」
ルークの言葉を聞いたとたん、頭が真っ白になった。
なんで、それをシッテイルノ? という問いが頭の中をくるくるまわる。
「な、なんのことをおっしゃっているのか、わかりません」
ようやく音になった声は、かすれていた。
「あなたが、その力のことを隠したがっていることは、わかっています」
ルークが背広の内ポケットから、一枚の折りたたんだ紙を取り出した。古い新聞のコピーだった。
「我々はこの記事を見つけて、アメリカまで行ったのです」
広げられた英字新聞には、まだあどけなさの残る男の子の顔写真が、大きく掲載されていた。
私は、その男の子を良く知っていた。
ジェイクというその少年は、過去にたった一度わたしが秘密を打ち明けた相手。
そして、その後に起きた騒動のことは、思い出したくもない。
「実は、あなたのことを探し出す前、この少年――といっても、もう大人ですが、彼に会って話を聞きました」
「な、なんでそんなこと!」
思わずルークを睨み付ける。
いったい何の権利があって、そっとしておきたい人の過去を暴こうとするのか!怒りがふつふつと沸き起こる。
「気分を害してしまったのでしたら、申し訳ありません。あなたを傷つけるつもりはなかったのです。あくまで、事実を確認したかったので」
「―――そんな新聞記事、本気にしているんですか?」
「写真の彼によると、ほとんどがでたらめの中傷記事だそうです。でも、あなたの力については本物だと肯定してくれました」
「……」
「それから、彼は、あなたに謝りたいともいっていました」
「えっ!」
「あの時の自分は子どもで、考えがたりなかった。助けてくれてありがとう、とね。もし許してくれるなら、会いに来たいそうですよ」
!
目元がじわっ熱くなるのを感じた。
ジェイクは、高校生の私がアメリカに留学したとき、ホームステイでおせわになった家の子どもだった。
当時の私は16歳、ジェイクは10歳。弟ができたようで、すぐに打ち解け、本当の兄弟みたいに仲良くなった。
私の英語が急速に上達したのも、ジェイクと一緒に遊んだおかげだと思う。
けれど、もうすぐ一年の留学期間が終わるという頃になって、ある事件が起る。
ひどく打ちのめされた私は、もうそれ以上その家に留まることができなくなり、逃げるように日本に帰国したのだ。
特に、あれだけ仲が良かったジェイクから拒絶されたことがショックで、帰国してからしばらくのあいだ、食事も喉を通らなかった。
家族のおかげで立ちなおった今でも、記憶に蓋をしてその時のことはなるべく思い出さないようにしているのだ。
それも、例の「勘」が引き起こした事件だった。
それ以来、私はその良すぎる「勘」のことを、ひときわ人に悟られないように行動してきた。今日の今日までは―――




