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王子様は、SPがお嫌い  作者: リアルブリッジ
2/12

1-1

大幅に修正しました。2018・06・25

なんと、国を変更しました。


話は2か月前、もう少しで梅雨が明けるという時期にさかのぼる。


 私、前田理沙は今年で27歳。東京で中規模の出版社に勤めている。


高校生の時、一年間アメリカに交換留学をしたときに、本格的に英文学に触れ、日本の大学ではその英文学部を卒業。23歳のときに今の出版社に就職して、5年目になる。


念願かなって配属されたのは、主に海外出版物の版権や、その翻訳書の出版を取り扱う部署だった。これぞまさに、願っていた夢の仕事。

思えば、小学生の頃から世界名作文学にはまり、長年にわたって翻訳書を読みあさっていた私は、毎日の残業も、休日をつぶしての市場調査と題する読書をするのもまったく苦にならなかった。


その日も、軽めの残業を終わらせ、同期入社の友だちと軽く食事をしてから帰途についた。


会社から電車で40分ほど離れた単身者向けマンションに帰り、エントランスの鍵を開けようとしたところだった。


「すみません。前田理沙さんですか?」

 背後から声がかけられた。

 

振り向いた私はぎょっとした。

 いつの間にか、すぐ後ろにスーツ姿の男が立っていた。すらりとした体格に、柔らかなカーブを描く金髪。彫りの深い顔に、蛍光灯の下でもわかる色素が薄い瞳。顔はにこやかに微笑んでいた。

 なにかのハリウッド映画に出ていましたか? というレベルの美形外国人だった。

 

 えっと、状況を整理しよう。ここは住んでいるマンションの玄関ロビー。

で、私は、仕事から帰ってきたところ。


でも、この人、今、私の名前を呼ばなかった?


 その瞬間、首筋にぞくぞくっと寒気が走り、こめかみがズキンとした。

 

 これ、やばいヤツだ。


「違いますけど」

  私は早口で言い、素早くカードキーを使ってセキュリティドアをくぐった。


 まさか、否定されるとは思ってもいなかったに違いない。男は呆気にとられた様子で固まっていたが、やがて我に返り「ま、待ってください!」と、呼びかけた。

が、私はすでにガラス扉の反対側。男の声を無視してエレベーターの中に入るところだった。


 私の勘は当たる。

 今のは、厄介事に違いない。

 

 念のためエレベーターを3階下でおり、自分の部屋まで階段で登る。エレベータのランプから、住んでいる階が知られないようにしたいからだ。


 日ごろの運動不足がたたって、ぜいぜい言いながら階段を登っている私は、そのときの階下でこんな会話がくりひろげられているとは知る由もなかった。



「な、なんで…」

 誰もいなくなったホールで先ほどの金髪の男が呆然と立ちすくんでいた。去っていく背中に向って伸ばした右手が、目的を失ってむなしくゆれた。


そのとき、どこからかぷっと笑う声がもれた。その笑い声はますます大きくなる。


「してやられたな。まさか、即座に否定して逃げるとは思わなかった」


 フランス語に似た響きの言葉が聞こえたあと、笑い声の主が柱のかげから姿を現した。


栗色の髪に、日焼けした肌、鋭い眼元。ラテン系という言葉がぴったりの外国人だった。その顔は笑いで歪んでいる……


「例の力が働いて、我々を避けたのでしょうか?」

 金髪の男がまだ信じられないといった表情で尋ねた。

「それは、わからない。なにしろ、情報が少なすぎる」

「しかし…」

「フン、女にフラれたことがショックなのか? そういえば、お前に声をかけられて逃げた女は初めてかもしれないな」

「そういうわけではありません!」

「そうむきになるな。夜、いきなり知らない人間に声をかけられたんだ。家も名前も知られていることに警戒してもおかしくない」

「―― そうかもしれませんね。次回はやりかたを変えましょう」 

「そうだな。それにしても、さっきのお前の顔ときたら。くくくっ」

「ちょっと、笑い事じゃありませんよ」

 その言葉を最後に、二人はさっとその場から立ち去った。その数分後、近くの路上から青いナンバープレートをつけた黒塗りの車が静かに発進したが、見た者はいなかった。



「あの人、日本語しゃべってなかった?!」

 お気に入りの缶チューハイを飲んでフーッと息をついた私は、少し落ち着いてから先ほどの一件を思い返していた。


 ここは1LDK の賃貸マンション。一目ぼれして購入した二人掛けの赤いソファに背を預けて、缶を口に運ぶ。


 仕事関係の人だろうか。

 

 嫌な予感がしたかたとっさに逃げちゃったけど、まずかったかなぁ。

 いや、仕事だったらまず会社を訪ねるはずだよね。見たこともないほどイケメンだったけど、きっとセールスとか詐欺とか、ろくでもない何かだよ、うん。


 でも名前と住所を知られていたのは怖いなぁ~。


 う~ん、う~んとしばらく考えたけれど、テレビをつけるとたちまち嫌なことは頭から消え去っていった。



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