第五話《 初めてのお願い事 》
あらすじ:シグルスティア・リーンハルトの固有スキルは生命を壊す恐ろしいものだった。
追い打ちをかけるようにシグの目指す夢、医療魔術師になるための《聖》属性すら使えないと告げられてしまった。
僕シグルスティア・リーンハルトはもうじき四歳になります。
子供の頃に掲げた将来の夢ってだいたい大人になる頃には違う夢になってるかして叶わないって思ってた。まったくその通りだ。
実際僕の掲げた夢は欠片もなく消え去りました。
僕の夢は母さんのような医療魔術師になることでした。
この世界には魔法という神の授けてくれた力があります。
あんなのが授ける力と言われると胡散臭さを感じるけど、実際素晴らしい力です。
母さんの仕事ぶりを見てそう思いました、だからこそ本気で思ったんです。
母さんのようになりたいと。
夢が崩れた事は想像以上に辛いものでした。
想像以上ってのは言葉の通りで、僕は前世でも夢が崩れたことがあります。
前世でも夢を本気で目指していました、崩れた時だって辛かったのは覚えています。
それでもここまでじゃあなかった、あの時は高校生だったからまだメンタル面でも何とかなった。
「でもさあ、四歳で夢潰れるって・・・。」
母さんが言うにはおそらく僕の得意魔法属性は《闇》属性らしい。
そして《闇》属性が適正の者は《聖》属性の魔法が一切使えないデメリットがある。
これは逆も言えることだそうで母さんは《闇》属性の魔法が一切使えない。
初歩の初歩ですら。
まだ自分で調べた事はないし信じたくないって気持ちはある。
でも調べるのが怖い、本当に可能性がゼロだったらって考えると吐きそうになる。
そのうえ《闇》属性は《聖》属性とは違い研究が進んでない、適正があってもわかる魔法が少ない。
デメリットだらけでメリットがない、不遇属性。
「こんなのってないよ、なあ神様。」
ここ最近部屋から出ていない。
せっかく庭までなら自由に外出が許されたのに、植物に触れるのが怖くて外に出られない。
僕、これからどうするんだ?
魔法は不遇な《闇》属性、体力は平均以下で剣技も期待できない。
この世界でどうやって生きていけばいいんだ。
植物に触れられないなら農業も駄目、それどころかもう母さんに触れられないかもしれない。
ダメだ、出したくもない涙が出る。
「シグルスティア様?晩ご飯のご用意ができましたが、・・・そうですか。」
首を横に振った。
何も食べる気がでない、ごめんなさいジェイナさん。
このまま何も食べずに死んでしまうのかな、それもいいかも、な。
「シグ?ちょっといいかしら。」
「・・・なあに、お母さん。」
母さんはあれからたびたび顔を見に来てくれる。
あれから母さんも元気がなさそうだ、自惚れてるわけじゃないけど母さんは僕が大好きだ。
その僕がこんな調子なのだから、母さんの元気もなくなってしまうだろう。
申し訳ない。
今日、母さんは高そうな壺を持って僕の部屋を訪れた。
「それは?」
「これは霊水。」
蓋を開けると中には水が入っていた。
なんで壺?水を飲むには流石に大袈裟だよな。
「不思議な水でね、色々な薬草が混ぜ込まれているの。魔力に反応して色を変える、これで得意属性がわかるの。」
「そ、そうなんですか。」
これで僕の運命が分かるってことか。
こんな水一つで運命が決まるのか、恐ろしいな。
「・・・、ちょっと母さんがやってみるわね。指先に魔力を集中させて、水に入れる。」
母さんが指先を霊水に入れるとうっすらと色が変わっていく。
2、3分経つと色がうっすらとした黄色になった。
これが《聖》属性の適正の色なのか、思ったより色は変わらないんだな。
父様やジェイナさんがやったら色はまったく変わらないのだろうか。
「お母さんの、これでも結構変化している方なのよ?変化しにくくてわかりにくい、だからあまり実用的ではないの。」
「さ、参考までに、他はどんな色になるんですか?」
少し母さんが微笑んだ気がした。
「《火》は赤色、だいたいピンク色で止まっちゃうけど。《水》は青色、変化が一番分かりづらい。《土》が茶色で《風》は緑色。」
だいたいイメージ通りの色になるんだな、ん?じゃあ《雷》属性は何色になるんだ?
イメージ的には黄色だけどそれじゃ《聖》属性と被るよな。
「《雷》はね、ちょっと特殊で黄色く変色した後点滅するの。はっきり点滅するからわかりやすいわね。それで《闇》属性は__・・・。」
「大丈夫です、教えてください。」
このままうじうじしていても前に進めないしな。
まだ絶対に《闇》属性が適正とは決まってない。
「《闇》属性は紫色に変化する。たぶん一番わかりやすいわね。」
「・・・(ゴクリ)」
これに指先を入れれば全部わかるんだ。
俺のこれから先の未来も、何もかも。
「・・・怖い?」
「う、うん。」
正直に頷いた、そのほうが楽になれる、そんな気がしたから。
「大丈夫よシグ、貴方がどの属性に適合だったとしてもそれで貴方の全てが決まるわけじゃない。シグルスティア・リーンハルトは私の子供よ。」
そう、そうだよな。
俺は母さんと父様の子供だ、どんな属性でも。
でも後一歩、後一歩が踏み出せない。
「・・・。霊水は5分程度で元の色に戻るの、シグなら固有スキルで魔力を纏ってる状態だと思うからそのまま腕を入れれば反応が出るはずよ。」
それだけ言うと母さんは霊水を置いて部屋を後にした。
「魔力に反応して変色する水、か。」
黄色く変色しているのに僕の顔はしっかりと反射している。
ちゃんと映るもんだな、透明だ。
僕がどの属性に適合だったとしても僕の全ては決まらない・・・か。
そうだよな、決まったわけじゃない。
「よしっ!」
水が透明な色に戻ったのを確認すると僕は思いっきり右腕を肘あたりまで突っ込んだ。
冷たい、感覚はただの水だな。。
ドロッとしてるわけじゃない。
腕を入れた瞬間水が真紫色に変わる。
やっぱり、か。
期待していたわけじゃないけどショックだな。
「!?」
そう思った瞬間どんどん濃くなり水が真っ黒に染まった。
こんなに反応するものなのか?
僕の適正属性は《闇》属性、そして不適正属性は《聖》属性。
決定だな。
「クソっ!」
結局そうか、僕は母さんの様にはなれない。
医療魔術師にはなれないんだ。
「クソっ!クソっ!」
なんでなんだよ、なんで僕なんだよ神様よお!
何が固有スキルだ!こんなのに浮かれちゃって、かっこいいとか思って馬鹿みたいだ!
なんだよこの腕!クソ!クソ!
僕はベッドに何度も腕を叩きつけた、何度も何度も。
痛めつけるように何度も何度も、何度も。
痛い、痛い。
腫れまくってもう痛みなんて感じないはずなのに、心が痛いんだ。
「痛いな、クソおおおおおおおおおおおお!こんな腕っ!!!」
・・・腕?
なんで僕、腕を痛めつけてるんだっけ。
この手で触れた花が死んだからか?
この右手で・・・。
待てよ?
「そうか・・・もしかして!?」
それからシグルスティア・リーンハルトの部屋は急に静かになった。
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「おはようございます。お母さん、ジェイナさん。」
「し、シグルスティア様!?お体は大丈夫なのですか?ああ、こんなに腕を腫れさせてしまって。」
なんの躊躇もなく僕の腕に触れてくれる。
「あの、危ないかもしれませんよ?」
「そんなの関係ありません!もう!自分のお体は大事にしてくださいね。」
手際よく手当をしてくれた、この人にはいつもいつも世話ばかり掛けさせちゃってるな。
「おはよう、シグ。」
「奥様もなんとか言ってあげてください、シグルスティア様のお体は一つしか__」
「あの!お母さん。僕、もうすぐ誕生日ですよね。」
「え?ええ、そうね。ふふ、誕生日プレゼントの催促?」
母さん、元気出たみたいだな。
僕の表情からなんか感じ取ったのかな?
「はい!そうです。図々しくて申し訳ないのですが欲しい物がありまして、もしかしたら高いものかもしれません。」
「図々しいなんて、そんなわけないでしょ?考えてみればシグがお願い事をするなんて初めてね、何が欲しいの?」
「魔力を押さえ込める布とかで出来た腕ぐらいまで包める手袋みたいなの、ありませんか?」
これが僕の人生初のお願い事だ。
シグはなにやら思いついた様子ですね、彼の思惑がわかるのは次回になります。
次回:ロイズ・リーンハルト 9/22日19:00予定