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史上最強の医療魔術師《ヒーラー》  作者: Eve
第一章 幼少編
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第四話《 固有スキル 》

あらすじ:なんとゆうことでしょう!シグの触れた花が真っ黒に枯れました、これには匠もびっくり!


何が起きたのかわからない。

急に右腕が黒く光ったと思ったら身体がだるくなった。

重たい、今にでも倒れてしまいそうだ。

なんなんだ、ただ変な形の花に触っただけなのに。

うっすらと目を開ける。


(なんだ?これ・・・。)


僕の右手に握られた花は、花であったものは、醜く形を変え黒く染まっていた。

異常ではないくらいに、手が震える。

これ、嘘。

僕が?僕がやったのか!?


「シグっ!!!」


母さんが焦った様子で走ってくる。

僕を抱き抱えるとその場から離れるように後退した。

指の感覚がなくてあの黒い花を落としてきてしまった。


「大丈夫!?なんともない!?」


「は、はい。ごめんなさい。僕、何が何だかわからなくて・・・。」


酷く怯えている、一体何が起こったんだろうか。

母さんは僕がなんともないことがわかると、安心した様子で僕のもと居た場所へ恐る恐る近づいていく。

一緒に行こうとも思ったが身体に力が入らず無理だった。

その場に座り込んで母さんの様子を眺めるだけで精一杯だった。


母さんはゆっくりとしゃがみこむと、真っ黒な花とも言えない何かを拾った。

おそらく、僕がそうしてしまったであろうウズマキ草だ。

母さんはそれを見て訝しげな表情を浮かべた。

そのまま注射器のような物を取り出すと、僕も聞いたことのある魔法を唱えた。


即時全回復キュアオール


《聖》属性の回復魔法だ。

上級の魔法の一つだと母さんが教えてくれた。

なんでも対象者の体力を一瞬で最大まで回復させる魔法だそうだ。

怪我や骨折なんかも簡単に治るらしい、凄い人だと腕を切り落とされても治せるんだそうだ。

ピッ○ロみたいだと思ったのを覚えている。

しかしそんな上級魔法はカラ撃ちに終わった。


「死んでる・・・。」


母さんはボソリと呟いた。

僕にでもわかった、回復魔法で治らないのなら一つしかない。

死んでいるのだ、あの花は。

この世界には死者を生き返らせる魔法もある。

対象者の寿命を消費して生き返らせる神のような魔法、『蘇生魔法リザレク

とは言ってもこの魔法はそもそも使える者が少ないうえに強力過ぎるが故、一般人ではその負荷に耐え切れず身体が消滅してしまうらしい。

もう一つ、死者をゾンビとして蘇生する魔法もあるらしいが、これは母さんもよくは知らないらしい。

どうしよう、母さんなんとも言えない表情してる。


「あの、お母さん?」


母さんはこちらを向き、僕を見ると悲しげな表情をした。

ああ、ダメだ。

自分を責めている時の顔だ、あの時と同じ。

前世でも母親をこんな顔をさせてしまったことがある。

そしてまた僕は、大切にしようと決めた人に。


「ごめんなさい、シグ。ごめんね、怖かったね。」


僕を強く抱きしめると呟いた。

顔は見えない、でも今も同じ顔をしているのだろう。

身体が震えている。

なぜ謝るのかはわからない、僕のこの力が母さんをこんな顔にしてしまったのだろうか。


「お母さん、僕は大丈夫、ですよ。」


不安にさせないようにできる限りの笑みを浮かべる。

うん、少しだが和らいでくれた。


「シグ、帰りましょうか。」


「はい。でも、ごめんなさい、お母さん僕__」


もう力が入らなくて。

言い切る前に僕は体力を使い果たして、意識を失ってしまった。



-----------------------------------



なんだ、ここ。

真っ白になったり真っ暗になったりを繰り返す何もない空間。

目がチカチカする。

それになんだか気分も悪い、こんな空間にいれば悪くもなるか。


空間が真っ白に固定されるとそこに人影が現れた。

黒いローブを着た身長三メートルはありそうな顔の見えない人型の何か。

両腕は真っ赤で地面に手のひらがピッタリついている程長い。

どこのモンスターだよ。


「やあ、久しぶりだねぇ。」


キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!


「なんだい、それ。」


なんだ聞き覚えのある声だな、何の様だよ。


「敵意むき出しだなあ、別に? ただ女の子の代わりに死んでくれただろう。」


ん、まあそうだな。

そうだ、あの子ちゃんと生きてるんだろうな。


「うん?ああ、生きてるよ、ちゃんと。本当は人の生死について教えるのはダメなんだけどね、君に教えなかったら流石の僕にもバチが当たってしまうよ。」


誰がお前にバチなんて与えられるんだよ。

神なんじゃなかったのか


「そのお礼がまだだったなと思ってね、どうだい?何か願い事とかないかい?」


お礼?お前そんな律儀なやつなのか。


「人を声で決め付けるのはどうかと思うよ。まあ、人じゃなくて神だけど。」


「実は、あれはとてもイレギュラーな事態でね。正直僕も困っていたんだ、助かったのは本当だしね。」


「それに君も大変そうじゃないか、新しい方の人生も。」


余計なお世話だ。

ああそうだ!なんだ今日のあれは!

お前の仕業か?お礼かなんだか知らないが余計なことしやがって。


「ん?違う違う、言っただろう。僕は人の人生には干渉しない、それは君が勝ち得た能力さ。」


ああ、そうなのか?


「君に力を与えたのなら願い事なんて聞かないだろう。」


確かにそうだな。


「にしても君、丸くなったね。なんていうか素直というか・・・そんなだったっけ?」


この身体になってからはなんだかね、自分でもそう思うよ。

んで、お前のせいじゃないにしろ見ていたんだろう。

なんなんだよあれ、あの魔法みたいなの。


「うん、まあ見てたけどね。残念ながら僕にもわからない。」


なんだよ、じゃあ願い事だっけか。

この魔法みたいな力消してくれよ、それとも俺が無意識で使っただけなのか?


「申し訳ないけどそれもできない、その力は強すぎる。僕ではどうしようもない。」


なんだよ、何もできないじゃないか。

何ができるんだよお前。


「一応できることは多いはずなんだけどね。」


「まあ、いいや。 君はまだその世界を知らなすぎる、次会う時までに考えときなよ。」


え!?いや、ちょっと待てよ。

まだ聞きたいことはたくさんあるんだ。


「残念。時間だ___」





-----------------------------------


目が覚めると視界には椅子に座り本を読んでいるジェイナさんの姿があった。


「・・・っ!?シグルスティア様!?大丈夫ですか!?私のことわかりますか!?」


僕が目覚めたことに気づくと慌てた様子で近くまで走ってきた。

僕の顔を覗き込んで声をかけたり、肩を揺すったりおでこに手を当てたりした。

どうやら気絶してしまったようだな、どれだけの間眠っていたのだろう。

漫画みたいに三年間眠っていた、なんて言われたら流石に笑えない。


「大丈夫ですよジェイナさん。えっと僕・・・どれだけ寝てましたか。」


「よかったです。本当に良かった。シグルスティア様は奥様に抱き抱えられて家に戻られました。それから三日ほど眠られていましたね。」


「そうですか、そんなに・・・。」


三日間も眠っていたのか、漫画展開ではなかったにしろ三日は長いな。

普通そんな長く眠ってしまうこともないだろうに、その間ジェイナさんはつきっきりで看病してくれたのだろうか。


「あの、何があったのですか?奥様はあれから思いつめた様子で、私が聞いてもどこか上の空で。」


そうなのか、僕のあの能力を見た時の母さんの様子もおかしかった。

あの自称神も詳しいことは何も教えてくれなかったし、でも何となくわかったことはある。

あいつは自分の力ではどうしようもないと言っていた、おそらくあの力は魔法の一種ではなく僕の能力か呪いとかなのだろう。

しかし、ジェイナさんに相談しても大丈夫だろうか。

母さんの反応を見る限りあまり良いものではなさそうだ、やはり呪いなのだろうか。


「シグ!」


勢いよくドアが開けられると母さんが入ってきた。


「大丈夫!?私のこと誰か分かる!?」


「奥様、それはもう私が聞きました。」


「そ、そう。そうよね。」


わかってはいたけど、母さんも相当心配してくれていたみたいだ。

家まで連れて帰ってくれたのも母さんだもんな、ありがとうございます。


「あの、お母さん。僕のあれ、なんだったんですか?」


聞いてみると、やはりちょっと困った様子だ。

話すのを躊躇っている。


「うん、そうね。ちゃんと話すわ、ジェイナも一緒にいいわね。」


「はい、もちろんです。」


僕達は子供部屋を後にしてリビングに集まった。

父様はいつも通り王都でのお仕事のため居ませんが、しかたないだろう。


「まず、この事からだけど。」


机の上へと黒く変色したウズマキ草を置いた。

ああこれ持って帰ってきてたんだ、改めて見ると酷いな綺麗な花だったことが嘘のようだ。


「奥様、これは?」


どうやらジェイナさんには見せていなかったようだ、おそらく父様も知らないだろう。


「これはシグが触れたウズマキ草よ。」


「ウズマキ草って綺麗な花を咲かせる草ですよね、形は過こし変ですが。」


「ええ、私なりにできるだけ調べてみたけど。このウズマキ草は間違いなく死んでいるわ。」


「死んでいるって枯れたってことですか?それにしては色が変というか。」


ジェイナさんの言うとおりだ、普通に枯れただけならこんな色にはならないはず。

そもそも僕が触っただけで枯れるというのも変な話なんだけど。


「そうね。これはただ枯れたわけじゃない、生命を喰われたか壊された。こっちの方が表現としてはまだしっくりくるわね。」


生命を喰われた?壊されたって言ったか?

んん???急に物騒な話になったぞ、やっぱりこれは呪いとかそういう類のものなのかな。


「つまり僕は呪われているとか、そういう事ですか。」


場の空気が凍る。

あらま、しまったビンゴだったか。


「ううん、呪われているわけではないわ。考えようによっては呪いのようなものかもしれないけれど。」


あれ?違うらしい。

どっちなんだ、はっきりして欲しい。

母さんが僕を傷つけまいと言葉を選んでくれているのはわかるけど、こういう時ははっきりと言い切って欲しいな。


「シグ、落ち着いて聞いてね。おそらく貴方の得意魔法属性は《闇》属性よ。」


「闇・・・ですか。」


パッと言われてもよくわからないな、そんな深刻なことなのだろうか。

魔法の属性として一般常識としてあるのだから闇が得意魔法でもおかしくはないんじゃないか?

まあ母さんの表情とジェイナさんを見る限り良いことではないんだろうな。


「私の感じた邪悪、んんッ。危険な魔力、あれは間違いなくシグから放たれていたわ。」


言い直さなくてもいいのに。


「そういえば《闇》属性ってどんな属性なんですか?」


僕のイメージ的にはダークヒーローみたいな悪かっこいい感じなのか、もしくは一定確率で相手を即死させるようなものの二択なんだけど。

だとしたら二人があんな表情をするのも頷ける。

相手を即死させるなんて恐ろしいもんな、あの黒く朽ち果てたウズマキ草を見た感じ後者な気もするが。

しかしそんなチート級の魔法が出回っているのはおかしくないか?

いや、魔族特有の魔法なんだったか。

だとしてもだ、即死魔法を使えるのが魔族だけならばどうやって人間は魔族に勝利したのだろう。


「《闇》属性はね、そもそも使える者が少ないの。魔族だって全員が使えるわけじゃないわ、極小数よ。」


「え、そうなんですか!?」


それは絶望的だな。

良く知られていないのなら得意魔法でも種類や詠唱が分からなきゃ意味がない。

とんでもない不遇属性かあ・・・人間の世界じゃ詠唱とか知られてなさそうだな。


「じゃあ、その《闇》属性の魔法を無意識で使ったってことですか。」


「ううん、おそらく違うわ。」


え、違うのか、じゃあ結局なんなんだ?

分かんなくなってきぞ。

魔法でもなくて呪いでもないっていうんだったら・・・。


「私達には魔法以外に天から授けられた力があるの、私達は《固有スキル》と呼んでいるわ。」


「固有スキル!?」


おっとテンションが上がりすぎちゃった。

自分だけのオリジナルスキルってやつなのか、なんだそれかっこいいじゃないか。


「そもそも、魔法の無意識発動っていうのはその魔法を知っていて初めて起きることなの。何も知らないシグが魔法を使えることはまずないわ。」


「それで、その固有スキルっていうのは無意識で発動するものなんですか?」


母さんはゆっくり頷いた。


「固有スキルは自分で制御できるようになるまでは、オートで発動しているものが多いの。」


「じゃあ僕のスキルもオートで今も発動していると?その割には机や椅子が花の様に黒くなる様子はありませんが。」


座っているし手でもしっかり触れている、この木材はもう死んでいるから発動しないのだろうか。


「固有スキルは普通の魔法の様に魔力は消費するの、シグのそれは私でも感じたぐらいだから相当多くの魔力を使っていた。再発動するまでの魔力がまだないのね、次に必要な分の魔力が溜まるまではオフになっているんだと思う。」


ふむ、つまりこの恐ろしい力も制御さえできればずっとオフにできるわけか。

でもそんなに魔力を使うのなら、乱発はできないだろうし慣れるほどそもそも使えないかもしれない。

それは困ったな。


「起きたことを鵜呑みにするのなら、おそらくシグの固有スキルは触れた者の生命を壊す力。たぶん今は魔力が少なくて花くらいにしか使えなかったけど魔力が増えれば人間だって___」



ガタンッ



ジェイナさんが椅子から立ち上がった。

複雑な表情で僕を見ている。

焦りが分かる、僕は正直まあそんな所だろうとは思っていたからそこまで驚かなかったけど。


「ごめんなさいシグ、私の様な医者になりたいとまで言ってくれたのに。私の、魔族の血が入ってしまったばっかりに、ごめんなさい。」


また泣き出してしまった、うちの母さんは涙もろいなあ。

しかし、そうだ僕は母さんのような医者になると決めたんだ。


「ちょ、ちょっと待って!泣かないでお母さん、僕はまだ諦めませんよ?」


「シグルスティア様はどうしてそんなに冷静なんですか!?」


ど、どうしてと言われても。

制御が効くのなら別にまだ夢が壊れたわけじゃない、なんとか制御できるよう努力すればいいだけだ。

僕の努力次第でなんとでもなるんだ、そんな深刻なことじゃない。


「シグルスティア様はこれから先誰にもその手で触れられないかもしれないんですよ!?」


いやいや、そりゃそうかもしれないけど頑張れば制御できるんだろ?

できるんだよな。

いややるんだ、やってみせる。


「それどころか誰にも触れてもらえないかもしれないんですよ!?」


「でも、制御できるかもしれないんですよね?だったら僕、やってみせますよ!」


まだ諦めていない僕を見て二人共驚いている。

そんな深刻なのかな、もしかして制御ってすごい難しいのか?


「シグルスティア様!《闇》属性に適合している者はですね_」


「ちょっと、ジェイナ!?」


ん?なんだなんだきな臭くなってきたぞ。

なんだって言うんだ、闇属性の固有スキルは制御できないとか言うんじゃないよな。

もしくは《闇》属性が使える者は異端者だ!って火炙りにされるとか?

勘弁してくれよ。


「《闇》属性に適合しているものはですね、《聖》属性の魔法が一切使えないんです!医療魔術師にはなれないんですよ!」


「え・・・?」


僕の夢が崩れた瞬間だった。



-----------------------------------




-----空中都市ベリアル------



ここは空中都市ベリアル。

高度8000m以上の空中を飛び続ける動く都市だ。

そこで地上の状況を確認するのが仕事の地上観測班の一人、トリス・トリムカイムは上機嫌だった。

今日はこの都市の領主、絶対の王であられるゴルドー・ライオンハート様への報告の当番が自分だからだ。

とある事件から城内の雰囲気はお世辞にも良い雰囲気ではなかった。


事件が起きたのは今から約4年前。

ライオンハート様の固有スキルが何者かに奪われたことだ。

大問題。

そもそも固有スキルというものは天性の才で産まれた瞬間に決まる。

大人になってから手に入ったという者もいるが、それはただ自分自身が気づいていないだけで最初から持っているのだ。

そして固有スキルというものは名前のとおり同じものが存在しない。

所持者が死んで初めてそのスキルを持つものが産まれる。


だが例外はある。

固有スキルはそのスキルが一番相応しいものが手にするとされている。

しかし保持者よりもスキルを持つに相応しい者が産まれた時、奪われる事があるのだ。

宿り主との契約を自ら切り、新しい宿り主へと移るのだ。


最初連絡を受けた時は耳を疑った。

ライオンハート様の固有スキルが奪われるということは、あの方以上の存在が生まれたということなのだから。

我々は全力で地上を探った。

観測妨害を受けている地帯ですら直接使者を送ってまで探した。

そして見つけた。

事件から2年もの時間がかかった、場所が盲点過ぎたのだ。

まさか片田舎にいるとは我々は思わなかった、王族もしくは貴族辺りだと狙いを定めていたからだ。


発見した後すぐに連絡をし暗殺部隊の派遣も済ませた。

固有スキルというのは奪われても宿り主を殺せば高い確率で戻ってくる。

相手はまだ子供、ライオンハート様より命令を頂き次第動ける準備をしたまでだ。

しかしあの方の命令は我々の想像とは遥かに違った。


「良い。手出しはするな。そのまま観測を続けよ。なにかあり次第。私へ報告へ参れ。」


暗殺の命令ではなかった。

しかしトリスはわかった、確かに観測で分かることは少ない。

正直本当にあの子供が保持者なのか、100%そうなのかと問われたらトリスは自信を持って頷けないだろう。

あの子供が固有スキルの発動、もしくは兆候が見えた時。

その時が動くべき時なのだと確信していた。


そしてその時が今なのだ。

トリスは報告資料を再度確認すると、しっかりと封に入れ謁見の間へと足を進める。


「よおトリス、ご機嫌じゃねーか。何かあったのか?」


こいつは同期のトニック、部隊こそ今は違うが仲の良い友人の一人だ。


「まさか、ジンのやつとなにかあったんじゃねーだろうなあ。」


肩に腕を回して睨みつけてくる、もちろん冗談なのはわかっている。


「そんなわけないだろ。あいつはお前の女じゃないか、こいつだよこいつ。」


ジンも同じ同期の女だ、確かに綺麗なやつなんだけどなんていうか近寄りがたいんだよな。

トニックはずっとジンを狙っている、今のとこ59戦59敗の爆散中だけど。

俺はトニックに報告資料を見せる。


「あー、なるほどねえ、お前が当たりかよ。んじゃまあ俺も暗殺部隊の手配を済ませておくか。」


ジンとトニックは二人共暗殺部隊だ、ジンは隊長格に対してトニックはエリート兵止まりだけど。


「ああ、よろしく頼むよ。」


「今度なんか奢れよー!」


俺はその場を後にし謁見の間へと急ぐ。


-----------------------------------



「ライオンハート様、観測班の者が報告へ参りました。」


俺は謁見の間の大きな扉の前で待機する。

あの方の名前を口にすることは、側近の者でさえ許されていない。


「入れ。」


重々しい声が聞こえる。

声だけだというのにすごい威圧感だ。

だというのにあの方の声は、直接脳裏に話しかけられているかのように錯覚してしまう程澄んでいる。

心地いいのだ、中毒性すらある。

あの方の声を聞くためだけに仕事を皆頑張っているのだ、恐ろしい。

大きな扉は音一つ立てずに開けられる、そして見えるあの方のお姿が。


「失礼します、観測班第四部隊責任者トリス・トリムカイム。ご報告へ参りました。」


俺が挨拶をすると山羊の頭の骨を被った天使族の女が一人前へ出る、側近の一人だ。

俺から資料を受け取ると、ライオンハート様から手振りで了承を受け封から報告資料を取り出しペラペラとめくる。

ほとんど目を通してないように見えるその間わずか5秒だ。

それこそ彼女の固有スキル、見たもの全てを一瞬で記憶するというものだ。


「では。聞こう。」


このお方がゴルドー・ライオンハート。

この空中都市ベリアルの領主であり王であり、三千年前に起きた魔王軍との戦争で前線に立ち、魔王を討ち滅ぼした七英雄の一人。

この世で最も神に近いと言われ12の固有スキルを保有する、まあ今はひとつ奪われ11だが充分凄い事だ。

黄金色の長い髪に黄金色の鋭い眼を持つ、その眼に見られると全て見透かされた気分になる。

色白な肌は黄金色の髪をより一層目立たせる、それなのに病弱そうという印象を少しも感じさせない。

白い軍服を身にまとい真っ赤な玉座に鎮座する様はまさに王。

黄金の獅子ゴルドー・ライオンハート。

嗚呼、我らが王よ。


俺は手早く、しかししっかり聞き取れる速度を意識して序盤のどうでも良い報告を済ませる。

ライオンハート様も興味はあまり無さそうに表情一つ変えずに聞いている。

でも本番はここからだ、あの方の喜ぶ姿は想像できないが気分は良くしていただけるはず。


「かの者の固有スキルの兆候と発動を観測しましたので報告いたします。」


「ほう。」


報告を開始して初めて、あの方は声を上げた。


「かの者は母親と村の花畑へ出かけた際に固有スキルを発動させました。無意識だったようです。」


ライオンハート様は何も言わない、表情も動かない。


「一輪の花、種類はウズマキ草です。その花に触れ際、一瞬にしてその花を枯らせて見せました。黒く変色した様子からするに《聖》属性を一切受け付けない呪いのようなものも付与したようです。」


「なに?」


あの方の反応があった、これには興味を示したようだ。

俺は反応を確認するためにあの方の顔を見た。

しかし俺の想像は間違っていた、あのお方は訝しげに表情を歪めていた。

なんだ?なにかまずい点があったのだろうか。


「トリスといったな。お前は私の固有スキル。何が奪われたか知っているか。」


「い、いえ。」


「奪われたのは私の固有スキルの中でも最も強力なもの。《聖》属性の固有スキルだ。」


《聖》属性だって!?じゃあ、でも・・・まさか、そんな。


「で、ででででは、かの者は違うと?」


「取り乱すな。そういうわけではない。しかし。なるほど。面白い。」


しばらく静かな間が訪れた後、命令が下された。


「観測を続けよ。」


「は、はっ!」


「下がりなさい。」


扉が静かに閉められる。

しかしライオンハート様はどこか嬉しそうにも楽しそうにも感じられた。


ああ、トニックに飯でも奢らなきゃな。









《登場人物》シグルスティア・リーンハルト 約四歳

得意魔法属性:闇(?)

固有スキル:触れた生物の生命を壊す。

将来の夢:無し。


次回は影の薄い父親、ロイズ・リーンハルトのお話かヒロイン登場かで悩んでます。

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