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史上最強の医療魔術師《ヒーラー》  作者: Eve
第二章 少年偏〜聖獣の森〜
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第十六話《 殺る気と本気 》


朝になるとライナーさんが起きていた。

そっか、最後の見張りの番は彼だったな。

僕達は夜の見張りの番は交代制でしていた。

その最後の番がライナーさんだったわけだ。


「おはようシグさん、よく寝れたかい?」


「周りを警戒しながらですからね、あまりぐっすりとは寝れてませんよ。」


「ははは、普通は警戒しながら寝るなんてしませんよ。」


あの日、ルーレイさんと水浴びをした日いらいルーレイさんとは話せていない。

話せていないって言っても日常会話ぐらいはできているんだけどね。

あの日の様に、感情を剥き出しにしての会話は一切ない。

また避けられている感じ。

やはりあの日の言い方が悪かったのかな、気に障ることを言ってしまったのかもしれない。

もしかして、嫌われてしまったかな。


「おはようございます皆さん。今日で最後になってしまうかもしれませんな。」


僕達が出会ってこの森を探索してから三日が経過している。

そして彼等のリーダー、ディリートが言うにはそろそろ最新部だろうという事だ。

僕達の冒険も今日で最後になるかもしれない。

これまでの間に彼等の目的である魔獣は一回も姿を見せていない。

僕としては、もはや本当に存在するのか疑問だ。


「もう・・・、朝ですか。」


「あ、おはようございますルーレイさん。」


「は、はい。おはようですシグ。」


いつもこんな感じなんだ、どこかそっけない感じなんだよなあ。

これはこれでいいんだけど、本当の彼女を知っているからこそ少し寂しさを感じる。


「さあ!全員起きたし移動しよう、シグの目的達成のためにもな!」


「はい!じゃあ行きましょうか。」




------------------------------




暫く川に沿って歩き続けると、遠目に白い石造りの神殿らしきものが見えてきた。

間違いなくボス戦だなって感じがする風貌だ、おそらくあそこに聖獣様がいるのだろう。


「あれですよね?なんか想像していたよりも人為的な造りです、さあ!急ぎましょうか。」


「おい、待てっ!」


僕が駆け足で神殿へ向かおうとするとディリートに呼び止められた。

一体どうしたのだろうか、ディリートだけじゃない皆驚いた表情を浮かべている。

驚いた表情?違うな。

恐怖っていうか嫌悪、かな?そんな感情を浮かべている。


「何か、いる・・・!?」


「気持ち悪い感じがしますな、誰です!出てきなさい!!」


気持ち悪い感じ?

僕は何も感じないけどな、寝不足で感覚でも鈍ってしまったか?


そのまま暫くの沈黙が続いた、皆はずっと真剣な表情で一点を見つめている。

大きな岩のある方向だ、あの岩の後ろにその何かがいるのか?


ガルルルル・・・。


何か獣の様な鳴き声が聞こえる、僕には気配なんて一切感じないが何かがいるのは確かだろう。

もしかして、ディリートさん達の探している魔獣か?


『愚かな人間共よ、また来たのか哀れな。』


声が聞こえた、岩の後ろから魔獣が姿を現す。

大きな狼の様なシルエットの魔獣だ、真っ赤な体毛と鋭い牙を剥き出しにしている。

真っ赤な瞳からは先ほどまでは何も感じなかったが、見てみると僕でも邪悪なオーラを感じる。

魔獣はその瞳で睨みつけながら、僕達に明確な殺意と敵意を向けている。

もしかして、喋ったのか?この魔獣が?


「コイツが俺らの目的の魔獣だ!」


「間違いないよ!この邪悪な魔力、近くにいるだけで吐き気がする!よし皆、いくぞ!」


何か違和感がする。

とりあえず僕はこの魔獣をちゃんと観察してみよう。

真っ赤な毛以外にも銀色の毛が混じっている、いやそもそも赤い毛ではないな。

これは血だ、真っ赤な血が毛にこべりついて固まっている。

この魔獣の体には何本か矢のような物と剣も突き刺さっている、誰かと戦っていたのだろうか。

この傷跡に付着している紫の液体と刺激臭・・・毒か?

僕の予想では、この魔獣はおそらく・・・。


「すみませんディリートさん・・・少し待ってください。」


「お、おい!シグ!?何してんだ、あぶねえぞ!!!」


ゆっくりと魔獣に向かって足を進める。

たぶん刺激をしなければ大丈夫なはずだ。

たぶんね、多分。


「あの。貴方、聖獣様ではないですか?」


「は!?何言ってんだシグ!聖獣様は神殿の方に__」


「うるさい!少し黙っていてください!」


「うぇ!?」


僕は聖獣様(?)の目の前まで歩み寄った。

僕の考えが正しければおそらくこの魔獣が聖獣様なのだろう。

見た目は聞いていた物と違って禍々しい狼って感じだけど、毒のせいかな?

聖獣様(?)は明らかな殺意を向けて僕を睨んでいる。

超怖い、前世の僕ならチビってましたよ?


「大丈夫ですよ、僕は味方です。今治してあげますから__」


『人間如きが気安く俺に触れるなッ!』


「おい、シグ!?危なっ__」


突然だった。

聖獣様(?)の頭が目の前を凄い速さで通り過ぎたと思ったら身体のバランスがとれなくなる。

急に右脚の感覚がなくなった。

転びそうになる、なんとか右脚に力を入れて踏み止まろうとはする。

違和感から目線を自然と右足に向ける、見てみれば理由は明確だった。

動くわけがない、もう僕の右脚は無くなっていたのだから。


僕の右脚は目の前の聖獣様(?)によって噛みちぎられていた。

痛みは自覚した瞬間に襲ってきた、表現できない痛みだ。

もはや痛いのかすらわからない。

いや、やっぱ痛いわ。

痛すぎて泣きそう、いっそ殺してくれぃ。


「シグッ!」


心配そうなルーレイさんの声が聞こえる。

オーマイゴッド、足が食いちぎられてしまった。

どうしたものか・・・。

考えている間に体勢を崩して前に向かって倒れてた、聖獣様(?)の身体に体を預けるようにね。


「シグッ!クソッ、よくもやりやがったな魔獣め!行くぞライナー!!」


「お、おう!」


「ちょっ、・・・待っ、うぐっ・・・さい。」


僕の言葉を聞く前には特攻しようと既に駆け出していた。

僕の言葉はどうにか伝わったらしくて、すごい剣幕で僕に向かって叫ぶ。


「何言ってんだ馬鹿!!!早くしねえとお前マジで殺され__」


「大丈夫・・・くっ、ですから。」


『・・・。』


僕は痛みに耐えながら聖獣様(?)の身体に触れて魔法を発動する。

毒を治すための魔法だ。

どんな毒でも魔力さえ大量にかければ治せる、この世界の解毒魔法は万能だな。

僕は自分の8割近い魔力を消費して聖獣様(?)にかかっている毒を解いた。

結構強力な毒だな、普通はこんなに魔力は使わないでも解除できるはずなんだけどな。

痛みで思い通り動かない身体に魔力消費による疲労感が襲う、早く自分にも治癒魔法をかけないとな。


『おい・・・何故だ、何故俺を助けた。』


「何故って・・・直感ですけど、貴方が聖獣様な気がしたからですよ。違いますか?」


『なるほどな、貴様等この男を俺に嗾けようって作戦か?』


ん?なんだ?急になんの話だ。

嗾ける?この男って誰だ、俺のことか?


「・・・。」


意味が分からずに振り返ってみるとディリート達は聖獣様(?)を睨みつけて黙っているだけだった。


『なにか言ったらどうなんだ?愚かな人間よ。自分で説明は出来ぬか。』


「あの!やっぱり貴方が聖獣様・・・ですよね?」


『ああ、その通りだ。貴様には悪いことをしたな、しかし俺には仕事があるそこで待っておれ。』


先程までだるそうに地面に伏せている状態だった聖獣様はゆっくりと身体を起こした。

狼のような咆哮をあげると体毛に付着していた固まった血液は全て消え去り傷口も一瞬で回復した。

銀色の鋭い針のような体毛と真っ赤な真紅の瞳。

先ほどまで漏れていた邪悪なオーラのような物は毒の影響だったのだろう完全に消え去っていた。


『フンッ・・・此奴等は今から6日ほど前に俺の元に訪れた。供物を献上しに来たと嘘を言って近づき俺に毒を放ってきたわけだ。狙いは分からぬが貴様は騙されていたのだろうよ。』


「本当、ですか?ディリートさん。」


「・・・・あ、いや__」


「本当ですよ。」


ディリートさん達はなんて言葉にすればいいのか慎重に選んでいる、そんな感じだった。

ディリートさんだけではない、ライナーやモハンもそうだ。

たった一人を除いて、ね。

ルーレイさんは彼等に返答を考える時間などは与えずに僕の質問に応えてくれた。


『そういうことだ。悪いが、俺はこいつら殺すぞ』


「!?」


当たり前の様にそう言い放った。

本人達が目の前にいても当然躊躇するわけでもなく、殺意すら込めずに言った。

まあ、自業自得と言えばまったくその通りなんだけど。

でもここまで一応とはいえ、一緒に冒険したわけだし助かるなら助けてあげたい。


「あの、彼等の事は僕に任せてくれませんか?」


『・・・。』


『よかろう、お前に任せる。だが俺は一切手伝わん、次こいつらが俺の目の前に現れたら躊躇なく殺す。それでいいな?』


ただそれだけ言うと聖獣様は神殿の方へ走り去っていった。

こいつ等は俺が殺す!って話なんて聞いてくれないと思っていたが意外なことに許してもらえた。



---------------



「あー・・・シグ。なんつーか、助かった、よ。」


「いえ、別に構いませんよ。」


「別に我々はシグ殿を利用したわけではなくてですね!」


「治癒魔術師として利用させて欲しいって話だったでしょう、別に構いませんよ利用されてても。」


悪いことをしているって自覚があるんだろう、やたら言い訳を並べてくる。

僕は別に悪い事だとは思ってないけどね。

ただ聖獣様を殺されるとエイントア村にも影響が出るし、しっかりとここで諦めてもらうとしよう。

まあ、こいつらにあの聖獣様を殺せるとも思えないけど。


「どうして聖獣様を殺そうと・・・?」


「聖獣の魔力の宿る魔眼は高値で売れるんだよ・・・。」


「お金のため、ですか。」


「仕方ないんです!我々にも家族がいますしお金が必要で__」


「諦めてください、今すぐこの森を出て帰ってもらえませんかね。」


なぜ狙ったか理由なんて聞いても意味なかったな。

どうでもいい事を聞かされるだけだった。

時間の無駄だし、はっきりと言ってさっさと帰ってもらおう。


「は!?話聞いてただろ?俺達は金が要るんだ、引くに引けない理由ってものが__」


「3分だ。」


「え・・・?」


「3分以内に立ち去らなければ僕が貴方達を殺します。」


「な、何言って・・・。ッ!?」


僕の右足はちょん切れたままだ、治癒魔法はかけたから痛みは引いたし血も止まった。

けれど、無くなった四肢が簡単にピッ○ロみたいに生えてくるわけではない。

毎日治癒魔法を掛け続けても4、5ヶ月くらいはかかるかな、まあ生えてくるだけ凄いんだけどね。


立ち上がることは出来ないのでその場にしゃがみこんだ体勢で彼らを睨みつける。

冗談なんかではない、本気で殺す。

本気の殺意を彼等にぶつける、僕の本気が伝わったのだろう彼らも表情を歪ませた。


「本気で言ってんだよな?シグが強いのはわかるけどよ、足もそんなになってるお前に負けるほど俺らは弱くねーぞ?」


「そうですよ、シグ殿には感謝していますし私達としては戦いたくはないのです。」


「なあ?俺達は聖獣の弱点も発見したんだよ。毒だよ、あの毒!聖獣は毒に耐性がないんだ。今回はシグが治しちまったけど、これさえあれば俺らでも勝てる!」


そう言うと、ディリートは革袋からあからさまに毒ですって見た目の紫色をした液体の入った瓶を取り出した。

だから何なんだ?

それで僕が協力すると思っているならこいつら相当オツムが弱い。


「なあ、聞いてんのかよ!お前の妹の病気が治る聖獣の魔力だって手に入るんだ!悪い話じゃねーだろ?」


「・・・で?」


「は!?いや、だからな__」


「あと一分。」


どうやら僕の態度を見て諦めたみたいだな、三人は僕に向かって剣を構える。

殺る気だ。

さーて、どうしたものか。

この動けない体で剣士三人に魔術師一人相手に戦う魔術師なんて、馬鹿だよなあ。


本当は使いたくはなかったんだけど、仕方ない。

僕はそっと右腕のグローブに手を掛ける。

僕はお前達にチャンスをくれてやったんだ、チャンスを逃したのはお前らだ。


「わ、私も!」


一人の魔術師が声を荒らげた、緊張しているのか声が裏返ってしまっている。


「あ・・?おい、なんだよルーレイ。」


「私はシグ側につきます!それでも殺りますか?・・・私達と戦いますか!」


「おいおい・・・本気か?」


「本気ですよ!」


この展開にはさすがの僕も皆も驚いた。

ルーレイさんは彼等に背を向けてゆっくりと僕の方へ歩いて来る。

真剣な眼差しを僕に向けたまま、目を一度たりとも反らさずに。


__!?


僕の位置からはルーレイさんの背後にディリートの姿が見えた。

ルーレイさんへ向けて剣を振り上げている、彼の姿が。

殺意のこもった瞳をしている、あいつは本気でルーレイさんを殺すつもりだ。


「ル、ルーレイさん!?危な__」


刹那____。


終わっていた。

一瞬だ。

僕が危ないと、そう感じた瞬間には終わっていた。


僕とルーレイさんを除いた全ての生物は凍って__動かなくなった。


世界が凍っていた。


「ふふふ、だから私言ったでしょう?本気ですって。」





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