第十三話《 協力と仲間 》
あらすじ:シグルスティア・リーンハルトは妹シオン・リーンハルトの病を治すため、聖獣の魔力を求めて聖獣の森へと向かった。
僕達の住むエイントア村から聖獣の森までは、徒歩で一時間程度で着いた。
遠くから視界に入ってきた段階で、既に尋常ではない大きさだという事はわかった。
近づいてみて分かったが、本当にジャングルそのものだろう。
まあ前世でジャングルなんか行ったことはなかったけど、多分こんな感じなんだろうって想像は出来た。
「いざ来てはみたけど、そもそも聖獣様はこの森の何処に居るのかな。」
シオンの事もあったし急いで飛び出してきてしまったが、下調べぐらいはしてくれば良かったかな。
これがゲームなら森の奥とか洞窟の奥とかが定番なんだけど。
とりあえずこんな場所に突っ立っていても始まらないし、奥を目指すとしよう。
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森に入って軽く30分以上はただただまっすぐ歩いているがまったく景色が変わらない。
無限ループにでも入っているのかと思ったぐらいだ。
一面緑一色で地面すら様々な草花で埋め尽くされて、土すら見えない。
道でもあれば良かったんだけどな、木に登って見渡して見てもそれらしき物は見つからなかった。
村人は聖獣様への供物をどうやって届けているのだろうと疑問に思った。
聖獣の森は、流石魔獣の住処と言われるだけの事はあって本当にうじゃうじゃ魔獣が居る。
今僕の頭の上にも一匹の魔獣が居るのだが、モグラビットという可愛らしい平べったく潰れた感じの兎だ。
名前の通りモグラの様に地中を掘ってそこに潜り生活する魔獣で、両腕が地中を掘るために異常に発達している、その両手で殴れば硬い鉱石すら凹むらしい。
モグラビットは冒険者ギルドでの危険度ランク自体はCと低いが、発生率が高く村の作物を荒らす害獣として有名な魔獣だ。
可愛い見た目とは真逆の凶暴性があり、市民の被害数ではトップを争う程の魔獣である。
そんな凶暴な魔獣が今僕の頭の上で毛づくろいをしているわけなのだが。
驚くべき跳躍力で頭に乗ってきた時は少し怖かったが、この森の魔獣はどうやら人に慣れているみたいだ。
今も10匹程度の魔獣が僕の後ろをついて来ているし、今のところ虫一匹すら僕に襲いかかってこない。
これも聖獣様の加護のおかげってやつなのだろうか。
あれからまた数10分ひたすら前に歩き続けると、激しい地響きのような音と戦闘音が聞こえてきた。
こんな平和な森でいったに何が戦っているんだろう。
魔獣同士の争いかとも考えたが、どうにも気になったので行ってみることにした。
僕の後ろを着いてきていた魔獣達も激しい音で逃げてしまった、頭上のモグラビットを除いて。
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音の発生源に近づくと何人かの人影とそれらと対峙している魔獣の姿が見えてきた。
前衛に軽装備の男が一人と重装備の男が一人。
それと青いローブを着用している、背の小さなおそらく魔術師が後衛に一人。
その三人が一人の男を匿うようにして戦っている。
おそらく怪我人だろう、足をやられたかして歩けない様子だ。
「クソ!埒があかねえ。俺が突っ込むから援護を頼むぞ!」
「は、はい!水の精霊よ力無き私に力を与え給え『氷の槍!』」
対峙しているモンスターはジャイアントリザードだな。
体の大きな蜥蜴の魔獣で普段は温厚なはずなんだが、縄張りを荒らしたかして怒らせてしまったようだ。
分厚い黒色の鱗を体中に纏っているため物理での攻撃が効きにくい、軽装備の戦士も勇敢に特攻しているがジャイアントリザードは怯みすらしない。
後衛の魔術師も中級の水魔法を使って必死に援護しているが、ジャイアントリザードは《水》属性に耐性を持った魔獣だ効果は薄いだろう。
面倒事は控えたかったんだが、このまま見殺しにするのも気持ちの良いものではないよな。
なにより怪我人もいるようだし、医療魔術師としては見過ごせない。
「どうなってるんだ!俺の剣がまったく効かねえ・・・。」
「ねえ!魔法でなんとかならないの!?」
「無茶言わないでください、ジャイアントリザードは水に耐性がある魔獣なんです!」
魔術師の子はある程度知っているようだ、おそらくあの子の得意属性は水なのだろう。
ローブには色によってそれぞれ効果がある、青は《水》属性の魔法強化と耐性強化だ。
知識があるのに水魔法しか使わないのは妙だが、おそらく間違いないだろう。
僕は左手のグローブを外すと中級の《雷》属性魔法を無詠唱で発動し、同時に俊敏力強化と攻撃強化を発動して飛び出すと彼らの横を通り抜ける。
「すみません、ちょっと失礼しますよ。」
「へ・・・?」
僕の動きに反応できたのは軽装備の男だ、なかなかの反射神経をお持ちのようで。
僕は軽く跳躍するとジャイアントリザードの背に乗り、《雷》魔法を纏った左手を背に当てて麻痺させる。
簡単に相手を麻痺させる強力な魔法だが直接相手に触れる必要があり、あまり人気のない魔法の一つだ。
「お、おいあんた!危ねえぞ!」
「大丈夫ですよ、体を麻痺させました。ジャイアントリザードは元々温厚な魔獣です、今は少し興奮して暴れていただけです。」
僕はジャイアントリザードの背から降りると鼻先に手の平を当てると、《聖》属性魔法の『癒しの香』を発動させる。
この魔法は徐々に体力を回復させると共に興奮を抑える効果があり、魔獣にも有効な魔法の一つだ。
「僕らは敵ではありませんよ、さあ縄張りに帰りなさい。」
魔法が効いたのを確認すると麻痺の解いて、宥めるように頭を撫でてやると落ち着いた様子でシャイアントリザードは縄張りへと帰っていった。
麻痺魔法と癒しの香のコンボは魔獣との戦闘を避けるのに効果的だ。
僕はお礼の一言ぐらいは期待していたのだが、彼はポカーンと口を開けて僕を見ているだけだった。
因みに激しく動いたのにも関わらず、モグラビットはしっかりと僕の頭にしがみついていた。
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「た、助かったよ。俺はディリートだ。」
一番最初に口を開いたのは前衛で戦っていた軽装備の戦士風の男だった。
おそらく彼がリーダーなのだろう、茶髪のツンツンとした髪型に赤い鉢巻のような物を巻いている。
軽く伸びた髭と見た目からおそらく20代前半くらいだろうか。
「僕はライナー、ライナー・ジーンブッド。よろしくね。」
ディリートの次に自己紹介をしたのは彼の横に居た、よくそんな重そうな装備で戦えるなといった重装備の男だ。
体つきは重装備のため分からないが、顔を見た感じ小太りぐらいの体型だろうか。
短く整えられた金髪と大きく変わる表情からは若々しいエネルギーが感じられる。
おそらくディリートと同じか、それより少し若い程度の年齢だろうか。
「僕はシグルスティア・リーンハルトです。この森の近くに有る村、エイントア村に住んでいます。とりあえず後ろの方の怪我の治療をしますね。」
自己紹介を手短に済ませると足から大量の血を流している軽装備の男に近づく。
結構深い傷だな、ジャイアントリザードにやられたとは考えにくい。
あの魔獣はリザードと名前のついた蜥蜴だが、草食の魔獣で肉は食わないため歯が丸くなっているんだ。
「あ、ありがとう。シグルスティアさん、私はモハン・フィルモンドと言う者だ。」
モハンは僕に足の治療をして貰いながら自己紹介をした。
大きな怪我をしても落ち着いていて、ちょっと老けた顔つきからも20代後半から30代前半辺りだろうとわかった。
僕は無詠唱で上級の回復魔法を使い治療をしてやる。
おそらく冒険者ということもあって体力はあるようだな、上級魔法で即時の大回復を行っても疲れ一つ見せていない。
「君は医療魔術師なのか?」
怪我自体はモハンが一番酷かっただけで他のメンバーも傷を負っていた。
おそらく強敵との戦闘を終えた後にジャイアントリザードに襲われてしまったのであろう、なんと災難な。
「そうですよ、一応まだ見習いですけどね。」
「回復魔法が無詠唱で使えて見習いとは信じられんな。」
僕の村でも無詠唱に驚く人が多いが、そうだろうか?
こんなもの感覚さえつかめば直ぐだろうに、まだ自己紹介はしてもらっていないがそこの魔術師の子も短縮化した詠唱で魔法を使っていたし。
「そういえば貴方達はここで何をしていたのですか?」
「ああ、俺たちは城塞都市ノアの冒険者ギルドで活動しているAランクパーティーなんだが。この森を荒らしている魔獣の調査で来たんだよ。」
森の調査か・・・村の警備兵のお兄さんが言っていたのはこの人たちだろうか。
それにしてもおかしい、ジャイアントリザードはBランクの魔獣だ。
Aランクのパーティーなら手こずりはしない相手だと思うが、見栄でも張ってるのか?
「その割にはBランクのジャイアントリザード相手に手こずっていたようですが?」
「俺達はチームでAランクなんだよ、いつもは6人だしメンバーも一人違うんだ。それに強敵と戦って疲労しているところを襲われたからな。」
「なるほど・・・でしたら納得しました。」
「俺なんかは個人じゃCランクだけどよ、今日の助っ人はすげえぜ。なんて言ったってソロでBランクまで登りつめた新人冒険者だからな。」
そう言うとディリートは青いローブを深く被ったおそらく女の子であろう魔術師を紹介してきた。
「彼女はルーレイ・フェリコレット。《水》属性の使い手でソロBランクの大型新人だ、ノアの方じゃ有名なんだぜ?」
「・・・どうも。」
深くローブをかぶり直すと小さくお辞儀をした。
ちゃんと顔は見えないが水色の髪が少し見える、体も小柄だし女の子だろう。
彼女は自分の身長の1.5倍近くある大きな杖を持っていた。
なんか僕を警戒しているようだが、なにかしてしまっただろうか。
「では、お仕事頑張ってください。」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
案の定引き止められた、だからあまり関わりたくなかったんだが・・・。
おそらくこのパーティーには医療魔術師がいない、当然パーティーにヒーラーは一人欲しいのだろう。
そして今まさに彼らが欲しいものが目の前にあるのだ、逃してはくれないだろう。
「僕、行かなくてはいけない場所があるので・・・。」
「俺達も付き合うよ、だから俺達にも協力しちゃくれないか?報酬を分けてやってもいい、なあ頼むよ!」
報酬かあ、別に金が欲しいわけじゃないんだけどな。
聖獣様に会って魔力を頂いたらさっさと帰りたいし、シオンのこともあるしなあ。
「僕本当に急いでいるので、目的が済んだら帰りますが・・・それまででもよろしいですか。」
とは言っても逃がしてくれそうにないので一応提案してみる。
少し面倒事の匂いがしたから、できれば断りたかったんだが仕方ない。
ここで会ったのも何かの縁という事にしておこう、放っておいて魔獣に食われても後味悪いしな。
ディリートは他のメンバーと目を合わせたあと、こちらを見るとゆっくり頷き手を差し出してきた。
「ああ、俺達はそれで大丈夫だ。よろしく頼むよシグルスティアさん。」
「シグでいいですよ、長くて呼びづらいでしょう。こちらこそ、よろしくお願いします皆さん。」
僕は差し出された手を握り返した。
こうして短い間ではあるが、僕に初めての仲間ができた。