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史上最強の医療魔術師《ヒーラー》  作者: Eve
第二章 少年偏〜聖獣の森〜
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第十二話《 冒険と始まり 》

第二章が始まります。



「あれからもう二年か、時が経つのは早いなあ。」


今頃エリナ姉ちゃんは、ノースノア剣魔学園で首席をとっているんだろうか。

いいや、エリナ姉ちゃんのことだから絶対にとっている。

僕も負けないように頑張らないと・・・。


「先生ー!膝擦りむいたー!」


「ヤン君か、まーた転んだの?」


現在僕は、子育てで忙しい母さんの代わりに診療所で先生を勤めている。

シオンは僕の時よりも元気に元気に育っている。

手がつけられなくて困ると、母さんもジェイナさんも嬉しそうに言っていた。

野党に襲われたエイントア村は着実に修復を遂げていた。

母さんの仕事を代わりにやってみて分かったが、この仕事はかなり大変だ。

この世界の回復魔法は万能じゃない。

魔力は使うし回復スピードとパワーを見誤るとかえって悪化させてしまう。

回復魔法は体力を消費して治癒能力を強化しているようなものだ、そう考えると強化魔法と考えても間違いではないだろう。

消費しすぎたら体は悲鳴をあげてしまう、下手したら過労死の可能性まである。

だからこそこの仕事は誰にでもできるわけじゃないし、沢山の人に必要とされているんだ。

僕も母さんと同じくこの仕事を誇りに思っている。


「そういえばシグルスティア先生。」


「はい、なんですか?」


話しかけてきたのは村の防備強化のために依頼された元冒険者の警備兵だ。

彼は元A級の冒険者チームの一員でかなりの腕と聞いている。

職業的には戦士なので、僕が教えて貰えることは少なくて残念なのだが。


「先生は凄いよな、若干10歳で村の診療所の先生を勤めているなんてさ。しかも無詠唱で上級の回復魔法まで使える奴なんて、俺の冒険者時代にも居なかったぞ。」


「ふふ、どうしたんですか?急に。煽てても何も出ませんよ?」


「そんなんじゃねーよ。・・・そういや先生は聖獣の森って知ってるか?」


唐突にそんなことを聞かれた、知らないわけではないが人並みの知識がある程度だ。

聖獣の森はこの辺で一番大きい森だ、エイントア村からもそう遠くない。

徒歩で一時間かからないくらいだろう。

強力な魔獣がうじゃうじゃ居て、凄いやつじゃA級冒険者チームでも手こずるレベルの魔獣まで居るらしい。

そんな危険な森が近くにあっても、この村が安全なのは聖獣様のおかげだ。


聖獣様は魔獣の頂点に立つ種族だ。

そもそも魔獣というのは魔力の多く充満する場所に産まれた獣が、魔力に犯され突然変異したモンスターの事だ。

それと比べて聖獣はまったくと言っていいほどに違う、聖獣は強力な魔力に負けずに打ち勝った種族だ。

魔力も桁外れで最低でもSSクラスの化物、ただし魔獣と違うのはそこだけじゃあない。

聖獣は人の言葉を理解し、人間から供物を与えられる代わりに人間を守ってくれているんだ。

一部の地域では神獣とまで呼ばれて崇拝されている。

ここエイントア村も同じで聖獣様のおかげで村は魔獣に襲われずに済んでいるってわけだ。


「まあ知ってはいますが・・・どうしてですか?」


「実は最近森を飛び出して村を襲う魔獣が増えているんだ。ひょっとしたら聖獣様に何かあったのかもしれねえな。」


「それは大変ですね、僕達の村も被害に遭うかもしれませんし。一度様子を見に行くのも手かもしれませんね。」


これは冗談で言ったわけではない、僕では聖獣の森に行ってもA級以上の魔獣には手も足もでないだろう。

それでも行く理由は充分にある、そもそも聖獣の森に居る魔獣は聖獣様のおかげで人間を襲わない。

まあ聖獣様に何かがあったのなら、襲われる可能性も充分にあるだろう。

でも、その方が僕としてはありがたい。

それぐらいの荒療治じゃないと魔術の腕ってものは上がらないし、そうでもしないと強くはなれない。

力ってのは簡単には手に入らないものだ。

とは言っても今は母さんに任された診療所の仕事がある、仕事を放棄するわけにはいかない。


「なあに馬鹿なこと言ってんだ、先生は医療魔術師だろ。森の調査は冒険者に任せりゃいいんだよ、ノアの方から冒険者が森の調査に出向いているらしいからな。」


「そうなんですか、なら安心ですね。」


それは少し残念だな、安全なことに越したことはないが特訓も兼ねて行ってみたかった。


今日の仕事はそんなに患者が多くはなかった、魔力も充分に残っていて疲れもそれほどではない。

それに怪我人が少ないのはいい事だ、医療魔術師としてこれほど嬉しいことはない。


-----------------------------------



「ただいま母さん、ジェイナさん。」


「シグルスティア様おかえりなさい、お仕事お疲れ様です。」


「おかえりなさいシグ、悪いわねお仕事代わりにやって貰っちゃって。」


「いえいえ、いいんですよ。もともと僕が言いだしたことじゃないですか、僕の時は正直寂しかったですし、シオンにはそんな思いして欲しくは無いです。」


これは本当の話だ、

自分で言うのはなんだけど、僕は既に母さんと同じくらいの回復魔法技術はあるはずだし、診療所の仕事の代理は僕が自ら提案したことだ。

僕は前世で成人以上までは生きていたし、両親が不在でも精神的にも大人だったから我慢は出来た。

でもシオンは違うだろう。

シオンは元気で暴れん坊に育っている、だけどそれでも両親が近くにいないのは寂しいに決まっている。

シオンにそんな思いはして欲しくない。


「ほらシオン、お兄ちゃんにおかえりなさいしなさい。」


「にーにぃ、おかえりなしゃい。」


「ああ、シオン。ただいま。 よしよし、シオンは今日も可愛いな。」


この子は本当に可愛い、僕にも守るべき家族が増えたってことだ。

シオンは頭もいい、言葉を喋りだすのも早かったし好奇心も旺盛だ。

あまりにも喋りだすのが早かったから同じ転生者なのではないかと疑いもしたくらいだ。

まあ、ただの杞憂だったんだけどね。


「ねえシグ、明日から診療所の仕事に戻るわ。今まで代わりにやってくれてありがとう。」


「え!?いやでも、シオンが・・・僕は別に大丈夫ですよ?母さんの仕事はしっかりとやれていますし、それに__」


「シグ、私は貴方にはもっと世界を見て欲しい。ノースノア剣魔学園を目指すんでしょう?なら仕事は私に任せなさい、ね?」


「は、はい。分かりました、ありがとうございます。」


確かにそうだな、剣魔学園の入学は最低12歳からだ。

僕はもうじき10歳の誕生日を迎えるし城塞都市ノアまでは馬車を使っても数ヶ月掛かる。

それを考えると本当に与えられた期間は約2年、あまり余裕はない。

そもそも試験ってどんな感じなんだ?剣魔学園って言うぐらいだ、剣技もできなきゃ駄目なんだろうか。


「奥様の言う通りですよシグルスティア様。今は自分のためにお時間を使うべきです。」


「そう、ですよね。分かりました、明日から特訓に戻ることにします!ありがとうございます母さん、ジェイナさん。」


僕はこうして特訓の日々に戻ることにした。

2年後にエレナ姉ちゃんに会っても恥ずかしくないように、強くならなきゃ。


現在《聖》属性は回復系も強化系も上級までは無詠唱で使えるようにはなった。

これ以上は市販の教本には書かれていないし、発動速度に強弱の調整は使って伸ばすしかない。

でも回復系は相手がいないと強化系と比べて使う頻度は多くない。

そのための診療所の仕事でもあったんだが・・・。


さて、どうしたものか・・・やっぱり苦手な5代属性かな。

勉強でもそうだったかが、苦手科目をそのままにしておくのはよくないだろう。

上級までの無詠唱とは言わずとも、五代属性の上級までは使いこなせる様になろう。

あとは剣技か・・・父様はあまり家には居ないしなあ、警備兵のお兄さんにでも頼もうか。

よし、明日から頑張ろう!・・・あれ?これ駄目な人間の台詞だったっけ?




-----------------------------------



あれから半年と少しが経過した。

五代属性魔法の中級の無詠唱と上級がそこそこ使えるようにはなった。


ただし僕は《土》と《雷》属性が苦手属性だ。

《火》とか《水》とかは前世でも身近にあった分、想像で扱いがしやすい。

それと比べて《土》は初級、中級は泥弾だったり石礫だったりとまだ想像しやすかった。

でも上級は威力も範囲もまったく違う、岩雪崩だったり大きな地震を引き起こしたりと想像だけでは発動の感覚が掴みにくい。

今後の課題は苦手科目の中でも特に苦手な《土》、《雷》属性だ。


剣技の方としては僕には才能がないらしい。

《聖》属性の上級魔法にある身体能力の強化魔法を使えば少しは様になるが、あれは魔力の消費がこの右腕と同じくらいには多い。

いざと言う時の切り札としては良いかもしれないが、おいそれとポンポン使えるものでもない。

剣技の方はダメだな・・・試験の時に融通を利かせてもらえるぐらい魔術の腕を上げるしかない。


「お母さん、ジェイナさん今帰りました・・・、何かあったんですか?」


僕がいつも通り特訓から帰ると母さんとジェイナさんが浮かない顔をしていた。

一体何があったんだろうか。


「ああ、シグルスティア様。それがシオン様が・・・。」


「シ、シオンに何かあったんですか!?」


「え、ええ。何かあったといえばあったのですが・・・。」


何かはっきりしない物言いだな。


「ジェイナ、私が話すわ。私の固有スキルでシオンを見てたら感染病にかかっているのがわかったの。」


母さんの固有スキルは、目で見た相手の体の健康状態、病気に呪いまで自分の知識としてあるものならば全てわかるという医療魔術師としては最強のスキルだ。


「か、感染病って・・・お母さん。やけに冷静ですが、大丈夫なんですか?」


「今すぐにどうこうって病じゃないの。ただ、早く手は打たないと将来的に不味い事になる。」


「ど、どんな病なんです?」


「感染者の体力と魔力を成長と共に奪っていく病なの。早く手を打たないといつかは体が思い通りに動かなくなる。」


思いっきりやばい病じゃん!?

いや、でも手を打つって言ってた?じゃあ治るってことだよな。

それならばどうしてそんな深刻な空気なんだろうか、薬がないとか治療方法が難しいとか?


「えっと、治るんですよね?」


「治るわ、聖獣様のいる__」


「ちょっと奥様!?」


ん?どうしたんだろうか。

あるなら教えてくれればいいのに、訳ありだろうか。

聖獣様っていうと最近森の魔獣が逃げ出して村を襲ってるって話を聞いたけど、それと関係してるのかな。


「隠す必要もないわよ。シグ、シオンの病を治すには聖獣様の魔力が必要なの。」


「聖獣様の魔力、ですか。」


なぜ聖獣様の魔力なのかは分からないが、ジェイナさんの母さんを止めた理由もわかった。

僕はシオンに対して結構な愛情を注ぎ込んでいる、自分で言うのもなんだがいわゆるシスコンだ。

ジェイナさんはそんな事を教えれば、僕が聖獣の森へ行くのが分かっていたから止めたのだろう。

聖獣様の加護があるとは言っても、あの森は危険な場所だ。


「そうですか、じゃあ僕が聖獣様に頼んできますよ。」


聖獣様は人語を理解できるし、真剣に頼めばわかって貰えるかも知れない。

僕のシオンに対する愛を真剣に伝えればわかってもらえる!・・・はずだ。


「危険ですシグルスティア様。今は市場に出回っていませんがそのうち出ることだって・・・。」


「大丈夫ですよジェイナさん。それにシオンに何かあってからじゃ遅いんですから。いいですよね、お母さん。」


「シグ・・・。ええ、わかったわ貴方にお願いするわね。」


母さんはジッと僕の目を見ると、何かが分かったかのように頷いてくれた。

ジェイナさんも反対の色を出し続けていたが、僕を見ると諦めて折れてくれた。

聖獣の森、一度は行ってみようと思っていた場所でもあるし、いい機会だ。

僕はその夜、母さんの寝室を訪れた。


「シオン、お兄ちゃん行ってくるからね。」


まだ小さなシオンの頭を撫でてやる。

彼女は僕がこれから自分のために冒険へ出かけること等知らずにぐっすりと眠っている。


僕は早朝には家を出て一人、聖獣の森へと向かった。

それが想像を絶する冒険の始まりであるとも知らずに・・・。

いや、言ってみたかっただけだよ。





次話から本格的に聖獣の森編に突入します。

今回は冒頭の入りの部分です、次話をお楽しみに!

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