第4話◆ブゥーとアルネの過去◆
僕の名前はブタ男(仮名)28歳。6人家族の次男として生まれ何不自由ない生活を送り大学卒業後、某食品メイカーの営業として活躍していたんだ…
そうあの日までは…
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あの日はとても暑い日だった…僕の額からは汗が垂れYシャツはベトベトになっていた。でもここは室内だもちろん快適な空調設備も整っている…汗の原因は暑さだけではなかった…アゴからたれ流される汗を感じる度に僕の心は凍り付いていくのがわかる…
ここは某総合病院。僕を死に追いやることになったのはある医師の一言だった…
忘れもしないあの医師とのやりとり…
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「せ…先生…もう一度言ってくれブゥー…」
「だ・か・ら・ねブタ男さん!君は慢性的な糖尿病にかかっているからこれからは食事制限しないといけないって事!」
「う…嘘だブゥー…」
「嘘じゃない!このままじゃ死んじゃうよアナタ!」
僕は日頃の大食いがたたり慢性的な糖尿病にかかってしまったのだ。食事制限しないとこのままだと死んでしまうらしい。
食欲…
人間の三大欲求のひとつ…でも僕にとっては最重要欲求だった…その欲求に制限がかかる事の辛さが君達にわかるか?
もうラーメン三郎ベトベトカラカラ油豚骨ラーメンも食べれないと言う…
吉屋のつゆベッチョリ超ダクダク牛丼も食べるれないと言う…
ポテトチップスも1日ひと袋…
サラダ油ボトルも一気飲みできない…
………
………
だから僕は死んだ方がいいんだ…人生の最大の喜び『食』に制限がかかることの辛さ…誰が知る?僕に残された道…
だから僕は樹海に来たんだ…
「…っと言うわけだブゥー…だから僕は死ぬしかないんだブゥー…」
「………」
「………」
「プ…くだらないアル」
アルネ男である。アルネ男は口元を手で押さえ皮肉を込めて笑っているようだ。ブタ男は眉間にシワを寄せアルネ男に問い詰める。
「何がくだらないんだブゥー?」
「そんなん食事我慢して他に楽しいこと見つければすむ話アル!君は死ぬ資格ないアル!本当に死ぬほど苦しいとは何か教えてやるアル!」
そしてアルネ男もゆっくりと自分の過去を語り始める。
………
………
僕の名前はアルネ男(仮名)35歳。僕は四川省のとある農家に生まれた裕福ではけっしてなかったけど幸せだった…優しいお母さん、厳しいけど第一にボクの事を考えてくれるお父さん…
ボクはそんな両親を尊敬し大好きだった…僕の夢は両親を楽にしてあげること。
ボクは死に物狂いで勉強した…当時の中国は学力がすべてだ、一流大学を出ることは人生の成功を意味する…そしてボクは勉強のかいあって某一流大学に入学することができた…
そして卒業…
ボクの人生は保証されていた。これで金銭的にも両親を楽させてあげることができる…そうなるはずだった…ボクの人生を変えたのは教授の一言だった。
「アルネ男君、日本に行って技術を磨いてみないか?」
「………」
当時、大学では機械加工を専攻していた。教授が言うには日本に行って最先端の加工技術を学びその技術を中国の発展に役立ててほしい…っと言うことだった…ボクは断る理由もなく二つ返事でOKしたんだ。
そして日本へ…
ボクは一流メーカーに外国人研修生として迎えられた。日本の最先端NC技術を学べる…日本のノウハウを学べる…
そう思っていた…
………
………
1ケ月がたち2ヶ月がたち…ボクに任せられる仕事と言えばバリ取りとハーネスの組み立て…いわゆる雑用だった。毎日深夜まで残業し単純作業の繰り返し…でもいつかNC機器を学ぶ事が出来ると信じていた。だから頑張る事が出来た…全ては親のため母国の発展のため。
………
………
1年がたち2年がたった…
いまだにバリ取りとハーネスの組み立てしかやらせてもらえない…自分自身、不安になっていったよ…このまま何も出来ず終わるんじゃないかって…そしてボクは社長に直訴したんだ。
「………」
「………」
「もう一度言ってみろ」
「いや、だからアルネ…NC機器を動かしたいアル…単純作業はあきたアル…ボクは日本の最先端技術を学びにきたアル」
「シナ人に日本の技術がわかるとでも?」
「………」
ボクは全てを理解した。この社長は中国人を差別している…この社長の元では一生技術を学ぶことは出来ないと…
屈辱だった…
この2年は全く意味の無いもの…そしてこのまま日本にいても…そしてボクは帰国することにした…
当時の研修制度は帰国時に今までの給料が全額支払われることになっていた。ボクは帰国前日、社長の前で給料を受け取った。
「………」
「………」
言葉が出なかった…
研修生の時給は700円と聞いていた…しかし明細には250円とされていた…さらに毎日の深夜までの残業は全てカット…ボクの計算より300万円少ない…僕は悔しくて悔しくて…そんなボクを見て社長は言った。
「シナ人!給料もらったらとっとと消えろ!俺はテメー等シナ人がで〜嫌いなんだよ!研修生入れろって役所が言うから仕方なくな〜」
「………」
「おい!何固まってんだよ!シナ人にはお似合いの給料だろ?パクリ大国のクソシナ!」
「話が違うアル…」
この時ボクの中の何かが音を立てて切れた…
「話が違うアル!時給700円のはずアル!残業代払えアル!ボクが中国人だからこんな酷い仕打ちするアルカー!」
「そうだ!シナ人はゴミ以下だ!金払ってやるだけ有り難く思え!」
「………」
「………」
「……う」
「ウワァーーー!」
ボクは自暴自棄になってその場から逃げ出した。屈辱の連続…ボクは自分自身がもう嫌になっていたんだ…
そして樹海に来た…
「…っと言うわけアル…ボクは中国を否定され自分を否定されもう自信がないアル…もう死ぬしかないアルネ…」
「………」
「………」
「……プ」
3人がある男の顔を一斉に見る。清水である…清水は皮肉を込めて笑っているように見える。アルネ男は眉間にシワを寄せ清水に言った。
「何がおかしいアルカ?
「ククク…そんなん全然自殺の理由になってねーよ!大体ずっと中国に暮らしている人もいるんだろ?中国に戻れば済む話じゃん!贅沢な悩みだ!大体、親はどうすんだよ?」
「………」
「俺が自殺する正当な理由を教えてやるよ!」
そして清水は自分の過去をゆっくりと話始めるのだった。