基地外気分
何もなく。そう何もない。そう思い込んでいるだけだろうとは思う。けれども指摘する第三者はいない。私一人、何もないと、思い込んだ時点で何もがなくなってしまった。それが事実であり、誰かが否定すれば事実ではなくなり、しかし誰もいないので私だけが残る。全てにおけるポジティブな意見は想定の範疇に留められ、全てが最悪の事態で彩られている。陰惨とした景色、腐敗臭。刺さる。刺さる。垂れる汚物、赤々と血液。痛い……痛い……。
苦しんだふりをして、楽しいか? と笑う声が聞こえる。楽しいのだろうか? なあに、何も分からないのは君が阿呆だからだ。阿呆なことは悲観するものでもない。そうは思えない? いやあすまないすまない、顔には出てしまうものだなァ。いやしかし、悲観するものでもないよ。ハハハ。
このクソッタレが何時まで経っても気味の悪い薄ら笑いを止めない。ムカツクから握り締めた拳がクソッタレを殺していた。クソッタレはそこらのクソとなんら変わらない存在となった。
似合っているぞ。ハハハ。薄ら笑いを返してやる。笑顔は似合わない。
膝が笑う、口から血の泡を吹いて笑う。
イヤァ良いもの見せてモラッタヨ。ゴボゴボ。まるで愉快。あいつはいつも好かなかったからネ。もっとヤレもっとヤレ。
分かった。と膝を鉄の拳が打ち砕いが。
ガボガボ。ユカイユカイ。ガボがボ。
愉快。愉快。何が愉快なのか。何を、何で笑うのか。そんなにおかしいのか。こんなに苦しいのだよ。笑うな。ただ黙らせてやっただけだ。黙った。それで終わりだ。
私も黙って蹲ろう。
見て下さい。これが世にも有名な蹲る像!
蹲るゾウ! なんちゃって! つまんねぇぞ、ハハハ。笑ってるじゃないですか! ハハハ。
次は笑ってやらねぇからな! ハハハ。
ハ? 何で笑うの? 五月蝿いですよね。然りと、じゃあ大丈夫だ。相手が黙る。ちょっとガボンガボン、ビュルんビュルんと珍妙な音を立てるけども、あぁ静かになった。大丈夫だ。
蹲っていれば平和だ。……平和なの? 本当に? そうは感じない。だって苦しいってまだ感じている。瞑った先に闇が現れて、その闇が笑っている気がする。気がするだけならただの妄想? じゃあいいよ笑っていると訂正しよう。笑っているよ、闇が。何だか格好良い台詞だね。でも微塵にも格好良くないよ。
黙れ。また一人静かになった。また珍妙な音を立てている。ちょっとその音も五月蝿いよね。五月蝿くしないようにすれば良いのサ。
成程成程。これは中々不味くもない。ちょっと味付けが恋しいナァ。久々に味わったこの感覚。ちょっと幸福を思い出している。ちょっとだけね。顎を必死に動かして、可愛い。必死に動かしているから時間も忘れる、周りも忘れる。今は完全に一人きりだ。そうだね。
不意に相槌を打たないでほしいね。じゃあお代わりを頂こう。四肢もまた、臀部でも、眼球でも良い。これがまた美味しい。
本当に美味しい? ナンダナンダ、グルメに文句でも言いたいのかネ? 君。それにしても君の舌は美味いネェ。焼けばもっと美味くなったろうに、いやいやこれでも美味いのだろうネ。そう思うネ。
大丈夫かい? 蹲って何ヤッテンダネ?
そうだった、これは妄想だったのか。其の通りサ。これもあれもそれも全部君の妄想。勿論僕だって妄想。僕の妄想だったのか。
そうか僕は一人ではないのダネ。
いやそれは本当。ハハハ。