第8話 End of Service
いつものようにパソコンでアーヴァウォッチをやっている夕方のことだった。何気なくスカイぺを開くと『アノマ』からメッセージが来ていることに気が付いた。メッセージ内容はなになに…、「お前、カードゲームやったことあるか?」という文章だった。
こんなことなら通話中に話してくれてもいいのに。そう思いながらメッセージを返信した。
「やったことないよ、おすすめのやつある?」
返信はすぐだった。どうやら今スマホやパソコンで人気の『シャドウ・ダンス』というゲームが人気のようだ。まぁ、ちょうど暇だったしカードゲームもやったことないから教えてもらおうかな。
…この判断が間違いだと気が付いたのはルールを教えてもらったその直後のことだった。
「弱っ!!!!お前弱すぎない!?」
「え…。そうかなぁ。俺初めてだからさ…。」
「いや、初めてにしても弱すぎない?あ、今の動きnoobじゃね?」
なんだこれ…。初心者にいきなりダメだしし始めたぞ。それに僕は初期デッキなのに明乃真君は課金デッキだし…。
「あ、俺社会人の人に呼ばれたからアーヴァウォッチやるわ。じゃあな!」
「ああ、うん。じゃあね、明乃真君。」
勝ちたい、ただ勝ちたい。一勝だけでもいいんだ。
それからというもの、僕は何度も何度も練習を重ね、デッキは課金して手に入れた最強カード、『漆黒の旋風師 イグニス・チェール』もデッキに入れたんだ。
1か月後、何とか俺は勝ち上がり、全国ランキング1位にまで上り詰め、もう敵なしというところまで来たのだ。
「これなら、もう明乃真にも負けない。今こそ再戦の時だ。」
あの時言われた言葉を撤回してもらおう。もう僕は誰にもバカにされない。フレンド欄の明乃真の所にメッセージを送った。
「シャドウ・ダンス久しぶりにやらない?」
やはり、返信は異常に早く帰ってきた。だが、その内容はあまりにも予想外な反応だった。
「え?まだあのゲームやってたの?俺糞ゲーだからアンインストールしたよ。だってぶっ壊れカード多すぎて面白くないし。『漆黒の旋風師 イグニス・チェール』だっけ?増えすぎて糞ゲーだな。お前もやめたほうがいいよ。」
な…、なんだって。あまりにも衝撃的で何も返信ができなかった。あの、ゲーム好きの明乃真がゲームを否定するなんて。今までで見たことがなかった。
だが、悲劇はそれだけではなかった。仕方なくアプリ『シャドウ・ダンス』を起動すると見慣れない画面が開いた。それはアカウント未所持者のログイン画面だ。
「え…。嘘だろ…。そんな!!!!」
そう、俺のアカウントは奪われていた。アカウントマラソン、通称アカマラだ。俺が今まで培ってきたデッキや課金してでも手に入れた最強カードが一瞬にして無になったのだ。この今までのすべてが無駄だった。
やり場のない怒りを今まで収めてきたことはある。だが、今回ばかりは怒りが止まらなかった。憎い、すべてが憎かった。
「あああああああああああああああああああ糞がああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
大声に出してみても、ただ自分の声が部屋にむなしくも反響するだけだった。こんなに苦しくても、誰も助けてはくれない。友達も所詮はゲームだと言って話すらまともに聞いてはくれないだろう。
こんなセキュリティの運営も許せない、奪うやつも許せない。そして、何より俺のすべてを否定した明乃真を絶対に許さない。
こんな怒りの感情をあらわにしている、その時だった。スマートフォンの画面から、何やらいつもに増して光がさしていた。なんだ、これは・・・?
恐る恐る画面を見ると、そこには今頃アカウントを売却され、データもろとも他人に流されたはずの『シャドウ・ダンス』のカードたちがいた。よく見ると『漆黒の旋風師 イグニス・チェール』もいるじゃないか!?どういうことだ?
混乱する僕を置いていくようにイグニス・チェールが話し始めた。
「闇の意思の実行の時は、既に近し。」
「闇の意思の実行…?」
考える暇などはなかった。まばゆい光がスマホから放たれると同時に自分の意識が少しずつ遠のいていくのが分かった。
僕は、今何を見てるんだ――――――――。