第3話 Collision
いやー、なんだろう。普段学校でちやほやされる事なんていないからこんなにも気持ちがいいものだとは思わなかった。それにしてもこの「星沢」ってやつ、僕が術を使えると分かったとたんに飛びついてきたな。意地汚いやつめ。きっと学校でも嫌われてるんだろう。
そう内心考えながらも、僕は笑顔で握手に応じる。昔飲食店で働いていた経験が役に立ったようだ。
「こんなすごい術使えるのは熊木君除いて君だけだよ!今度僕にもコツ教えてよ!」
「熊木君? 熊木君って人もその技を使えるのかい?」
「ああ、熊木君ね。そう、彼もまた技を沢山使えるエリート新入生なんだよ。」
熊木君…か。この世界では難しいといわれている技を使えるのが僕以外にもいるのか。夢の中くらい僕だけが無双する世界にしてほしかったと心から思ってしまった。そんな話をしていると、授業のチャイムが鳴り先生が生徒にひと声かけた。
「おい!皆も明乃真を見習うように!来週までの課題だ!この3連休は2日は技の練習しろよ!!」
メガホンのように大音量を発して警告している先生とは裏腹に、静かに帰る準備をしている生徒がいるのに気が付いた。どうやら先生も同じだったらしく、ムッとした表情でその生徒に話しかけた。
「なんだお前…。もう帰る準備か?熊木ィ?先生がまだ話してるだろ!!あぁ!?」
「そっすかね? 先生、授業はもう終わってるっすよ。」
なんだコイツ…。コイツが熊木ってやつか。なんだか妙に肝が据わっていて嫌な奴だな。そう思っているのは星沢の表情を見る限り、僕だけではないようだ。
「じゃ、僕帰りますんで。先生さいなら。」
先生もあっけにとられたらしく、おう…。と小さな声で返事をすると熊木が教室から出て行った。再び、教室に静寂が戻る。
「フン、まぁ挨拶だけ出来たのは評価してやる。それじゃ、起立!」
と先生が声をかけ、こうして波乱の授業が終わった。それにしても熊木ってやつ…、なんかエリートぶってて気にくわないな。一体どんな奴なんだろうか。
そんなことを考えていると僕の腕を引っ張り星沢が話しかけてきた。
「ねぇ明乃真君!今日の授業終わったしさ、もう一回あれ見せてよ!食堂で何かおごるからさ!」
「夕飯か。あぁ、いいよ。だけど俺も教えてもらいたいことがある。いいかな?」
そういうと星沢はお安い御用だよ!と快く承諾してくれた。まず、俺たちが通っている学園だ。情報技術魔導学園、通称JGM。この学校では現実世界で言う『IT用語』が魔法になっているようで、その技術を学びに生徒たちが熱心に勉強をしているらしい。全寮制の共学の学園だそうで、学園祭では毎年学園一綺麗な人を決める『ミス・JGMコンテスト』が開かれるのだそうだ。
なるほど、この初めての友達、星沢によって俺の置かれた位置がだんだんわかってきたぞ。つまり俺たちは新入生で、入学早々テストを食らったようだ。その良し悪しでクラスが決まってくるらしく、必死に皆勉強をしているのだという。
「あ、俺はカレーで頼むわ。一番辛いやつで頼む。」
「わかったよ。じゃあ僕ラーメンにしようかなぁ…とりあえず席座ろうか。」
学食は大人気のようで人がたくさん賑わっている。何とか3人席を見つけると俺たちはそこに座った。
「ねぇ、見てよあの子。すっごいかわいいと思わない?」
「あ、あぁ。確かに…可愛いな。」
確かにこの学園にしてはひときわ目立つ可愛さだ。というか星沢はこの人ごみの中で美女を見つけるとは…。美女を探すレーダーでもついているのか?
ひと際目立つ美女を目で追っていると、その子がこちらに気付いたようでこっちに駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。相席してもいいかな?今、席がいっぱいで…。」
僕たちは顔を合わせると、震えた声で「ど、どうぞ。」と答えた。こんなラッキーなことってあるのかよ!?
「あ…。自己紹介がまだだったね。私は安部 夢瑠よ。よろしくね。」
「え…。夢瑠さん!?今年のミスコンで優勝したあの夢瑠さん!?」
こ、この人が学園一の美人、夢瑠さんなのかッ!?