第12話 Virtual Box
多少力を出しすぎてしまったのか、この技には精神力を浪費することが目に見えてわかった。立っていると頭痛と眩暈がして、吐くものもない胃袋から何かを吐き出してしまいそうだった。気が付くと俺は床に倒れこんでいた。
今にも熊木の安否を確認したいところだったが、意識は途切れ、やがて視界がどんどん狭くなっていることに気が付いた。俺は…この世界で死ぬのか…。
「どうやら間に合ったみたいね、須藤君。 いや、正確には「Sudo」と呼ぶべきかしら。」
「ユメル先輩…? どうしてここに……。」
「まぁ、その状態なら話は後ね。 今は治療に専念したほうがよさそうかしら。」
そういうとユメル先輩は手に黄金の光を宿し、俺の知らない呪文を唱え始めた。
「リストア。聖者の希望を呼び戻せ。」
すると見る見るうちに先ほど食らった傷や倦怠感が薄れ、意識すらはっきりとしてきた。なんなんだ、この呪文は…!
「この呪文は正確に言うとあなたを1時間前の状態に戻しただけよ。 危なかったわね、あと数十分戦闘が長引いていたら全治2、3年ってところかしら。」
「あ、ありがとうございます! でも、どうして先輩が?」
「そうね、あなたはこの世界を『知る』権利があるもの。 ただ一つ、約束があるわ。 絶対になにがあっても後悔しないって約束して。」
「ええ、絶対に後悔はしません。 約束します。」
そういうとユメル先輩、いやユメルさんとこの人物は呼ぶべきか。 フフッと少し笑顔を浮かべると話をつづけた。
「あなたって人は本当に強いのね。 いいわ、この世界について教えてあげる。」
そういうとユメルさんは数歩あるき、熊木の手にしているスマートデバイスを手に取った。ホームボタンを長押しするとAIの自動オペレーターに接続した。
「サリー、今の世界について教えて。」
そういうと謎のデバイスからまるでそこに人がいるかのように流暢な言葉を巧みに発信する。
「はい、現在の世界状況は『操躯者』が6位にランクインし、過去6位であった『妨害の愚弄』がシステムから除外されました。 こちらは新たに『想像の原子』としてユーザ登録されています。」
「やっぱり、イグニスが6位だったのね。 じゃあ現在のキャラクターリストを見せてくれる?」
「はい、こちらの情報がデータベースで見つかりました。」
謎のデバイスからプロジェクターのように文字列が出力され、黒板である緑の背景に次々と文字が移されていった。これは、ゲームのキャラクターデータか?
シャドウ・ダンス2 βテストキャラクター一覧
Python 登録名 安部 夢瑠
Atom 登録名 舞踏・A・セオ
Dylan 登録名 山口 時石
Kyabet 登録名 イグティス・ギョニク・オライムス
Sudo 登録名 須藤 亜乃万
・・・・・・
待て、今なんて見えた…?
Sudo 登録名 須藤 亜乃万
静かに背後からユメルさんの声が聞こえた。
「辛いことを言うようだけど…私たち…この世界で作られた『ゲーム』のキャラクターなのよ。」