第10話 Spoofing
「…とまぁ、話せば長くてね。僕の復讐劇の始まりはまぁざっとこんな感じかな?…そうだろ、イグニス・チェール。」
今まで下を向いていた熊木が顔を上げると、まるで鮮血のような真っ赤な瞳を浮かべこちらを凝視した。その怨念に満ちたその表情はまるで絵本に出てくる悪魔そのものだった。
教室内では風が吹き荒れ、教室に設置してあった机や椅子などが飛び交っている。とてもではないが対抗するすべがない以上、ただ大嵐のような風の中かがんでいるしかなかった。なにか、秘策は無いのか。
だが一つ、俺は違和感を感じた。それは大嵐の中、かすかに熊木が発した一つの言葉だった。
イグニス・チェール。それは昔、熊木がシャドウ・ダンスのリセマラで当てたURカードだ。あの時は大喜びして俺の番号に通話をかけてきたっけ。でも何故今、その名前が出てくるんだ?
もう一度熊木の顔を凝視する。漆黒のような黒髪、そして真っ赤なその瞳。勝ち誇ったようなその口調。…なるほど、こんな簡単なことじゃないか。
「お前、熊木…いいや、パスタじゃないな?」
「何故そう思った?」
「まず第一、あいつはそんな口調で喋らない。まぁ普通に考えたらそれ以前に目が赤いなんて変だろ?」
「ふぅん、それが君の考え?まぁ僕は僕だから、それ以外の何でもないよ。僕が熊木。そう、パスタさ。」
「じゃあ、一つお前に忠告してやる。パスタは一人称に"僕″なんて使わねえ。パスタの一人称は"俺"だ。覚えときな、『イグニス・チェール』さんよ。」
「ふざけやがって小僧!!殺してやる!!」
「お、ようやく化けの皮が剥がれたみたいだな。」
ああ、間違いない。あいつはパスタなんかじゃねえ。イグニス・チェールに乗り移られているんだ。だが、奴の言うことが本当ならば、俺はあいつを無意識のうち傷つけていたかもしれない。…助けなきゃ。そして、正気に戻して今までやってきた事を謝るんだ。なあに、お前を助けるのはゲームで慣れてるさ。
待ってろ、パスタ。今助けてやる。