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あれ、ハーレム?

 誰が、カボチャ騎士だ。そう思った俺だったが、彼女らはお構いなしに俺の上になにがしかの液体を振りかける。ビチャビチャ。や、やめろ、顔の中の火が消えてしまう…消えたら…多分なんともないだろうけど。


「これは、町で売ってるポーションです。人間ようなので、カボチャ騎士さんに効くかどうか解りませんが…とにかく、無事でよかった。」


 そう話すのは、金髪のショートカットの女の子。目はクリッとしていて、カワイイ、というタイプだろう。真っ先にモテる部類に入る。なんで冒険者何ぞやっておるのだ。取りあえずポーションは効いてるみたいで、身体は随分楽になった。


「サラ、カボチャ騎士に断ってからポーションかけなさいよね。」


 金髪ショートはサラという名前らしい。うん、素敵なお名前で。で、今喋った向かって左の女の子は、水色の腰まで伸びる髪の毛が美しい美人さん。これは…お高く留まりそうな雰囲気だな。意外と美人過ぎてモテなかったりするタイプだ。「俺にはハードル高い」とか言って男子諸君が諦めるタイプの奴だな。気の強そうなブルーの目も相まって、そのハードルの高さはうなぎ登りだ。


「あ、ごめんなさい。でも、凄い傷だったらかつい…。」


 サラ、という子はしゅんとして眉毛を八の字にしてしょげている。うん、何とも感情表現が豊かで可愛らしい。さぞかしモテるだろう…なんか俺、さっきからモテるかどうかしか考えていないな。


「カボチャ騎士さん、マジックポーションもかけますね。」


 断りを入れてきたのは、右に控えていた緑色のボブの女の子。ダバダバと緑色の液体が注がれる。口の中に。いや、俺まだ何も返事してないからね?良いとか悪いとか!

 ボブの子は、何というか涼し気な表情で淡々とした印象がある。まとめ役でもあり、でも前に出過ぎないというか。上手く気を回せる感じというか。どこか鋭さを感じさせるエメラルドグリーンの瞳は、物事を冷静に見極める性格を宿しているような印象。可愛いけど近寄りがたい、そんな感じだな。


「ユミル、あんたも返事待たずにかけてるじゃない。」

「え?でも喋れなそうだし?時間かけずにやった方が良いでしょ。」


 うん、ユミルは合理的な感じの子、という事だろう。

 っていうかこの状況。美女3人に俺が囲まれている!これは28年にわたる俺の人生初の出来事!何気にスゲー緊張してきた!やばいこういう時どうしたらいいんだ!?いや、先ずはお礼か。というか俺は今声でないんだよな。どうしたらいいか…取りあえず、起きて一礼だな。


 俺はムックリと起き上がる。この子たち、俺がモンスターなのに全然警戒しないのな。そんなんだからガルムと鉢合わせたりするんですよ。注意しなさい。

 と、思いながらもその場でお辞儀をする。有難うございました。ポーション、効いたみたいです。ペコリ。


「あ、なんか可愛いです!御礼をしてくれたんですね。こちらこそ、命を助けて頂いて、有難うございました!」

「うん、その、有り難う。助かった。」

「あたし達、この階層は初めてのトライだったんだ。事前情報をちゃんと把握してなかったのはミスだよね。貴方には感謝してます。有り難う。」


 うむ、凄くこそばゆい。俺は美女3人からニッコリと微笑まれ、たじろいでしまう。じり、じり、と後退りそうになるのをじっとこらえる。

 そういえば、この身体になってから喋ろうと思ったこと無かったな。試しに喋ってみようか?どうなるかな?


「ボボボボ。ボボボボ。」


 なんか口の中の火がデカくなったり小さくなったりするだけだった。残念だ。美女とお知り合いになる生涯初のチャンスをモノにできないなんて。いや、これ喋れても絶対冷静ではいられないと思うけど。


「あは、なんか言ってくれてるみたいだよ?可愛いね!」

「まあな、確かになんか可愛い見た目よね。」

「なんか、気を使ってくれてるんだよね?ありがと!」


 女子三人がペタペタと顔を触ったりしてくる。う、うむ。この俺がカワイイとか。これはガルムと闘ってる時よりピンチかも知れん…女子経験の少なさがここで発揮されている…。

 あ、でもこの子たちにこれ以上ダンジョンでうろちょろされるのは困る。何かで伝えないと…。そうだ、壁に付いたススに文字を書けば良いじゃないか。我ながら良い思い付き!


この階危険。下の階に戻れ。


 ガリガリ、ガリガリ、っと。こんなところでどうだ?


「ねぇ、なんか書いてるよ?動いてるのも可愛いね!」

「中々愛嬌があるわね。」

「そんなこと良いから、でもあの文字読める?見たこと無いんだけど。」


 げ、そうか、俺は文字は日本語しか知らないけど、それは通じないんだな!今更だけど言葉自体も翻訳なのかな?これじゃやっぱりコミュニケーション手段が無いな。


「なんか、良くわかんないけど、可愛いからもうちょっと一緒に居たいー。」

「サラ、もうボチボチ行きましょ、アタシはなんかさっきの鳥でもういっぱいいっぱいだわ。帰ってお風呂入りたい。」

「また明日以降、作戦を立て直しましょ。サラ、行くわよ。」

「えー、帰るの?まだちょっと残ろうよー。」

「だーめ。帰るの。あんた1人おいてっちゃうわよ?」

「ええー、それはヤダヨー。」


 おお、そうだ。もう今日は帰りなさい。出来れば、明日以降もダンジョンはやめなさい。俺としては、美女に囲まれてるのは吝かではないが…、俺はもう人間じゃないんだしな。


「じゃあ、カボチャ騎士さん、またね!」

「今日は、有り難う。またね。」

「有難うございました。」


 3人が去っていく。俺はブンブンと手を振る。これくらいは出来るからな。名残惜しそうにサラがこっちを振り返っている。こういう顔されると、ちょっとキュンと来るよね。うん、我慢我慢。あなた方は冒険者なぞやめて、まっとうな仕事に着きなさい。

 

“随分良いご身分みたいね?ヒュプノス君?”


 げ、神様!何故このタイミングで!?まさかずっと見ていた?


“どうかしらねぇ。人間にちやほやされて鼻の下伸ばしちゃってさ。僕というものがありながら!”


 いや!鼻の下は伸びてないぞ!鼻が無いからな!というか僕というものがありながらって何ですか!


“あんまり人間の女の子に入れ込むようなら、ちょっとしたモンスターを送りこんじゃうぞ!”


 やめてください。痴話喧嘩で人間を殺すのは、やめてください。


“あはは、ま、冗談はさておき、この短期間で良くガルムを倒したねぇ。おめでとう!”


 有難うございます、ご機嫌が戻ったようで何よりです。


“実はね、強くなった君にイベントのご招待が来ているよ。他の神様たちと、その異世界眷属が一堂に会することが決まってね。君にも来てもらいたいのさ。”


 それは…ほかの神様も異世界の眷属が居るんですね。


“そうだよー。ただ、まあ、それなりに長い時間こっちの世界に居る筈だから、みんな先輩ってことになるけどね。”


 それなりって、どれくらいなんでしょう?


“うーん、1年位先輩って感じ?僕はダンジョン建設を優先して眷属召喚は遅くなっちゃったからさ、ヒュプノス君は他の子たちより後からこの世界に来たことになるんだよ。”


 そうですか。この生活を一年続けてたら…。それは大きな差になるでしょうねぇ。


“あ、でも彼らはレベル上げなんてしてないと思うよ?まあ生前の異世界の話で盛り上がってみてよ。”


 話が合えばいいですけどね。頑張ってみますわ。


“じゃ、そういう事だから。会合の時期が来たら勝手にこっちで呼び出すからねー。”


 …念話が切れた。そうですか。何のための確認だったのだろう。勝手に呼び出すんだったら、俺の意思の確認とかマルっと無駄だよな。

 まあ、他にも異世界からやって来た連中が居るのは有り難いな。あ、でも全然違う星とかだったらどうしよう?なるべくなら日本が良いなぁ。

 さて、ポーションで体力も大分戻ったことだ、3階も探索してみましょうかね?


 俺はガルムの寝ていた広間から3階へと昇る。ギギギっと扉を開くと、目の前は廊下。この階層の昇り階段は当たり前だけど別の場所に設置されているらしいな。廊下の左手は直ぐに行き止まり、右手に真直ぐ道が伸びている。

 と、その奥にデカいシロクマ発見。ステータスチェック!


ウェンディゴ

HP 90/90

MP 30/30

攻撃:95

防御:62

魔力:31

知力:30

俊敏:22

スキル:アイスブレス

スペル:スノーボール


 あれがウェンディゴか。かなりしっかりしたステータスだが…魔力・知力が低いから俺としてはやりやすいな。属性も逆だし。遅いし。角はトナカイみたいだなぁ。立派。

 「スリープ!」俺は間髪入れずスリープを発動。後はファイアボールで、ドカドカ雨を降らせる。だが、結構HPが高く、寝てる間に仕留め損ねた。

 ウェンディゴは目を覚ますと、のっそりと立ち上がり俺に向けて右腕を振り下ろす。ガン、という衝撃音とともに床が爆ぜるが、何しろスピードが遅い。俺はその場で右に跳躍して、奴の頭にグリムリーパーを突き刺す。斬!うん、ガルムに比べれば大分やりやすいな。

 それきりウェンディゴはぱったりと倒れ、霧へと還っていった。魔石は例によってデカいので、目から取り込む。


・ヒュプノス

【種族】ジャックランタン LV.10(10/15)

HP  51/83

MP  60/125

攻撃:126(+15)

防御:44

魔力:64

知力:73

俊敏:70

スキル:ファイアブレス

スペル:スリープ、セルフバーニング、ファイアボール、ブレイズウォール、ヒートグラップル

加護:ハイディング、ダーククラウド、シャドウチェイサー、ステータス

装備:グリムリーパー(攻撃+15)


 あ、レベル上がってる。魔石の効果が解りにくくなっちまったが、HPと攻撃、防御かな?ジャックランタンはその辺上がりにくいからなぁ、ウェンディゴはいい獲物だな。

 





 3階、4階の探索は取り立てて特別な事も無く進んだ。ガルムの時が特別過ぎただけで、俺がやってるのは要するにレベル上げだよな。だから取り立てて特別なことがいちいち起こる筈もなく。もっぱら毎日がウェンディゴとコカクチョウ、オーク・キングとの戦いに費やされた。

 あれきり女性冒険者はこのフロアにはやって来ていない。というか、俺が3階から下に下りてないから会ってないだけなんだろうが、もう面倒だからいいやと思う。神様も怒るし。

 そんなわけで、俺は今日もレベル上げをやっていたのだが、


ピロリン!


 お、来たな!今日何匹目かのウェンディゴを倒した所で、マックスまでレベルが上がったようだ。

一応ウェンディゴの魔石を取り込んでから、ステータスチェック。


・ヒュプノス

【種族】ジャックランタン LV.15(15/15)

HP  118/118

MP  130/150

攻撃:149(+15)

防御:54

魔力:77

知力:90

俊敏:80

スキル:ファイアブレス

スペル:スリープ、セルフバーニング、ファイアボール、ブレイズウォール、ヒートグラップル

加護:ハイディング、ダーククラウド、シャドウチェイサー、ステータス

装備:グリムリーパー(攻撃+15)


 いやー、思えば遠く来たものだ。魔石がレベルアップより効果を上げてる。


“ヒュプノス君、おめでとう!次の進化にたどり着いたね。僕としては可愛らしい今の姿のままでもいいのだけど?”


 是非とも次の進化をしておきたいところだね。という訳で、ステータスをスライド。


・サラマンダー(火)

・シトリー(風)

・オーガ(土)

・ジャックフロスト(水)


 あ、ジャックさんいるよ。今回もかわいい系がいるよ。拘りかなんかかな。


“仕様変更間に合ったんだよ、ヒュプノス君!詳細は各項目をポチっとな!”


 古臭いな。まあいいや、ポチっとな。


・サラマンダー

 炎の精霊の具現。トカゲのような容姿をしており、火炎の魔術を複数操る。水・氷結に弱い。


・シトリー

 豹のような体つきに翼が生えた妖精。風属性だが魔術全般の心得があり、物理攻撃にもそれなりの力がある。


・オーガ

 人間や動物を食らう鬼で、ハンマーによる強力な物理攻撃が主体。魔力については弱く、知力も低いため魔法防御が難点


・ジャックフロスト

 カワイイ。めっちゃカワイイ。


 へー、何となくモンスターの特性が掴めるわけだ。有り難い。

 …一番下のヤツ、情報がまるで役に立たないんですけど。神様真面目にやってます?


“大マジだ!そして僕はジャックフロスト一点張りだ!”


 うん、じゃあ、シトリーで。


“なんで!?僕の話を聴いてなかったのかい!?”


 いや、ジャックフロスト、カワイイ以外の点が謎すぎるのと、シトリーのステータスがバランス良すぎるので。一応僕、命掛かってるので、カワイイ一点張りはちょっと。


“く、データに私情を挟み過ぎたわ…失敗した。…ジャックフロストはこの中で一番強いですよ!”


 嘘つけ。流石に声が上ずってるぞ神様。シトリーでお願いします。


“わ、解ったよ。残念だなぁ、悲しいなぁ、グスグス。”


 そんなことを言いながらも、神様は転移魔法をかけてくれる。流石に勝手にジャックフロストにしたりはしないだろう。

 暗黒に包まれていた俺の身体は、ふと気づくと小洒落たバーのカウンターに座っていた。傍らには、蝙蝠の羽を生やした美女、らしき姿。


“いやあ、人間の女の子に取られちゃうのはちょっと耐えられないからね、少しイイ雰囲気の場所にさせてもらったよ。”


 心なしか神様の顔も印象に残るようになってきてる。俺の強さが少しずつ上がって来てるから、認識できるようになって来てるんだな。


“どうだい?君もワインなんて飲むかい?”


 お、良いですね。これで俺、結構イタリアン好きで、ワインは色々と嗜んだもんです。まあフレンチは高くてお呼びでなかったですがね。連れていく女の子も居なかったし…。


“ふうん?そうなのかい?ふふふ、こっちのワインもお口に合うと良いけど。”


 あれ、神様なんかちょっと艶っぽい雰囲気が出てますけど?顔があまり認識できないにも関わらず、凄い色気が漏れてくる。これ、気をしっかり持っていないと、すぐに魅了されてしまいそうだ。


“ヒュプノス君、今夜は二人で、飲み明かそうぜ?”


 口調は男っぽいけど、そこはかとなく妖艶な香りがしてくる。ああ、何だか、いい気分だ。夢心地、というか。

 神様の桃色の唇、吸い付くようなソレに見とれてしまう。ああ、あれにムシャブリつきたい。。。

 そう思ってキスを迫ろうとして、はたと気付く。

 俺、今はカボチャなんだわ。キスとか無理臭い。そこで、少し冷静になる。

 俺はここに何しに来たんだったか?進化?ってことは、この魅了は…なんか裏がある!?


“あら、もう気付いちゃったの?残念、魅了した後ジャックフロストを選ばせようと思ってたのにー。”


 神様酷いです!俺の純情を弄ばないでくださいよ!経験少ないんですから!

 っていうか、そうじゃなくて、俺はシトリー一択です!


“わかったよー、仕方ない。後悔しないでよー?『宵闇より来たりし時間の民よ、わが眷属の行く末を祝福し、その加護を彼の者に与えよ』”


 お、来た来た。大きな闇が俺を包み込み、意識を優しくどこかへと運んでいく。

 バーカウンターに一人残された夜の神は、


“全く、もう少し一緒の時間を楽しんだっていいじゃないか。最近、男日照りなんだぞぅ。”

 

 と、独り言ちた。


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