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VS.羅刹

ふー、何とか、終わったかあー。

俺は脱力してその場にへたり込む。あー、なんか最近はこういうギリギリの感じ多いなぁ。

しがない会社員だった俺が、剣と魔法で命の取り合いとは…何が起こるか分かりませんな。

俺はステータスを確認する。



・ヒュプノス

【種族】バルロッグ LV.19(19/20)

HP  82/254

MP  160/262

攻撃:300(+25)

防御:146

魔力:162

知力:176

俊敏:147

スキル:ファイアブレス、フェザーショット

スペル:スリープ、セルフバーニング、ファイアボール、ブレイズウォール、ヒートグラップル、ウインドカッター、クイック、ドレイン、アブソーブ

加護:ハイディング、ダーククラウド、シャドウチェイサー、影縫い、ミミック、ステータス

装備:バスタードソード、カザックナイフ


ギリギリだったなホント。ドレイン様々だ。


「時に、異世界の眷属よ。」


俺はビクリとして、振り向く。ゆっくり、それはそれはゆっくりと。

羅刹が何かを言おうとしている。でもって、俺にはそれが解る。トテモワルイコト。


「折角生き残ったのだ、我に生きているうちに借りを返すと言うのが筋ではないか?幸い、邪魔者は居ないようだしな。」


ギイイ、という音が聞こえるかと思うほど、口角を吊り上げる羅刹。

あの、私はどのようにしたらよろしいので?


「案ずるな、ただ我と試合をしてくれれば良い。」


案ずるわ!試合と書いて死合いだわ!俺余力ねえわ!


“あ、あー、羅刹さん、折角のご提案ですが、今のボロボロの俺とやっても、楽しめないんじゃ無いでしょうか?明日の朝まで待っていただくのはどうでしょうか。そうすれば、私も全力でお相手出来ますので”


全力で、がポイントになるはずだ。羅刹はお互い後腐れ無い全力勝負を挑みたがるはず!

これに釣られてくれれば…


「ふむ、成る程、一理あるな。では1日休むが良い。」


よし!後はそうだな、隙を見て出口から逃げ出せばいい話。何とかなるはず…いや、何とかしなければ!


“有難うございます。”

俺はそう声をかけると、逃げ出したいのを誤魔化すようにドッカリと腰を下ろした。


「何、安心して休むが良い。この空間は我が出入口をすべて閉め切った故、邪魔立てされる事も無かろう。」


キターー!死合い確定キターー!

まさか、部屋を閉じることが出来るなんてな…。はは、俺の命もここまでか…あんな筋肉ダルマに、どうやって勝てっつうんだ。

俺はしばらくあんぐりと口を開いていた。

 それを無表情に見下ろす羅刹。


「何を惚けておる?」


そんな声に、ハッとして我に返る。


“い、いえ、何も疚しいことは。”


 あ、なんか余計なこと口走ってるし。もうしょうがねえ、やるしかねーんだから。となったら作戦を立てなければ。

 正直、羅刹相手に作戦なんて猪口才なものが効くとは思えん。とは言え、ただ嬲り殺される訳にもいかない。どうやってあいつを出し抜けば良いんだ。ともかく、正面からの殴り合いだけは避けなければ。

 考えろ、命がかかってるんだ!どうやったら、奴の命が刈り取れる?


 気付けば随分と時間が経っていたらしい。俺のステータスも粗方回復し、後は開戦を待つばかりとなる。

 結局、羅刹とはタイマンでやり合うわけで、今までやってきたこと以上の何かが出来るわけでも無い。

 目の前で腕を組んだまま目を瞑って座っていた羅刹が徐に立ち上がるとゴキゴキと首を鳴らした。


「そろそろ準備は良いか?異世界の眷属よ。我はいつでも良いぞ。」


 あー、直観で俺の状態が解るのかねこの方は。仕方ねえ、やるか。俺は覚悟を決めると、羅刹に応える。


“いつでも大丈夫ですよ。”


 ニヤリと、音が聞こえるような笑みを浮かべる羅刹は、その場でグッと身構えると、何やら口上を切り出した。


「では…我が名は夜の神よりこの階層を預かる守護者羅刹!異世界の眷属よ、いざ尋常に、勝負!」


 何か、武士だよなあこの人。

そんなことを俺は思っている暇は無かったのに。


ドオン!


 壁にめり込む音。えっ?

 続いて鋭い痛みが右脇腹を貫く。

 何が起こったのか解らない。目に映るのは、豆粒のような大きさになった羅刹と、それからさっきまで俺が立っていたはずの地面。

 俺は羅刹の拳を受けて部屋の端までぶっ飛ばされていたのだ。


ガッハ!


 遅れて口から吐血する。内臓がやられた?

 頭に浮かぶ疑問を打ち消して、俺は行動を開始する。羅刹とは幸いまだ距離がある。

 『クイック』!『ドレイン』!

 まずは補助系から。辛うじて間に合ったが、羅刹が巨体に似合わないスピードで俺との距離を詰める。

 正面からの殴り合えば俺の負けは必至。じゃあどうする?

 『ヒートグラップル』!

 羅刹は最短距離を突っ込んでくる。ならば、そいつを絡め取って足止めだ。

 俺の左手から炎のムチが伸び、羅刹の胴体を捉える。


「むっ!」


 一言だけ発する羅刹。同時に、炎が赤々と燃え上がる!

よし、これで足止めしている間に次を…

 ブチブチブチッ!

 刹那、何かのちぎれる音。見れば、炎の拘束自体を引きちぎりながら尚も前進する羅刹の姿。


「猪口才!」


 振り上げられる右拳。

 不味い!

 俺はバックステップを踏みながら、両手の剣を交差してガードを固め、セルフバーニングを施す。

 ゴギャ!っという猛烈な音と共に後方へと吹き飛ばされる。

 が、確りガードを出来たおかげで、今度は何とか軽微なダメージで済む。

 すかさず、ドレインでHPを吸収していく。羅刹は搦め手を使ってこない分、ドレインは掛かりやすいのがせめてもの救いだ。

 対する羅刹は、セルフバーニングの炎が全身に纏わり付いてその皮膚を焦がしているにも関わらず、涼しい顔で此方を睨んでくる。

 チッ、化け物め!舌打ちを一つ。同時に次の攻撃に移る。こうしてチクチクとアウトボクシングよろしく削っていけば、勝機が見えてくるはずだ!

 そう思っていた矢先、羅刹が大きく息を吸い込む。

これは、何かヤバ…


ボオオオオン!


 瞬間、信じられない大きさの音波が部屋全体を包み込んだ。


─────


 異世界の眷属の動きをバインドボイスで拘束する。奴は軽すぎで、殴るたびに距離が離れてしまう。 

 そこを利用されているのは既に解った。ならば、逃げ道を塞ぐのみ。

 我に技を使わせるとは、流石に一介の冒険者とは一線を画する戦闘能力よ。賞賛に値するぞ。

 だが、それはそれ。残念ながら、この一撃でこの勝負、終わらせてくれよう。


 羅刹は猛スピードで距離を詰めると、未だにバインドボイスの拘束が解けないでいるヒュプノスに拳を叩きつける!

 ボボン!

 瞬間、視界に真っ黒い煙が広がった。


 これは…ダミー!?いつの間に!

 

 黒煙を両腕で振り払い、周囲を見渡すと、昨日仕留めた冒険者の影に隠れるように、奴の姿が。

 そうか、処理していなかった死体の影に、バインドボイスの直前に移動した訳か。何という機転、これは、思った以上に楽しませてもらえそうだな。

 羅刹はまたも口角を上げ、ヒュプノスとの距離を詰めていく。


─────


 あ、危なかった。冒険者の死体のことを頭に入れてなかったら摘んでたわ。

 しかも、バインドボイスのスキルもすっかり忘れていた。今回は何とか逃げおおせたけど、次はどうしようも無い。

『ブレイズウォール』!

俺はバインドボイスが解けるや否や、此方を振り返った羅刹に炎を浴びせかける。

 またも表皮を痛烈に焼かれながらも、1歩も退かずに肉薄してくる羅刹。本当に、コイツの痛覚はどうなってんだ!?マジで炎が効いてないんじゃないか!?


 俺は不安を押し殺しながら、突っ込んでくる羅刹を迎え撃つ。アウトボクシングでチクチクやる作戦が既にバインドボイスによって通じなくなった以上、接近戦にしか活路がない。

 いや、接近戦には元々活路なんて無いんだ。それは活路と言うより、体が麻痺ってる状態からぶん殴られるよりは幾分マシだという程度の話だ。


 羅刹が右の拳を振り上げるのが見える。そこからハンマーのような振り下ろし。

 ゴガン、という床がはぜる音。俺は右へ躱しながら、ドレインを放つ。攻撃手段を全てドレインに集約する。一撃もらえばアウトの所、HPさえ戻れば、首の皮一枚繋がるかも知れない。ドレイン一度で吸収できるHPは30前後。確実に、羅刹の体力も削って行けるはずだ。

 続いて、左拳の裏拳を、身体の軸を高速で回しながら放つ羅刹。それを、しゃがみながら回避。次いで、ダーククラウドを発生させる。そこにドレインを重ね掛け。

 

「ちょこまかと!」


 羅刹も苛立ってきている。余裕を無くさせ、こちらの優位に持っていく。

 ダーククラウドを突っ切って、巨大な拳を振り回してくる。視界不良は一瞬にして取り払われるが、俺は羅刹の足元でドレインを重ねていく。うん、だいぶHPが戻ってきた実感がある。

 今度は、手のひらを開いて爪による範囲攻撃を両手で放ってきた。地面が風圧で切り裂かれる。俺は距離を取らず、羅刹の背後へと走り込む。

 ギリギリ、攻撃の射程外へと逃げ切ったか!?と思ったが、見れば盛大に尻尾が切り裂かれている。

 もうレベルアップ目前だ。尻尾の事など忘れてしまえ!

 俺は置き土産にドレインをかましながら、スライディングで奴の後ろへ抜けていく。

 

「ガアアアアア!」


 羅刹が力に任せて、掌底から衝撃波の様なものを放つ。オイオイ、いかに人外とはいえ、勝手にステータスに無い飛び道具創るんじゃねえよ!

 俺は余りにも必死にダッシュし過ぎて距離が出来てしまったことを後悔しつつ、そのハドーケン?を両手の剣で往なしながら受ける。崩れそうになる姿勢を何とか両足で踏ん張りながら、もう一丁ドレインを放つ。

 が、その直後、目を見開いて止まりそうになってしまった。

 目の前に迫るのは、衝撃波の嵐。あの一瞬で、こんなに沢山のハドーケン?を放つなんて…いくら何でも性能が壊れすぎだろ?手のひらで空気を押しただけで、弾丸が跳ぶかっつの。


 俺は地面に倒れ込む勢いで横へと回避し、羅刹のステータスを確認する。


羅刹

HP  93/420

MP  0/130

攻撃:406(+100)

防御:350(+100)

魔力:125

知力:150

俊敏:303(+100)

スキル:バインドボイス

スペル:バーサーク


 はあ!?どうなってんだ!?

 一瞬思考停止。強すぎる。こんなのどうやったって無理だ。

 だが、奴の動きはさっきまでに比べれば明らかに出鱈目になって来てる。

 もしかして、バーサークか?瀕死になって発動したのだろうか。

 一気に突き抜けた攻撃力を使って、遠距離からバカバカと衝撃波を繰り出してくる羅刹は確かに脅威だが、ただ出鱈目に飛んでくる砲撃は先ほどまでの狙いすました拳に比べればはるかに凌ぎやすい。

 それに何より、HPが残り93。ここが踏ん張りどころだ!

 俺は、いつものパターンに持ち込む事を決意する。俺にとっての勝利の王道、そしてそれは、さっきのダーククラウドと尻尾の犠牲で道を拓くことが出来た。


 業を煮やした羅刹が、突っ込んでくる。

 早い!信じられない位早い!

 俺は、間髪入れず、次の行動に移る。

 羅刹が拳を振り上げた瞬間、

 ドプン、

 俺は奴の背後から立ち上がる。シャドウチェイサー。このダンジョンで俺だけが受け取っている、夜の神の加護だ。羅刹の影を、さっきスライディングをした瞬間に通過したのだ。あいにくその時には影の外まで出てしまっていたので、影縫いの効果は発揮できなかったが。

 そして、その影縫いが今、羅刹の身体を否応なく締め付ける。

 だが…


「ガアアアア!!!!」


 ぶちぶち、ぶちぶち、羅刹は猛烈な雄たけびを上げながら、影縫いの加護の力を引きちぎりにかかる。

 

「ギャア!」


 俺も思わず声を張り上げる!

 影縫いが破られる前に、かたを付ける!

 羅刹の防御力は上がり過ぎていて、はっきり言って今の俺じゃ攻撃は効かない。

 至近距離では強力なブレイズウォールを放てば自分も巻き込まれる。

 それなら、これしかねぇ!


 ゴッバアアオオオオン!!!

 

 俺は口から灼熱のファイアブレスを羅刹にぶつける。

 燃え尽きやがれ!この筋肉ダルマがああああ!


 炎の明かりによって、だしぬけに影縫いが解除され、羅刹が右腕を高々と掲げる。

 クソッタレ、明かりに照らされれば影が消えるなんて当たり前の事、なんで気付かねぇんだ!俺のアホめ!

 …来る!

 俺はそれでもファイアブレスを吐き続ける。

 どのみち、もう間に合わない。

 羅刹の拳が振り下ろされた瞬間が、俺の最後だ。クソ、良いところまでは来ていたのに。まだまだ序盤だと思っていたこの階層で俺はおさらばか…。

 思えば、物凄い濃い毎日だった。地獄のようなプログラミング生活を抜け出して、ベネルフューゲルにこのノクトルムに住まわせてもらって、少しずつ強くなって。

 オークばかり食ったり、初めて人間を殺すことになったり。モンスターハウスを一人で突破できるようになった時なんかは、ホントに嬉しかったな。俺も少しづつ強くなってるんだって、実感が湧いた。

 それも他のダンジョンの眷属どもの強さを見てすっかり色あせちまったけど。

 それでも俺なりに頑張って、ここまでやって来た。インドア系の昼夜逆転会社員にしては、よく頑張った方だと思う。ぶっちゃけ、学生時代ですら運動なんて殆どしたことなかったしな。よく、ここまで来たよ。

 悔いが無い訳じゃない。ゴライアやアバドンにも、協定を結んだのに何一つやる前に退場しなきゃならないし、ベネルフューゲルには何の恩返しも出来なかった。俺自身、もっと長生きするつもりだったしな。

 だが、ただの使い捨ての駒では無い人生を一瞬でも生きることが出来て、俺はきっと幸せだったと思う。だから、ここは胸を張って退場しようじゃないか。


 羅刹の右拳が振り下ろされる。

 

 …が、それは俺の真横の地面を力なく叩きつけただけだった。


 何だ?

 何が起こった?

 俺の頭は一瞬真っ白になる。

 体力が付き、ファイアブレスが止まる。

 へたり込む。


「異世界の眷属、ヒュプノスよ。お前の勝ちだ。」


 羅刹は力尽き、地面に付した状態で、こちらを見上げていた。

 その命は今まさに尽きようとしており、その目は、先ほどまで狂っていた者のそれでは無い、理性と満足感をたたえている。


「礼を言う。今日ほど満ち足りた闘いに身を置くことが出来た日は無い。」


 そういうと、羅刹はゆっくりと目を閉じる。

 俺は、勝ったのか?確かにやけくそのファイアブレスだった。

 俺自身の生命の全てを傾けた、最後っ屁。

 それが、最後の最後、俺の方に勝利をもたらしたのか。

 

「我は魂にもどり、神によってまた再生の輪へと戻っていく。出来ればまた、どこかの階層でお前と相見えたいものだ…。」


 それだけ言うと、羅刹の身体は霧散していく。他のモンスターたちと同じように。


ピロリン!


 間抜けな音。

 レベルが進化の条件を満たしたのだ。羅刹を喰らい、俺は次の段階へと進むことが出来るようになった。だが、その前に、この目の前に転がる特大の魔石を喰らってしまおう。ステータスを一応見ておく。


・ヒュプノス

【種族】バルロッグ LV.20(20/20)

HP  4/257

MP  103/264

攻撃:302(+25)

防御:148

魔力:163

知力:177

俊敏:148


 っていうか、ファイアブレス使い切っただけあって、HP殆ど切れ取るやん。瀕死やん。

 ボリボリと、羅刹の魔石を喰らう。デカいので時間がかかるが、咀嚼する。


・ヒュプノス

【種族】バルロッグ LV.20(20/20)

HP  4/267

MP  103/264

攻撃:317(+25)

防御:163

魔力:163

知力:177

俊敏:158


 おう、凄いな。信じられない位、ステータスが上がった。冥土の土産だろうか。いや、言葉の使い方が間違ってるか。羅刹の旦那、有り難うよ。

 俺がフッと笑うのを見て、羅刹がギイイィっと口角を上げて笑った気がした。


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