決死の闘争
ギィン!ギィン!
鎌鼬の猛攻を両手の剣で凌ぐ。スピードは恐ろしく早いし、攻撃力も馬鹿にならないが、攻撃の軌道は何とか目で追うことが出来る。
3体の鎌鼬が十分に接近してくるのを見計らって、俺は反撃を開始する。
ボウッ
先ずはダーククラウドで目くらましだ!いかに奴らが素早いと言っても、目標が捉えられなければ意味は無い。奴らは暗闇の中をあちこち飛び回り、俺の姿を探そうと躍起になる。この混乱に乗じて、次の手を打っていく。
ダーククラウドで視界が真っ暗な中に、俺のミミックを複数配置するのだ。
「シャアアアア!」
見れば、一匹目の鎌鼬が暗闇の奥に現れた俺の姿見に襲い掛かっていく所だ。
良し!釣れた!先ずは一匹!
「ギャアアアア(オラアアアアアア)!」
俺は右手のバスタードソードを袈裟懸けに思い切り振り抜いた。ビチッっという右手の感触とともに、鎌鼬が腸をまき散らして地面に落ち、そのまま霧散する。カランッという魔石の落下音。回収は後だ。
未だダーククラウドとミミックの視界不良は晴れていないが、他のモンスター共の接近もかなり許してしまったな。俺は保険のセルフバーニングをかけつつ、残りの鎌鼬2体の始末に取り掛かる。
奴らも仲間の一匹が狩られたことに気付いたのだろう、不用意に霧の中に突っ込んでは来なくなった。しかし、俺はダーククラウドの中からでも敵影を捉えることが出来る。
俺は一匹に的を絞り、ブレイズウォールを放とうとするが…
ゾワリ、と身の毛がよだつ様な寒気を覚え、咄嗟にバックステップ。次の瞬間、ダーククラウドで閉ざされていた空間がまるでレーザーに切られたかの様に真直ぐに分断される。
オイオイ!マジか、目くらましごと切断してきやがった。俺は冷や汗を流す。
そして、その間隙から2体の影が間髪入れず突撃してくる。
一体は正面から、もう一体は背後から。
俺は半身で構え、前方からの攻撃をカザックナイフで、後方からの攻撃をバスタードソードで受け流す。
強烈な金属音と、ミシミシと腕の筋繊維が千切れてしまうのではないかというような感覚。
だが、気にも留めない。パワーは俺の方が上だ!
そして、カザックナイフに手を出した鎌鼬は、セルフバーニングの効果範囲に入り込み、その身を焼かれていく。激しい高温のバリアに触れ、思い切り歯を食いしばりながら、たまらず距離を取っていく。
俺は注意を背後の一体に向ける。先ずはこいつから仕留める!空いた左手のカザックナイフを鎌鼬のどてっぱらに突き出す。瞬間、鎌鼬は後方に宙がえりをしながら回避し、その回転を利用して尻尾の刃をかち上げてくる。
クッ、俺はスウェーで回避するも、胸を浅く切り裂かれる。そこで油断した訳では無い。が、奴は風を操るモンスター、宙返りから着地することなく、そのまま風を利用して俺に両腕の刃による突きを放ってくる。俺の反応はスウェーからの立ち直りで一瞬遅れている。このまま行けば、致命傷――
瞬間、俺は自分の目前に迫る弾丸のようなモンスターに向かって、全力でファイアブレスを吹きかける!もう詠唱してる時間はねぇ!だとすればスキル頼みだ!
ゴッバオオオン!!
久々に吐き出したファイアブレスは、ヘルハウンドの頃よりもはるかに強力になっていた。どうやら、魔力・知力と威力に相関関係があるらしいが、俺は自分で吐き出した炎のサイズに目を丸くする。それは赤々とした火柱を上げ、フロアの天井までも焦がす勢いで燃え上がった。
同時に視界の端で、つい一瞬前に自分に向かって飛んできていた刃がファイアブレスの勢いで俺の頭の上へと軌道が逸れ、ついで爆散していくのが見えた。
これは…棚ぼた。
ハッ、ボーっとしている場合じゃない、鎌鼬を後一匹仕留めねぇと!
と、振り返ったところ、両腕を失って尚戦意を失わない鎌鼬が尻尾の刃を頼りに突っ込んでくるところが見えた。その刃をカザックナイフで受け、バスタードソードを今度はバク宙で避けられないように横掛けに振るう。
その刃は狙い違わず鎌鼬を両断し、爆散させる。
よし、よし!最初の難関は乗り切ったぞ、俺は即座にダーククラウドを使って自分の安全圏を確保すると、周囲のモンスターのステータスをチェックする。
ダフネが3体、バルロッグが5体、妖狐が5体、トレントが5体ほど。
厳しいな。だが、妖狐を上手く使えれば…ダフネとトレントはフレンドリーファイアで一掃できるかも知れん。
そこからは地味な作戦が展開する。
俺は先ず、動きの遅いトレントやダフネの影を踏みながら逃げ回る。もちろん、接近できればダメージも与えていく。だが、囲まれたら終いだ。クイックの力を使って極力包囲されないように気を付けながら、縦横無尽に駆け回る。
一通りそれが終わったら、トレントの周辺をグルグルと走り回る。トレントははっきり言ってノロい。今の俺なら絶対に攻撃が当たらない自信がある。
そして、しびれを切らせた妖狐がファイアボールを撃ってきたところで、シャドウチェイサーで戦線を離脱、トレントに火の雨を浴びせつつ、妖狐の陰から奇襲して剣を腹に突き立てる。
その間も、バルロッグどもが俺を包囲せんと動き回っているが、如何せんこいつらはこれと言った特徴のある攻撃手段を持っていない。魔力・知力が低いからドレインやアブソーブは痛くないし、接近戦は武器のある俺の方に分がある。
そんな感じで、トレントを全て掃除し、妖狐に関しても3体は倒すことが出来た。無論、俺も無傷では済まない。所々火傷も負ったし、妖狐の噛みつきによる反撃や、ダフネのウインドカッターを背に受けたりと、それなりのダメージを負っている。
そんなダメージの回復にも、魔力・知力の低いバルロッグを使わせてもらう。逃げ回りながらドレインとアブソーブを駆使し、搾り取っていく。
よし、よし、このままなら行ける!俺は、Bランクの冒険者とも渡り合える!一人でこれだけのモンスターたちと互角以上にやり合えるんだ!
そう思った矢先、ダフネ3体の周りに黄色い花が咲き乱れた。
アッ、これはマズい…。
瞬間、俺は、急激な眠気に襲われ、いきなり立っているのもやっとの窮地に追い込まれることになる。
ナップだ。すっかり忘れていた。
瞼をこじ開けて、周りの状況を見やる。どうやら植物系のモンスター以外は全て睡眠に陥るようで、このフロアで動いているのはダフネだけになった。だが、それでも、これはマズいのだ。
案の定、3体から同時にウインドカッターが放たれる。
ド畜生、動け、俺の身体!
ともかくウインドカッターを回避しなければ…でも、どうやって…
ザクッ!
1発目のウインドカッターを受けて、右脚がザックリと切り裂かれた。だが、俺はそれで目を覚ます。次いで2発目、3発目が迫る――
俺は起きた勢いでそのまま必死に横転する。直後、転がる俺の直ぐ真横を風の刃が通り過ぎていく。ブワッと冷や汗が流れる。
しかし、致命傷ギリギリの傷を受けているのは確実、俺はまたしてもドレインを眠っているバルロッグにかけて行く。と、一匹目があえなく霧散した。そこから、間髪入れずにシャドウチェイサー、ダフネの影から飛び出し、奴らに両手の刃から斬撃をお見舞いする。
元より近接戦になれば、ダフネは物の数じゃない。俺は一塊になっていたダフネ3体を危なげなく処理すると、残りの眠っているモンスターたちを一匹、また一匹と掃除していく。
最後のバルロッグが目覚める前に首を飛ばし、霧散するのを確認すると、思わず俺はその場でしりもちをついた。
お、終わったのか。俺は、生き残ったんだな。集中力が切れて、腰が抜けちまった…。
“おーい、ヒュプノス君、大丈夫?”
どれくらいそうしていただろうか、俺はベネルフューゲルの言葉に我に返って、思わず上を見上げる。別に上から話しかけられてるわけでも無いんだけどね。
あー、神様。何とか、生きてますよ。
“そいつは重畳、それにしても、良く一人でここを乗り切りました!次のフロアは羅刹が待っているから、そこでBランクパーティを迎え撃とう!”
はい、そうですね、そうそう、これは前座で、まだまだ本番は先に続くんだったな。
じゃあ、俺はステータスチェックと魔石の吸収をやっときますわ。
“ヒュプノス君、こんなタイミングで悪いんだけどね、これが終わったら、クルフルストとオルテゲイオス達と会合をしようということになったんだ。異世界の勇者の話だから、君たち眷属も参加させたい。絶対生き残って、次につなげるんだぞう!”
生き残ってから会議か。何か変な感じだなー。企業戦士は闘う前に会議でこってりやる気を搾り取られるのが普通なのだが…ま、ここ企業じゃねえしな。
俺も、死にたかないしゴライアやアバドンとまた会うのも楽しみだ。ここはひとつ、結果を残して奴らに自慢してやるか!
“じゃあ、そういう事だから頼んだよ!”
ブツッと念話が切れる。最近忙しいのかな。異世界の勇者の話だと言っていたし、そろそろそいつらと一戦交えるんだろうか。Bランク冒険者相手にヒーヒー言ってる場合でもないのか。
でもなぁ、異世界の勇者ってぜってー日本人だろ?日本人殺すのはマジで気が引けるなぁ。未だに女冒険者に手を上げるのも抵抗があるってのに、日本人かぁ。
腹括れるのかな。今は考えてもしゃあ無いか。
俺は魔石の回収を始める。
鎌鼬が3つ、妖狐が5つ、トレントが5つ、バルロッグが5つ、ダフネが3つ。それをボリボリと食べ、結果がこれ。
・ヒュプノス
【種族】バルロッグ LV.15(15/20)
HP 72/240
MP 103/254
攻撃:262(+25)
防御:138
魔力:159
知力:173
俊敏:144
スキル:ファイアブレス、フェザーショット
スペル:スリープ、セルフバーニング、ファイアボール、ブレイズウォール、ヒートグラップル、ウインドカッター、クイック、ドレイン、アブソーブ
加護:ハイディング、ダーククラウド、シャドウチェイサー、影縫い、ミミック、ステータス
装備:バスタードソード、カザックナイフ
よしよし、どうだこれ、HPさえ回復すれば、行けるんじゃねえか?な
なんて、相手の強さが解らないから何とも言えないが。オーガ・バトラーを歯牙にもかけないらしいから若干心配ではあるが、それでも今の俺はオーガ・バトラーよりかなり強力なモンスターに成長してる。
これに羅刹のおっさんが組めば、間違いなく勝てる!
どっこらしょっと。
のろのろと20階層へ向けて歩き出す。ここは大部屋だけだったから、階段を探さなくても済むのが有り難い。連中が上がってくる前に、ここのモンスターがもう一度配置についてくれると有り難いな、これだけの強さのモンスターが合わされば、十分足止めになる筈だ。
「来たか。」
羅刹は、ニヤリと口角を上げて、20階層の入り口を見やる。彼の立っている大部屋からは、森の木々しか見ることが出来ないが、その奥、何者かが入ってきた気配はすぐに解る。
そして、それが自分たちと同族であれば、尚更だ。階層を行き来するモンスターなど早々居ない事を考えれば、これが異世界の眷属であることは間違いない。
「さて、ベネルフューゲル様には冒険者の征伐をするために協力しろと言われておるが…。」
我は弱き者に肩入れしようとは思わぬ。羅刹は腕を組み、口角を上げたままフロアの入り口を凝視する。
「我が手勢を相手に生き残れるのなら、協力も吝かではないがな。」
羅刹のその一言に反応してか、フロアの天井から巨大な5つの影が落下してくる。
ズズン、ズズン、それらは土煙を巻き起こしながら、フロアに降り立った。
「さあ、異世界の眷属よ、我にその力を示して見せよ。」
グララアアアア! フロア全体に、巨大なモンスターたちの咆哮が響き渡った。
げ、なんか物凄い血気盛んな咆哮が聴こえるのだが、あれ、俺の目的地から聞こえているような…
今見える真直ぐの廊下は後100メートルほど行くと3方に分かれる。正面の大部屋と、左右の階段と。
よく考えたら、21階層に逃げ込んでもいいんじゃね?と思ったら、ベネルフューゲルに止められた。何でも、バルロッグはこのフロアのモンスターだから、羅刹の領域から出ることは出来ないらしい。次の身体に進化することが条件みたい。
なら、やはり羅刹と合流するほか無いだろうな。
そして、羅刹は絶対この正面の大部屋だよな…ひねりを利かせるような性格して無さそうだもんな。
ギギギッ
俺は両手で巨大な樹の門を押し開ける。
そこで待っていたのは、5体の巨大なモンスターたち。巨大な大錘を掲げ、頭からは角を生やし、身長は3メートルは在るだろうか。オーガの一種の様だけど…俺の姿をみてダラダラと口から涎を垂らす様を見るに、味方では無いのでしょうか…
うーん、むしろ、敵意むき出し。俺、道間違っちゃったかな?
「よくぞここまで来た!異世界の眷属よ!」
あ、部屋の奥で玉座にどっかりと腰を下ろしている奴が。
“お久しぶりです、羅刹殿。これはどういう風の吹き回しで?”
「なに、我も味方をしてやらんでもないがな、それらを倒せないような輩の面倒を見るつもりも無い。見事、この場でそこな5体を打倒して見せよ!」
グララアアアア!
羅刹の言葉に呼応するように応えるモンスターたち。問答無用形式ですね。またも仕様変更でしょうか。全くこれだから素人は…なんでも直ぐに変更出来たりしないんですからね?
っと、前世に戻りそうになってしまったぜ。
俺は身構えると、先ずはステータスをチェックする。
オーガ・キング
HP 250/250
MP 60/60
攻撃:250(+30)
防御:180
魔力:63
知力:54
俊敏:90
装備:スレッジ・ハンマー
パワー馬鹿は変わらずだな。オーガ・バトラーの上位互換、と。今の俺なら力押しでも1対1なら余裕でやり合えるが…5体は無理だ。羅刹は気に入らないかもしれないが、ここは搦め手だな。
『クイック!』
ギュン、と俺のスピードが上がる。そして続くは、催眠の嵐。
『スリープ!』『スリープ!』『スリープ!』『スリープ!』
最後の一匹だけは流石に安楽死は悲惨なので、ガツンと正面からぶつかっていく。にしても、遅い。大錘が持ち上がり、振り下ろされるまでにこっちは3回は攻撃できる。
ザク、ザク、ドシュウ!
少し防御に厚みが付いてるからといって、俺の攻撃力に対してそれは殆ど無意味ってもんだ。
サクッと一体目を掃除し終わる。
脳筋なモンスターはこういう時楽勝で良いなぁ。みんなこうだったらいいのに。
「なっ、き、貴様!このような戦いぶり、卑怯だぞ!呪文など使わず、正々堂々と正面から渡り合え!」
羅刹が何か古風な事言ってる。
“だったら最初から5匹で取り囲むのはどうですかね?”
「む、むう。確かにそれはそうだが。」
はーん、要するに魔法が嫌いなわけだ。羅刹も案外、スリープが効いたりしてな…。
後でこっそりステータスチェックしてみようかな。
俺はその間も、ドレインとアブソーブでしっかり自分の傷をいやしながら、起きたオーガ・キングを順繰りに葬っていく。毎回こういう入れ食い状態だったら、俺も直ぐに強くなれるんだろうけど。
最後の一匹の首を跳ねると、俺は羅刹に向き直る。これで良いんだよな?
「 …見事だ、異世界の眷属よ。戦い振りに思うところがないでは無いが、我にも二言はない。冒険者どもが上がってきた折には協力すると約束しよう。」
“有難うございます、よろしくお願い致します。”
恭しく一礼など。ちょっと嫌味臭かったか?慇懃無礼も程々 にしておかないとな。さて、オーガ・キング後のリザルトは…
・ヒュプノス
【種族】バルロッグ LV.17(17/20)
HP 186/246
MP 125/258
攻撃:281(+25)
防御:142
魔力:160
知力:174
俊敏:145
スキル:ファイアブレス、フェザーショット
スペル:スリープ、セルフバーニング、ファイアボール、ブレイズウォール、ヒートグラップル、ウインドカッター、クイック、ドレイン、アブソーブ
加護:ハイディング、ダーククラウド、シャドウチェイサー、影縫い、ミミック、ステータス
装備:バスタードソード、カザックナイフ
で、気になる羅刹のステータスは…
羅刹
HP 420/420
MP 130/130
攻撃:306
防御:250
魔力:125
知力:150
俊敏:203
スキル:バインドボイス
スペル:バーサーク
…うん、脳筋だな。
だとしても、コイツが味方についてくれるのは心強いぜ!
いつも有難うございます!