表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

勇者の召喚

「初めまして、異世界の眷属殿。私は20階層までの全域を任されている、羅刹だ。」


 で、でけぇ。つうか筋肉がすげえ。元の世界じゃ絶対に拝めないタイプの生き物だこれ。


「はい、お初にお目にかかります、ヒュプノスと言います。」


「うむ、この度は10階層進出、おめでとう、と申しておこう。我が治める階層においても、大いに暴れると良い。ちなみに、この階層では冒険者もそれなりに強いから、覚悟した方が良いぞ?」


 ニッと歯をむき出して笑う羅刹。いや、怖い…。これが一番下層域の階層主?上の方はどうなってんだ。


「こんにちは、ヒュプノス殿。私は30階層までを治める、クエレプレだ。見たように竜族だ。まだ暫くはフィールドでお会いすることも無かろうが、ともにダンジョンを治められることを嬉しく思うぞ。」


 続いて、その上の階層主の挨拶。すらりとした姿の、緑色の翼竜。2足歩行が出来るようで、巨大であろう翼をたたんで俺の右隣に座っている。

 言い忘れたが、今、俺は円卓に座っている。正面が神様、左隣が羅刹、右隣がクエレプレ。それから羅刹の隣に巨大な蛇のような姿の階層主、クエレプレの右隣には真っ黒いローブの女性の階層主が其々腰掛けている。


「はい、有難うございます。私も早く成長できるよう努力いたします。」


「ふむ、それなりに、まともな者の様だな。私は40階層までを治める、ユルングだ。」


 次に挨拶をしたのが、虹色に輝く鱗を持つ蛇、ユルング。とぐろを巻いているため実際のサイズは解らないが、物凄くデカいのは解る。羅刹が小さく見えるくらいだ。ゴライアとアバドンの中間位のサイズはあるだろうか。


「初めまして。以後お見知りおき下さい。もっとも、私の姿はまた変わってしまうでしょうが。」


 そして、最後に右半身は美女、左半身は真っ黒な闇という姿を取った階層主が挨拶をする。


「ヒュプノス殿、私は50階層までを治めている、ぺルセポネと申します。貴方の成長をサポートするよう、私も皆も仰せつかっていますから、そう硬くならずに。」


「はい、有難うございます。頑張ります。」


 って言われた傍から硬いな俺は。


“さて、みんなの挨拶が済んだところで、実はね、ヒュプノス君をこの場で進化させようと思う。”


 そうなのだ、進化してから階層主と会う、という話だったのに、ベネルフューゲルの思い付きで進化を階層主たちにも見せることになった。なんでもその方が舐められずに済むだろう、みたいな事らしい。進化っていうのは他のモンスターたちには出来ない芸当らしいから、まあ、自分が一般的なモンスターとは違う存在なんですよ、というアピールポイントにはなるのだろう。


「おお、それは楽しみですな。」


 羅刹はニヤニヤと笑っている。この方はどうも俺を獲物としか見ていない気がするのだが…


“では…『宵闇より来たりし時間の民よ、わが眷属の行く末を祝福し、その加護を彼の者に与えよ』”


 お馴染みの進化の詠唱が流れ、俺は闇に包まれていく。いつもはここで意識が無くなってしまうのだが、今日は特別、意識を保ったままだ。やがて闇が晴れていき…


「おお、これは!」

「闇の魔物、バルロッグか。」

「ほうほう、中々に良い選択だな。」

「これが進化…。」


 階層主達からの反応も上々の様だ。ベネルフューゲルも心なしか上機嫌のようである。


“皆も知っている通り、バルロッグは羅刹の担当する階層のモンスターだよ。これから先、暫くは羅刹の管理下で頑張ってもらうことになる。羅刹も、階層が少し慌ただしくなるかもしれないけど、よろしくね。”


「は、御心のままに。」


 巨大な悪魔が一礼する。何とも、妙な絵面だが、夜の神がどれだけの力を持っているのか、俺は改めて確認する。


“じゃあ、顔合わせはこれくらいにして、みんな、各階層に戻ろうか。”


 ベネルフューゲルがそう呟くと、部屋全体が闇に包まれた。





 気付くと俺は森の中に佇んでいた。森?俺は何してたんだっけか。


“じゃーん、ヒュプノス君、びっくりした?10階層から20階層は、森林エリアでーす。ここから先は、エリアが伸びたり縮んだりする、ダンジョンらしい地形になっていくよ。僕の渾身の力を込めて作ったダンジョンさ!楽しんでいってねー。”


 森…こんなことも出来るのか。本当に何でもありだな。プログラマー魂が若干うずくな。了解、神様。神様のデザインを楽しむ事にするよ。

 取りあえず、ステータスをチェックしよう。


・ヒュプノス

【種族】バルロッグ LV.1(1/20)

HP  192/192

MP  202/202

攻撃:202

防御:92

魔力:131

知力:123

俊敏:121

スキル:ファイアブレス、フェザーショット

スペル:スリープ、セルフバーニング、ファイアボール、ブレイズウォール、ヒートグラップル、ウインドカッター、クイック、ドレイン、アブソーブ

加護:ハイディング、ダーククラウド、シャドウチェイサー、影縫い、ミミック、ステータス


 ドレイン、アブソーブ、ミミックが新しく増えたみたいだな。


“ドレインはHP吸収、アブソーブはMP吸収だよ。ヒュプノス君の場合、魔力・知力が伸びやすい種族を選んできたから、ふつうのバルロッグが使うよりかなり強力な魔法になる筈だよ。ミミックは、要するにダミーを創る加護だね。”


 おお、何だかすごく手数が増えた気分。それにしても、フェザーショットは使えるのか?


“一応ね、使えることは使える。羽を召喚してくるような感じだね。でも、流石に翼自体が無いから、HPの消費が激しいよ。あんまりお勧めしないかな。”


 なるほどなー。普通に魔法を使うのが得策、って事かな。

 さて、森の中を探索し始めようと思うのだが、一応道らしいものはあるみたいで、進んだらどこだか解らなくなりました、なんてことは無いらしい。道の左右には木々が生い茂り、壁の役割を果たしている。そして、頭上の林冠から、所々木漏れ日が漏れている。太陽どないしとんねん。

 暫く行くと、ズズーンと音を立てて、森の奥から巨体が姿を現す。オーガ・ソルジャーだ。今の俺の攻撃力だと、サクッと倒せてしまうだろう。

 あ、そういえば、俺は今デミ・ヒューマンだから、両手が使えるんだな。オーガ・ソルジャーから剣を頂いてしまおうか。

 

 まだ、廊下の奥の方をズンズンと歩くオーガ・ソルジャーにスリープをかけ、せめて慈悲深く眠っている間にお帰り頂く(輪廻の輪へ)。

 で、持っていたブロードソードを装備。うむ、柄が太すぎて持てない。オーガから武器を奪うのは無理かー。仕方なくオヤツの魔石だけいただくことにする。


 次に現れたのが、ロックパイソン。巨大な岩のような肌の身体を持つ蛇型のモンスターだ。

「シュー」っという警戒音を鳴らして、俺を威嚇してくる。どうも、頭が良いようには見えないので、スリープ!で、慈悲深く命を頂戴する。魔石は…防御力+1か。見たまんまだが、結構いいな。俺、防御力足りてないからな。

 それにしても、この森のモンスター弱くねえか?


“ヒュプノス君は魔石を食べてドンドンステータスを上げているから、レベルに見合わないステータスになりつつあるよ。だから、魔物が弱いことについては目を瞑ってね。経験値はレベル相応で入るからさ。”


 ああ、そりゃそうだよな。味方のモンスターを殺してボリボリ魔石を食べてるのは、俺だけだろう。

っと、何か声が聴こえるぞ?喋っているような…冒険者か?


「ダメだ…鞄が一杯だな。低層階で色々拾い過ぎた。捨てて進むか、安パイで帰るか。」

「収穫は十分あったし、帰った方が良くね?たまたま9階の大部屋にモンスターが居なかったから、ここまでこれたわけだしさ。」


 あ、それは俺が原因とか?

 ハイディングを使いながら、冒険者の姿を森の奥に捉える。男3人、戦士とシーフ、それにでっかい鞄を持った奴の3人組だ。ステータスはどうかな?


冒険者

HP 55/105

MP 40/82

攻撃:133(+20)

防御:130(+20)

魔力:85

知力:83

俊敏:60

スペル:ファイアボール

装備:プレートメイル、アイアンソード


冒険者

HP 70/102

MP 30/95

攻撃:120(+15)

防御:112(+15)

魔力:95

知力:88

俊敏:102

スペル:生命の水

装備:チェインメイル、アイアンダガー


 もう一人の男はステータスがエラく低いな。本当に荷物持ち以上の何かでは無いらしい。アイアンソードって、俺も装備できるんじゃないか?ここは久々に、冒険者と一戦交えるとしようか。

 ガサガサッと音を立てて、俺は彼らの前に姿を現す。え?スリープ?いややっぱ人間同士の時はさ、こう、礼儀を重んじたいっていうか。俺人間じゃねえけど。


「う、こ、こいつは?」

「こんなモンスター、見たことないぞ…。」

「ひいいいい!」


 3者3様の反応有り難う、ステータス的にはこいつらを倒すのは何ら苦労は無いんだよな。でも、ここは清々堂々と、魔法無しで闘いたい。何となくだ、何となく。

 ここは部屋状に森が形成されているから、奴らがどこかに逃げるって心配も無い。

 行くぞ!

 地面を踏み込むと、ギュンッ、と加速して冒険者へ迫る。


「な、速い!」


 俺の爪の一撃をアイアンソードで受ける戦士風の男。攻撃も100近く差があるため、グイグイ押し込んでいく。ガンッと吹っ飛ばされた男はそのまま背後の木に直撃する。

 

「クソッ、これでも喰らえ!」


 シーフの男は投げナイフを取り出し、俺に向かって投擲してくる。

 こいつは予想外!だが、俺はそれを爪ではじき落とす。見えないほどのスピードじゃない。そして、一気にシーフとの距離を詰めると、袈裟懸けに右腕を一閃。

 ギャリイン!と音を立ててチェインメイルが千切れ、冒険者が肩口から右わき腹を深々と抉られ、鮮血を噴き出す。


「ご、あ。」


 そのまま倒れ伏すシーフ。俺は戦士の方に向き直るが、さっきの衝撃ですでに事切れていたらしい。床の上に倒れ伏していた。ポーターの男は…見逃すか。恐怖で気絶してしまっているようだ。その股間にはジワリとシミを作っている。

 俺は、シーフからアイアンダガーを、戦士からアイアンソードを奪う。うん、これは中々に使いやすそうだ。暫くは二刀流で闘う事になりそうだな!


・ヒュプノス

【種族】バルロッグ LV.2(2/20)

HP  195/195

MP  204/204

攻撃:225(+20)

防御:95

魔力:132

知力:124

俊敏:122


 


‐‐‐‐‐



…ここは、どこだ?僕は一体どうなった。


「目覚めたか、小森直人。」


 え?何?誰?


「混乱するのも無理は無い。そなたの記憶では、たった今、日本という国で昼食を摂っていたところだろうからな。」


 そうだ、僕たちは弁当を食べようと集まっていて…そういや、皆はどうした?


「心配せずとも、仲間は皆、ここに集まって来ている。」


 あんた、何なんだ?僕たちをどうしようってんだ?


「実はな、そなたたちに頼みがあるのだ。私はこの世界・オルグリョーゾ唯一の神、ゼノン。そなたたちには、この世界に巣食っている魔物を討伐してほしい。この世界を救って欲しいのだ。」


 唐突に、何を滅茶苦茶な事を…魔物の討伐だって?僕らはただの高校生なのに?

 というか、世界を救うって、いくら何でも話が突飛すぎる。


「理解が追い付かないところ悪いのだがな、ことが終わった後は、元の世界に送り届ける故、引き受けてはくれんか。」


 お願いみたいに聴こえるけど、殆ど強制だよな。僕らには断ることも出来ないんでしょう?


「無論、送還することも出来る。だが、他の仲間たちはこちらの世界に残ることにしたようだぞ。残るも帰るもそなたの自由だが、帰る場合は代わりの者を召喚することになる故、そなたの周囲の別の者がこちらに呼び出されることになると思うがな。」


 それは、体の良い脅しでは無いですか。仕方ない、解りましたよ。引き受けましょう。


「うむ、引き受けてくれるか。では、皆の待つ部屋へと転移しよう。」


 本当に、仕方ない。よろしく頼みます。




 そこは、光の箱のような真っ白い部屋で、クリーム色に輝く椅子が8脚置かれていた。すでにそのうち7脚には、僕のクラスの友達が腰掛けている。


「あ、直人。やっぱりこっちに来てたんだね。」


 こいつは水島久。真面目で実直な、僕の幼馴染だ。


「直人君が来なかったら、リーダーが居なくて大変だったから、取りあえずは安心ね。」


 彼女は加留部綾子。姉御肌で、クラスの頼れるお姉さんだ。綾子がリーダーをやれば、もっと纏まるのに。


「よー、直人、久しぶり!さっき会ったけど!」


 谷口雄次郎。結構うるさいやつだが、空気を読まずにクラスのムードを作ってくれる。こういう時はまずまず有り難い。普段はウザイ。


「直人君、無事で良かった…みんな心配してたんだよ?」


 で、彼女が長谷川詩織。優しくて、皆から好かれている。


「詩織ちゃん、心配し過ぎだって。誰も怪我したりしてないだろ?」


 と言ってるのが永瀬栄一。勝負師って感じの、キリリとした目をしている。こいつがリーダーになった方が画になる気がするのだが、僕がなんだかクラスリーダーをやってる。


「直人っち、おはよ。目覚めはどうだい?あたしは4限は寝ようと決めてたのに、このざまだよ。あたしの昼寝を返してくれー。」


 マノちゃん。間野明日香。ひょうきんな元気っ子だな。


「直人君、これはどういうことだか、解る?」


 普段物静かな彼は村主大輔。でも、その質問は僕がしたいよ。その時、唐突に声が頭の中に流れてくる。


“良く集まってくれた、異世界の勇者たちよ。”


 勇者断定。取りあえず、僕らは勇者であることが確定した。


“先ほども言ったが、私はこの世界唯一の神、ゼノンだ。この度は勇者の召喚に応じてくれ、感謝する。”


 いや、応じても何もないと思うけど。さっきのやり取りとかどうなんだ。


“この世界はいま、古より存在していた邪神とその仲間によって、蝕まれ始めている。奴らは世界8カ所にダンジョンを創り出し、そこから少しずつ人間の住まう領域へとモンスターを進出させ始めている。”


 唯一神設定どうした。すでに邪神居るみたいだけど?まあ、もはや言っても仕方ないことだろうな。にしても、ダンジョン攻略か、これは楽しそうだな。


“そこで、そなた達には然るべき訓練の後、それぞれが8カ所のダンジョンへ向かい、その攻略をお願いしたい。”


「ハイハーイ、質問がありまっす!」


 と言い始めたのは谷口だ。


“…なにかな?”


 明らかに不機嫌そうだこの神様、結構度量狭いかも知れん。気を付けよう。


「8人全員で一つ一つダンジョン攻略したらいいんじゃないっすか?ダメっすか?」


 うん、でも言ってることは尤もだ。8カ所に分ける必要が無い。


“ダンジョンに入ることの出来る勇者は一人だけだ。複数人入ると…死ぬ。”


「はあ!?」


 僕は思わず声を上げてしまった。でも、それは周りの皆も一緒だったようで、一様にあんぐりと口を開けていた。


“正確には、何処とも解らない次元に弾き飛ばされる、という感じだ。なので、一名ずつしか入れないのだ。”


 本当かどうか、疑わしい決まりだな。だが、確かめるにもリスクが大きすぎる。そもそもこの世界に呼ばれたことからして異常事態だ。ダンジョンに2人で入ると死ぬって設定も、許容範囲なのかもしれない。


「そんな…じゃあ私たちは助け合ってダンジョンを攻略する事は出来ないっていうの!?」


 加留部が声を上げる。


“うむ、だが、安心するがいい、皆の者にこの世界に降り立つにあたり、一つずつ勇者の加護を与えていく。常人はおろか、モンスターをも遥かに凌ぐ能力だ。これがあれば、ダンジョン攻略も難しくは無いだろう。”


「本当なのかな…。」

「どこまで信用していいのか。」

「おー、マジっすか!勇者チートぱねえっす!」


 谷口がウザイ。皆も白い目で見ている。僕はこういう時どうすればいいかな…。


「神様、一人一人の加護をご説明頂いても?」


 と、取りあえず谷口を無視して進めることにする。ああいう奴は、構われると調子に乗る。


“うむ、そうだな、先ずは小森直人、そなたの加護は…”


 こうして、僕たちの勇者人生がスタートした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ