第2章
君は、出会った時も泣いていた。
あんなに綺麗に泣く人を僕は見たことがなかった。思えばあの涙を見た時から、僕は君に惹かれていたのかもしれない。こんな世界で君の心は悲しいほど純粋だった。
そして君は、天才だった。その頭脳が優しい君をどんなに傷つけたことだろう。こんな愚かな世界で、愚かな人間を見て育って、どうして人間を信じられるのか、僕には理解できなかった。君ほどの知性を持って、それをわからないはずがないのに。それを利用する大人たちの醜さに、君は気づいていたはずなのに………
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月が雲に隠れるのを見届け、僕は真っ暗で澄み渡った空間に包まれていた。
(この目を開けたらまた明日が来てしまう…)
憂鬱の感情がまた動き出した。
人に「死」を与えたのは僕だ。永遠の辛さを僕は知っていたから、だから僕はこの世界の命に寿命をつくった。死ぬことが苦しみだとは、思わない。それなのにこんなにも、あいつの死を思いだすのがつらい。僕の目の前で消えた命がずっと僕から離れない。
「どうして………」
涙がこぼれた。
泣くのなんて、いつぶりだろう。涙を拭おうと手をそっと目に当てると、さらに感情が溢れてきた。こうなるともう止まらない。
僕は声を上げて泣いた。
「どうして、どうして、どうして…!」
嗚咽混じりの叫びは、川の流れにかき消された。
(僕はどこで間違った....?)
あのとき、あの言葉に耳を貸さなければ、「前の世界」を僕がもっとと大切にしていれば、退屈だなんて思わなければ…? ...........いや、ちがう。こんな悲劇、前の世界でも普通に存在していた。僕が無視していただけだ。僕はちゃんと知っていた。
それでも僕はどこかで、この世界で起こることを他人事に思っていた。そこには現実味はない。そこに起こる戦争も、そこに果てる子供の夢も、人の死すら僕にはどうでもよかった。
でも、自分が人間になってみたらこうだ。僕は何に救いを求めているのだろう。
もう一度リセットしてしまうことも可能だ。だけど、それをやってどうなる?また同じことの繰り返しじゃないか。人が感情を持つ限り、争いは止まらない。どんなルールを設けても、結局は同じことなんだろう。
誰も傷つかない世界をつくるなんて不可能だ。そんな綺麗な物語は存在しない。人間は愚かだが、誰もがそれを知っている。もしかしたら僕が一番わかっていなかったのかもしれない。そして僕は、いや人間もきっと…そんなつまらない世界は、望んでいない。
そもそも人間から「考えること」を奪ったら、あっという間に人類は滅亡だ。そしたら僕がこの世界をつくった意味もなくなってしまうじゃないか。
僕は大きく息を吸った。
(見届けよう……。)
どうせこれがラストチャンスだ。どんな結果になっても、僕の運命はこの世界に賭けたんだ。だったら迷ったって仕方がないじゃないか…!!
僕はまたその場に寝転び、今度はすぐに目を閉じた。そしてふと思い出した。
今日が終わって、明日が来て、その明日も終わって、次の日が始まる。昔、そんな「当たり前」を「幸せ」と呼ぶ人がいた。あれは、いつだったか……
この世界を「好きだ」と言ってくれた人……




