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こうして帝国は………  作者: ラヤ
第一章
3/3

3

(この人たち、同じ事しか話してない)

 魔術師の少女、アオイデーの目は虚空を映す。


 評定が始まってからすでに三日が経過した。ルマング王国の王都ハルペの宮殿では、目下、御前会議が行われている。議題は和戦。


 ロインドルにルマング王国の第一王子のノルベルトが親善訪問するのはすでに決定している。そこにシエビアからロインドルに対しての挟撃要請が来たのだ。


 親シエビア派、親ロインドル派、反シエビア派、反ロインドル派、中立派が各々の主義主張を唱え会議は紛糾し、まとまらずにいるのだ。統率力を発揮しなければならない王は、有力な貴族を指揮できずにいる。


 会議場で唯一レガリアを所有する王子のノルベルトは、議題そのものに興味が無さそうに羽ペンをペンナイフで整形している。


 アオイデーは、ノルベルトの従者の一人だ。議場には入れるものの、会議には参加を許されず、入口の手前で待機している。三日間、堂々巡りの議論が繰り広げられて、ただ聞かされているだけというのは辛い。


「仇敵ロインドルに奪われたルマング王国の旧領を奪還すべきだ!」

 一際大きな声で発言したのは、アオイデーの父親のフレデリクだ。もとはルマング王国の南方に存在した侯国の主だが、ロインドル帝国に併合という形で滅ぼされて、ルマング王国に亡命してきた貴族だ。


 いま旧伯国領はロインドル帝国が支配している。フレデリクは旧領を取り戻したい。反ロインドルの急先鋒のフレデリクの意見に、他の反ロインドル派の出席者は賛成の声を上げる。


 国王もフレデリクの意見に賛同の表情を見せる。元々、シエビアの姫を妻にしている国王は親シエビア派だ。シエビアからのロインドル挟撃要請には賛同的だ。


 羽ペンを整形していたノルベルトは、フレデリクの意見に興味を示した。建設的な意見が出たのだ。会議が始まって以来、建設的な意見が出るまでは羽ペンを整形するなど、別の事を行っていたのだ。そして、フレデリクの意見にこう答えた。

「挙措進退を決する前に、各地に配置している諜報から情勢報告を聞くべきでは?」

「諜報? 諜報などを御前会議の席に参加をさせるというのですか、王子?」

 フレデリクはノルベルトに言う。フレデリクは内心でノルベルトを嘲っていた。

「いや、正しく確かな情報を正しく確かに共有することは最低条件。必要、不必要を取捨選択をする以前の鮮度の高い情報を全体で共有するべきでは? 国王陛下、ロインドルとシエビア方面を重点的にガラリスやリサミラ、グトルルなどのロインドルやシエビアと敵対もしくは同盟している勢力の情勢報告を聞くべきだと思います」

 エウロペの各国の名を挙げ、ノルベルトは反論した。そして、ノルベルトの言い分が通った。


 諜報員を呼び、情勢報告を行わした。その中でノルベルトは気になるものがあった。

(考える時間が欲しい。そのためには一旦閉じた方がいいな)

 手からペンナイフを離し、ノルベルトは言った。

「では、これらの情勢報告を精査して、問題点を整理しましょう。今日はここまでということで」

 議論を打ち切ろうとする。 国王も了承し、あっさりと会議は御開きになった。今日も進展はせずに。




***




 事の性質上、反ロインドル派と親シエビア派、反シエビア派と親ロインドル派は結び付きやすい。数では反ロインドル派親シエビア派がかなりの数を占めている。決を採れば、シエビアと共にロインドルを挟撃するに決まるだろう。会議が始まった当初からフレデリクたちは、決を採るのに強硬だった。強硬意見を放ち、採決に持ち込もうとした。


 そのたびに親ロインドル派や反シエビア派がはぐらかし会議を持ち越しにしようとした。そのため、評定が長引いたのだ。


 しかし、今日の評定を打ち切ったのは、中立派というよりは、無関心に近いノルベルトだ。フレデリクたちの不満はノルベルトに向けられる。いままで無関心だったのにいきなり議論に参加し、勢いに乗り採決に持ち込もうとするのを機先を制して妨げたのだ。不満を向けられるのも当然の事だ。


 そもそも、ノルベルトは諸臣からの評価は低い。武功も策術もからきしで、凡庸暗愚と囁かれている。また、猜疑心も強く臣下に対して疑っている態度を隠さない。自身の能力が低いのに周囲に疑いをかけるので評価が低いのだ。




***




 会議を持ち越した後、ノルベルトはアオイデーを連れて自室に戻った。

「どう思う? アオイデー」

「どうとは? ノルベルト様」

「ロインドルが対シエビア最前線の砦の守備将を粛清したこと」

 アオイデーは小さく咳払いをして話し始める。

「内的要因か外的要因ということですね」

 ノルベルトは目で意味を尋ねる。

「つまり、ロインドル内部的な問題、税の横領などの大きな失態を犯したとか、政敵に敗北したとかです。粛清されたとなるとよほど大きな失態や敗北に追い込まれたのでしょう。あるいは、外部からの動き。偽情報工作とか内通したとか。外的要因だとすると場所的にシエビエが関係している可能性が最も高いですね。ですがお分かりの通り私の憶測です。はっきりとした情報がない限り正確さに欠けます」

 正確さに欠けると言ったものの、アオイデーの表情には自信がある。そのアオイデーの考えを聞きながらノルベルトは、椅子に深くもたれかかった。ノルベルトは言う。

「情報収集を徹底させようか?」

「情報収集は問題ありません。問題なのは情報分析です」

 ルマングは海洋国家であるため情報の収集能力は高い。しかし、収集してきた情報を放置しがちなのだ。碌に分析しないまま各々が必要な情報を集めて独占し、他に生かすことをしない。

「情報の機密化はいいですが、独占化されたら困ります。明日も御前会議は開かれますので、そこで王子から進言を」

「わかった、わかった」

 ノルベルトは拗ねた顔をするが、アオイデーは意に介さない。優先事項は自分の主君の機嫌よりもルマングの進退だ。

「私の憶測が正しかった場合のことを考えましょう。ロインドルの内的要因や偽情報工作などの工作なら混乱しているロインドルをシエビエが見逃すとは考えにくいです。しかし、守備将が内通していた場合は、シエビエは損害なくロインドルに攻め込めたものの、内通者が粛清され国境が固められたロインドルをシエビエは侵攻しないでしょう。ロインドルの動きよりもシエビエの動きをより注視するべきです」

「アオイデーの考えが間違っている場合は?」

「わかり次第別の考えをします。ところでなぜ今日まで情勢報告をお聞きにならなかったのですか?」

「諜報がロインドルで動きがあったって、今朝聞いたのを思い出したから」

 アオイデーは唖然とした。

「・・・・・・決裁を渋るためではなくて、思い出したからですか?あの瞬間にですか?」

 アオイデーは信じられないといった眼差しでノルベルトを見つめていた。四百年近くエウロペに君臨したルマング王国の後継者が国家の挙措進退を決める会議でたまたま聞いたことを思い出したからということで聞いたのか。


 そこまで考えてアオイデーは頭を振った。そのおかげで重大な情報を御前会議で共有できたのだ。ノルベルトも自分で情勢報告を精査して、問題点を整理するように発言していた。報告された情報の重大性に気づいてアオイデーの知恵を求めたのだろう。アオイデーはそう思うことにした。


 アオイデーが一人悩んでいると、放置されたノルベルトが声をかけた。

「ボクのせいでアオイデーにとって残念なことになったね」

「?」

「だって反ロインドルでしょ、アオイデーは」

(違う。ノルベルト様は私を疑っている)

 今のノルベルトは、側近としてのアオイデーではなくて、ロインドルに国を奪われて亡命してきたフレデリクの娘のアオイデーとして見ているのだ。ノルベルトを反ロインドル派にしようとしていると疑っている。

(思い出したから聞いたというのは私の反応を見るための嘘?もしくは本当で私の反応を見るためにあえて言った?)


 熟考しているアオイデーを意識しながらノルベルトは、横目で窓の外を見る。

「今年は雪が早く降りそうだね」

 

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