表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こうして帝国は………  作者: ラヤ
第一章
2/3

2

 ロインドル帝国の北方に位置するルマング王国は、エウロペの北側から突き出るような形をしている半島を支配する王国だ。


 領陸は小さく、ロインドル帝国の三十分の一以下だが、国の三方がエウロペの北側の大洋の北洋に面している為に海洋勢力だけならば、ロインドル帝国よりも強い。ちなみにロインドル帝国は大陸国家で、海は北側にわずかにあるだけだ。それもルマング王国の海洋勢力を確立しているため、ロインドル帝国は海洋にほとんど力を持っていない。


 ルマング王国は、長い海岸線と良い港湾で地理的に恵まれた位置にあり、商業保護と海運政策に関する国の立法政策と航海体験人口が多い。その為、商船の保護に必要不可欠な海軍を持っている。ルマングが海洋国家を建設するのにネックとなるのは、造船用資材獲得の困難さだ。造船用の資材となる森林資源の低さを補う為に、ルマングはロインドルやシエビアから森林資源の輸入を行っている。ある意味ルマングの海洋勢力は、他国に依存する形になっている。


 ルマングは農業生産性が低いが、中継貿易の拠点として、北洋の最重要拠点になる。ロインドルやシエビアがルマングを狙う理由はここにある。  




***




 淡紅色の髪の壮年の女性は、シャルロッテに言う。

「確かに、レガリアを収集することは、帝国の国策です。しかし、レガリアの場所は解ってないし、国土庁の報告を待ちなさい」


 シャルロッテの母親でありロインドル帝国の皇帝は、シャルロッテの建白を退けた。


 レガリアは、どこにあるのか解らないのだ。ただ、支配者に相応しい者が現れるとレガリアはその者に力を与えるが、凡人には何の力も与えないとされている。


 どこにあるのか解らないから、各国は自国の領域でレガリアを求めて、探し回る。見つけたところで、レガリアの力を得れるかどうかは定かではないが。


 だが、シャルロッテは不服を申立てる。

「ですが、ルマングがレガリアを手に入れた今、私たちは北方の安全保障を脅かされています。東方からはシエビア、西方にガラリス、南方にリサミラと三方と不穏な事態が続いています。北方からの脅威に備える為にもレガリアを手に入れるべきです」

「そのレガリアがどこにあるの?」

「イース地方との境にレガリアらしきものがある、ということを私は聞きましたが」


 シャルロッテの言葉に皇帝は内心舌打ちをする。

「どこでそれを聞いたの?」

「私は自分で耳は良い方だと思ってますよ、母上」

 皇帝陛下と呼ばずに、母上と呼んだ。

「姉上も兄様もレガリアを所有出来ませんでしたが、兄上と姉様はレガリアを所有出来ました。レガリアの所有なされているのは、母上と合わせて三人ですがシエビアも三人。シエビアとルマングが組むとレガリアの数で押し負けますし、地理的な要素でも最悪。ですか、私がレガリアを手に入れると強制外交という手段が使いやすくなります」


 皇帝は、一瞬虚空を見つめてため息をついた。

「重臣たちを集めて重臣会議を開きましょう。重臣会議なので貴女の参加は認めないわ」

「ありがとうございます、皇帝陛下。ではこれで」




***




「狡猾で策謀家気取りのあの娘は、レガリアを手に入れても帝国の支配者に成れないわね。参謀としての支配者にしかきっと成れないわ」

 シャルロッテが退去した後、ロインドル皇帝は眉をひそめながら呟いた。

(まあ、その方が都合はいいけど。子供たちの中でも一番反乱を企てそうだし。皇帝の座を狙ってきても周囲の臣下が従わない。だから、レガリアを所有させても大丈夫ね)

 少し笑顔にながら侍従長官に重臣会議の開催のための命令書を作らせた。シャルロッテによく似た笑顔で。




***




 宮殿の長い廊下を数人の女官と共にシャルロッテは、歩いていると突き当たりを曲がったところで、フードで顔を隠した集団を引き連れ勝ち気な性格が顔に出ている少女と出会った。シャルロッテの一つ上の姉のウルリーケだ。

「あら、姉様。後ろの方たちはどなたですか?」

「あたしの側近よ。なかなか腕がいい魔術師たちなのよ。そういえば、ルマングの使者と会うのでしょ。外交で片を付けるより、侵攻した方が早くない?」

「戦争も外交の手段の一つですよ、姉様。それに相手はレガリアを持っています。シエビアと近い関係ですし、戦争を仕掛けるにしてもルマングとシエビアを離別させる必要がありますよ」

「確かにルマングをシエビアから離せれば、無傷で属国にすることも可能ね。離せなくても宣戦をする大義名分ぐらいは欲しいわ」

「ルマングの使者は、第一王子のノルベルト殿。表裏卑怯の卑屈者です。なぜレガリアを手に入れることができたのか不思議なものですよ。よって甘言を用いて籠絡するのも容易いことです」


 レガリアを所有する前のルマングは弱小であったために、その領域が、周辺の大国によっていいようにふりまわされた。周囲の政治的な妥協の時に、周囲の都合で領有権を奪われた。ルマングは領域を守るために、周辺の大国の彼方此方に与した。


 誰に何と言われようと、ルマングは生き長らえるために背信行為も仕方がないと考えている。ロインドルにも服従したこともある。その時にルマングの第一王子は遊学と称した人質としてロインドルに来たことがある。


「レガリアを手に入れたとしても、あくまでレガリアは国勢の補助。まあ、権威の象徴にはなりますがね」

「だけど、国力は増すわ」

「すぐに弱小国家から大国化するわけでもないでしょう」

「なら、方策があるの?」

「それは外務官や武官の皆さんが考えていられるのでは」


(それにしても弱小国家というのは、哀れですね。いえ、憐憫の情というよりは、嗜虐心が疼きますね)




***




 宮殿の廊下を歩きながら、皇女とその従者が密談を交わしていた。

「誰が決裁を渋っているのですか?」

 シャルロッテが廊下の先を見ながら訊くと、従者はシャルロッテの方を向く。

「渋っている方はいません。宰相閣下以下閣僚の皆様は賛成されていますし、枢密官の過半数も賛成されています。他の方は渋っているのではなく反対なされています」

「他の方………。軍部ですね」

「姫殿下から一度」

「わかりました。あれを使って揺さぶってみます」

「お願いします」

 従者が足を止めて頭を下げる。シャルロッテはそのままウルリーケの部屋に向かった。


「姉様。話は聞かれました?」

「ロッテがレガリアを狙っている話?」

「はい。姉様は軍部に影響力をお持ちですので、姉様の方から軍部に口添えをお願いしたいのですが」

 笑顔で頼んでいるようにも見えるがシャルロッテの目は、まったく笑っていない。

「いやよ」

 鞭で物を叩くような言葉の調子でそういうウルリーケは、能面のような顔をしている。

「なぜでしょうか?」

「イース地方の内紛は今、激しいわ。そこに領有権の問題もあるし、ロインドル帝国の皇女がイースの近づいたらガラリスやリサミラが何らかの行動を起こしかねないわ。シエビアとの緊張状態でそれは避けたいというのが軍部の考えで、あたしの考えよ」

 鋭く言い放った。少し、空気が険しくなる。さらにウルリーケは、続ける。

「木を見て森を見ないことは、愚かよ」

「そうですね、姉様。早々に遠い森を見ても愚かですね。まずは目の前の木をどうするかが重要ですよ」

 シャルロッテの言葉にウルリーケは、目を怒らしてシャルロッテを睨む。だが、シャルロッテは気に止めない。むしろ、笑みが増している。相変わらず、目はまったく笑っていないが。

「木………ルマングのこと?」

「ええ、ルマングに対抗するためにもレガリアは必要です。ですが、軍部は反対なさってる。姉様が軍部を説得なさるために私が姉様を説得いたします」

「何か交渉材料があるってこと?」

 ウルリーケは心がひかれたように、シャルロッテの顔を覗く。シャルロッテは笑顔のままだ。

「シエビアとの国境最前線の砦におられるレーマー守備将がシエビアに内通しているというのはいかがですか。もちろん証拠もありますよ」

 無造作に羊皮紙をウルリーケに渡す。一読してウルリーケは舌打ちをした。


 その舌打ちには、三つの意味がある。一つは、最前線の砦を任されている者が裏切り行為を働いていること。もう一つは、その情報をシャルロッテは掴んでおり、自分には知らされてないこと。最後は、自分に知らされてないことを利用して自分と軍部を牽制しようとしていることに。


「レーマー守備将を粛清すれば、シエビアは脅しは掛けて来るでしょう。ですが、内通者を始末されて、侵攻経路を潰されてしまったら、実際には侵攻はしてこないでしょうね」

 シャルロッテは、猫なで声でウルリーケに言う。ウルリーケは、憎々しげにシャルロッテを睨む。

「レーマーは粛清し、軍部を抑えておくわ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ