番外編 明日良の夏休み
ちょっとは涼しくなる話を目指してみました。
明日良は今日も夏休みの課題をやっていた。
最近、彼氏の和衡からスマホにメールが来るようになったが。
バイトが忙しいのか、デートの日にしても断りと謝る内容のメールが増えている。それも仕方ないかと思っていた。
実は和衡は探偵事務所でアルバイトをしている。しかも先輩の鈴木氏と組んで霊能力探偵なるものをやっていた。明日良も依頼者として世話になった事があった。その縁で彼と付き合うようになったのだが。
明日良は元々、幽霊に取り憑かれやすいと和衡が言っていた。
そのせいかよくわからない霊が部屋にやって来るようになっている。今日もぞくりと背筋に寒気が走った。恐る恐る後ろを振り返る。
そこには透けた状態の白い着物を着た女性が佇んでいた。明日良はまた課題に集中する。が、視線を感じて再び振り返った。
「……あの。何かご用ですか?」
仕方なく、明日良は小声で呼びかけてみた。すると女性は嬉々として答える。
『あら。わたくしの姿が見えるどころか。声も聞こえるようね』
「はあ。確かに見えるし聞こえますけど」
『ちょっとわたくしの話相手でもしてくれないかしら?』
女性が頼んでくるが。明日良はどうしたものかと悩んだ。
「……ごめんなさい。ちょっと勉強の途中なので。これが終わった後だったら良いですよ」
『……ふうん。勉学の途中だったのね。わかったわ。終わるまで外で待ってるわね』
この女性の霊は悪霊ではなさそうだ。明日良はそう思いながら課題をやり終えるためにもシャープペンを持つ手に力を入れたのだった。
その後、明日良は午後八時半頃に課題を終えた。窓を開けると女性の霊が嬉しそうに部屋の中に入ってきた。明日良の頭を何故か撫でてくる。当たり前だがその手はひんやりとしていた。
『ふふ。久しぶりだわ。こんなに若い女の子と話すのは』
「はあ。それで和衡君に用でもあるんですか?」
『……あら。わかってたのね。そうよ。わたくしは菊丸の姉で名を吉瀬というの。ちょっと和衡殿にお礼を言いたくて来たの』
「でも今日はうちには来てませんよ。すみませんけど。明日にしてもらえますか?」
『残念。わたくしもそんなに長い間、この世にいられないのよ。でもわかったわ。明日にまた来るわ。和衡殿には伝えておいてね』
明日良がわかりましたというと吉瀬はすうと姿を消したのだった。仕方なく、スマホで和衡に彼女の事を電話で伝えた明日良であった。
翌日の夕方に和衡が明日良の自宅にやってきた。吉瀬の事は伝えてある。和衡は探偵事務所のバイトが今日は休みだった。なので来てくれたのだ。
「んで。明日良、吉瀬さんが来てたのはお前の部屋だよな」
「うん。そうだよ。とりあえず、二階に上がろう」
明日良は和衡と二階の部屋に向かった。中に入ると吉瀬がニコニコ顔で待ち構えていた。和衡は彼女を見てちょっと目を見開いた。
「……何だ。菊丸のお姉さんかよ。どうしたんだ。もう成仏したはずだろう」
『……ああら。何だはないでしょ。弟の事では色々と手助けしてあげたじゃないの』
「それでも、明日良を使う事はないだろ」
がしがしと和衡は髪の毛をかき混ぜた。どうしたもんやらと思っているようだ。吉瀬はにんまりと笑った。
『けど。和衡殿も隅に置けないわねえ。こんな可愛い子を恋人にするなんて。明日良さんだったわね。いくつか教えてくれないかしら?』
「……十五歳になります」
『んまあ。十五歳なの。若いわね。菊丸より二つ上だったの』
「吉瀬さん。用件はもう終わったんだろう。そろそろ迎えが来る時間のはずだが」
『……何よお。和衡殿のけち。もうちょっと話してもいいでしょうに』
和衡は送りの呪文を唱える。ぶつぶつと文句を言う吉瀬だが。すうと姿を消してしまう。
「……やっと帰ってくれた。すまないな、明日良。巻き込んで」
「ううん。気にしてないよ」
「ならいいんだが」
和衡は苦笑しながら明日良の頭を撫でた。吉瀬とは違い、ほんのりと温かい。やっと安心できた。そうして二人はしばらくの間、語らったのだった。
終わり




