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それは人から人へと語られて、親が子に、子が親になり、そしてまた親が子に──そうして引き継がれる伝承の域を超え、思えば意図的に広がっていったのだろうと、ニーノ・アマートは考える。
物心がついたころ、子は不思議に思うだろう。なぜ良い天気なのに「あいにくの空で」といい、暗く淀んだ日なのに「良い天気で」といわなければならないのか。
大人は決まって、こう答える。それは、竜は嘘がつけないからだと。こうやって挨拶をすることで、相手がちゃんと人間であることを確認しているのだと。
子の疑問は続くだろう。
どうして、竜がいたら、いけないの? 昔、この国の王様と竜のお姫様が、結婚したんでしょう? 竜とは、仲良しなんでしょう?
当然の疑問のはずだ。
そこに潜む矛盾に、おそらくだれもが気づいていながら、だれも言及しない。
「たったの八十年」
それはあっという間に、国中に広まった。
幸せの物語。人の王と竜の姫、種族を超えた愛の物語。
店に帰り着くと、ニーノはオプスの入った袋を無造作に放った。これこそが、矛盾の塊だった。
竜はこの国を襲わないのに、この国の人間は竜を狩る。
この八十年で、オプスを利用する技術はめざましく発展した。それが、何を意味するのか。
「そろそろ、つけが回ってくるってことか」
店中をひっくり返すぐらいのことは、やる価値があるだろう。八十年前の当時も、アマート家は王城でのオプス管理を任されていた。推測ばかりを重ねてもどうにもならない。
ニーノは一度目を閉じ、深く息を吐き出す。立ち上がると、ランタンに火を灯した。