第8話 行商人サイフォン、危機一髪⁉︎
オークを倒した後に残ったのは腰巻だった。
とりあえずつまみあげてみるが、あのオークがはいてたやつだよな。臭そうだし、やっぱいらねぇや。
「よし、じゃあ先へ進もう。」
「うん、ハルお腹すいたけど、頑張る〜。」
「ギャア〜。」
シルヴィーもハルのフードから顔だけ出して吠えてる。
そういやシルヴィーって何を食うんだろうか?
村に着いたら考えるか。
そうこうするうちに少し開けてきた。
おっ、道っぽくなってきたぞ。
多分もうすぐだな。
「ハル、もうすぐ着きそうだぞ、頑張れ。」
「うん、頑張るぅ。道が歩きやすくなってきたね〜、えへへ〜。」
現金なやつめ。
「誰か〜!助けてくれ〜!!」
前方の方から叫び声が聞こえた。
何かあったんだろうか?
「どうする?」
俺はハルと顔を見合わせる。
「ソラくん、急ごっ。」
ハルはすぐさま走り出した。
お世辞にも速いとは言えないが。
「ああ。」
俺も応えてハルと並走する。
俺たちが向かった先に1台の馬車が見えてきた。
しかしどうやら周りをモンスター共に囲まれていた。
あれは、サイクロプスか?
赤い一つ目に緑の筋肉隆々の身体が気色悪い。こいつもでっかい。4、5メートル級が2体。デカい金棒みたいなモンを引っさげて馬車を叩き潰してやがる。
こいつらは明らかに強そうだ。
2体同時に行けるか?
いや、一匹ずつのほうが確実だな。
素早く安全策を判断して、
「ハル、援護を頼む。俺は近い方から叩く!ハルは奥のやつを。」
「うん。」
言うやいなやエトワール片手に駆け出す。
狙うはもちろん金棒を持つ腕。
「疾風斬り〜。」
シュッ。
げっ、かすり傷しか付かねぇ。
さっきの奴らとは格が違うってか。
サイクロプスが俺の攻撃に気付いて振り返る。
金棒振り上げやがった。
そのまま力任せに振り下ろしてきた。
だが、そんなわかりやすい攻撃食らうかよ!
素早く後ろに回り込み、今度は力を込めて、
「疾風突きぃ!」
サイクロプスの膝の後ろを一突き。
サイクロプスは、貫かれた方の膝から崩れる。
良し。
これで奴の動きは封じた。
俺は更に力を込めてエトワールを突き出す。
これで終わりだっ、
「乱れ突き!」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ。
額、喉笛、両肩、両胸、みぞおち、両脇腹を一息で貫く。
一撃で倒せないなら数打ち込んでやる。
さすがのサイクロプスも前のめりに崩れ落ちた。
後一匹。俺はもう一匹のサイクロプスに目を向ける。
今まさに金棒がおっさんを薙ぎ払う瞬間だった。
「焔葬。」
ハルの魔法がサイクロプスに炸裂した。
ドドーーン。
デカい音を立て、ピンポイントでサイクロプスの胸の辺りで爆発が起こる。
爆風に一瞬目を逸らし、確認するとサイクロプスの上半身が物の見事に弾け飛んでいた。
おっさんも爆風で吹き飛ばされていたが、どうやら無事のようだ。
「おっさん、大丈夫か?ハルちょっとやり過ぎだろ。至近距離だったからおっさん吹き飛ばされてたぞ。」
「だってまだ慣れてないも〜ん。」
俺は手を差し出しておっさんを助け起こす。
歳は50才くらいだろうか?
「いやはや、助かりましたよ、旅のお方。」
「おっさん、危なかったな。ケガはしてないか?」
「はい、かすり傷程度ですみました。」
「そっか、無事で良かった。ところでこの辺はあんな手強いモンスターがうようよいるのか?」
「いえ、普段は村の近くにまでは来ないのですが、最近どうも山あいからモンスターが降りてきているようなんです。」
そうなのか、サイクロプスは結構強かったからなぁ。
ワラワラ出てこられると大変だ。
「そうか、それは物騒だな。俺たちはティルト村へ行きたいんだが、もう近くなのか?」
「はい、もうすぐそこですよ。助けて頂きましたし、案内致しましょう。」
「ああ、助かるよ。俺はソラで、こっちがハル。んでこの小っこいのがシルヴィーだ。」
「どうも〜。」
「ギャア〜。」
俺はハルとシルヴィーをおっさんに紹介する。
「はい、申し遅れました。私はサイフォン、見ての通り行商人をしております。
サイクロプスに荷馬車を潰されてしまいましたがね。」
馬は逃げてしまったのか近くに見当たらない。馬車は真ん中から叩き潰されていて、周りに荷物が散乱している。
サイフォンはとりあえず使えそうなものだけ拾い集める。
「サイクロプスを見て、馬も護衛の者も逃げ出してしまいました。」
「すまなかったな、もう少し早く駆けつけられたら良かったのだが。」
「あ、いえいえ、それは仕方のないことです。ティルト村はこちらです。」
数分歩くと森が更に開けてきた。
お、あれがティルト村か。
木で作られた門が見えきた。
人の喧騒もかすかに聞こえてくる。
「おお〜、あれがティルト村かぁ。」
「はい、そうです。」
実感が湧いてくる。
「やっと着いたね〜。ハルお腹ペコペコだよ〜。」
「ああ、そうだな、俺もペコペコだよ。入ったらまずは飯食いに行こう。」
かくして俺たちはサイフォンのおっさんに案内され、何とか無事にティルト村に到着したのだった。