第4話 竜の加護⁉︎
沈黙してると俺の心中を察してか、察していないのか、シルヴェスタが話を続ける。
「うーん、君たちは見たところ武術や魔法の心得が無いようだね。それじゃあ、ここから出た瞬間にモンスターの餌食になってしまうよ。この死火山の周りにいるモンスターはそれなりに強いからね。」
げっ、モンスターとかもいんのかよ⁉︎
やっぱ強ぇんだろうなぁ。
ハルはシルヴィーとじゃれあってて話全く聞いてねぇし。
「まぁ、仕方ないか。その子を育ててもらう代わりに私の加護を授けよう。今回は特別サービスだよ。本当はこんな事はしちゃあいけないんだけど、君たちは異世界の人だからね。クルテアも許してくれるだろう。
هذا الشخص نبارك التنين(ハヴァ ショスト ベーリクリャト リャム)。」
シルヴェスタが聞いたことがない言葉を口にすると彼女?の身体がまばゆく光だした。
その光が俺とハルに移動する。
おっ、何だこりゃ、身体が燃えるように熱くなってきた。
「熱っ!」
「ふえぇ〜〜⁉︎」
ハルも急に熱くなってきたのでビックリしている。
「目をつぶって落ち着いてごらん。身体の奥に何かを感じないかな?今君たちに竜の加護を授けたよ。」
言われて目を閉じてみる。
不安定だが、確かに自分の中に何かを感じる。
だがそれをどうすればいいのかはわからない。
「これってどう扱えばいいんだ?」
「竜の加護は人によって様々な形に現れるよ。使い方はイメージだね。頭の中で具体的にどうしたいのかをイメージするんだ。自ずと力が作用するよ。ソラは、うん、そうだね。君は素早く動いたり、強靭な力を行使するのに向いているかな。
ハルの方は、おっ、これは凄い!ハルは魔法の才能が豊かだね。今はまだ使える魔法には限りがあるけど、鍛錬を積めば大魔術師にも匹敵する素質を秘めているよ。」
おい、ハルはすごくて俺はショボいのかよ!クソ〜、やってらんねぇぜ。俺のが体力あるのによ〜。
「こればっかりは個々人の能力だからね。ソラは戦士向きで、ハルは魔術師に向いているということさ。バランスが良くていいじゃないか。」
まぁ、俺は警察官目指して走り込みや柔剣道してたからなぁ。
ハルはどっちかというと運動音痴だけど、その分勉強好きだから頭はいい。ま、天然だけどな。その差かぁ、俺も魔法使ってみてぇ。
「なぁ、ハル。お前今何か魔法使えるか?」
「そうだね〜、انتعاش 回復」
ハルが何やら唱えると、ハルの両手が白く光り、俺の身体が楽になる。
「お、何か暖っけぇ。力が湧いてくる。」
「今のはね〜、回復魔法だよ。すごいでしょ、えへへ〜。」
「うん、さすがだね。ハルは飲み込みが早いよ。魔法は叡智の影響を強く受けるんだ。賢い程魔法の威力は増すよ。」
う〜わ、かっけぇ。ハルがマジで魔法使ってる。
俺だってかっこいいとこ見せてやりてぇ。
「よ〜し、見てろよ〜、俺だって〜!はぁ〜〜。」
俺は台座の近くにあった等身大サイズの岩に意識を集中した。
「ていっ!」
気合い一発、岩を殴りつける。
『バキッー。ボコッ』
軽い音の後、鈍い音がして岩が真っ二つに割れた。
「うわわ〜、ソラくんすご〜。」
「うん、地味めだけど、鍛えていけばもっと強くなれるよ、ソラは。なんたって私の加護だからね。竜の強靭な力と鋼のような肉体が何よりの武器になるさ。ここいらのモンスターなら軽く一捻りできると思うよ。」
「そうか、ありがとう、シルヴェスタ。少しは何とかなりそうな気がしてきた。」
「ああ、それと問題は言語だね。私はソラやハルに精神干渉でアクセスした時に君たちの日本語という言語を学習させてもらったけど、エルシオンではケレス語という言語が一般的なんだ。多少方言はあるみたいだけど。」
「やっぱそうだよなぁ、なんたって異世界だもんなぁ。同んなじ日本語使ってたら逆にビックリするわ。」
「だねぇ〜。こっちの人とコミュニケーションが取れないのは困るよね〜。トラブルになっちゃったら大変だよぉ〜。シルヴェスタさん、何とかなりませんか〜?」
ハルもシルヴィーとギャアギャアしながら話に参加してきた。
「う〜ん、そうだね、もう一度精神干渉で今度は私の方からケレス語の情報を送ってみよう。うまくいくかはわからないけどね。」
「ちなみに失敗したら記憶がなくなるとかはねぇよな?」
とりあえず聞いてみた。
「多分ね。」
多分だとぉ、ちょっとビビるじゃねぇか。
「どうする?試してみるかい?」
「ああ、うまくいくかわかんねぇんだったら、とりあえず俺からやってみてくれ。」
「わかった。いくよ、ソラ、目を閉じて心を落ち着けてくれ。
تدخل الروح(ザッダッハナ ルーア)。」
俺は目をつぶり心を落ち着かせた。何かが頭の中に入ってくるのを感じたと思ったら、急にケレス語が理解できた。
ほぉ、なるほど、これがケレス語か。どちらかというと英語に近いのかな?
「うまくいったみたいだ。いきなりケレス語が頭に入ってきた。ハル、 وأنا أحب(好きだよ)。」
「えっ、ソラくん、今何て言ったの?教えて、教えて〜。」
「ダ〜メ、教えない(笑)。」
恥ずいから教えるわけねぇだろ。
好きだって面と向かって言えるかよ。
「あ〜、それはね、ソラはハルのことが・・・。」
「おいおい!シルヴェスタ、それ以上言うなよ!!」
シルヴェスタがいきなり暴露しようとしやがるから遮った。
こいつ空気読みやがれ。
シルヴェスタを睨む俺の目線に気付いて咳込むシルヴェスタ。
「あ〜、オホン。どうやら教えては駄目らしい。すまない、ハル。ソラが怒っているのでな。」
「え〜、何でよ、ソラくんの意地悪ぅ〜。」
「今はまだダメだ。無事に地球に帰ったら教えてやる。約束だ。」
俺がマジな顔でハルに言うと、ハルも納得したようだった。
とりあえずハルの方も精神干渉でケレス語を学習し、俺たちはシルヴェスタの巣を出ようとした。
「あっ、ちょっと待ちたまえ。君たちは武器も持たずに素手でモンスターと戦うつもりかい?さすがにそれでは勝てるモンスターも勝てないよ。」
「あ、そうなの?竜の加護で素手で倒せるぐらい強くなったのかと思ってた。」
「さすがに最低限、剣や盾ぐらいはいるよ。特に前衛のソラにはね。後衛のハルは杖とローブで大丈夫かな。こっちに来て。私が居た台座の奥に宝物庫があるんだ。」
「へぇ〜、お宝がいっぱいなのかぁ。」
「 ドラゴンは光りモノが好きでね、趣味で集めていたんだけど、私の寿命も僅かなのでね、気に入ったモノを持っていくといい。」
ありがたい。失念してたが、丸腰でモンスターに挑むのと、武器や防具を持って挑むのとでは心持ちが大分違う。
シルヴェスタには感謝しまくりだ。
シルヴェスタの言葉に甘えて俺たちは宝物庫に立ち入った。