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第10話 ハルとの約束とファーストキス⁉︎

俺は5才の頃ハルん家の隣に引っ越してきた。

父さんが新居を購入した関係だ。

家族でご近所さんに挨拶しに行った時に、お隣さんの子と年が一緒ということで、うちの両親とハルの両親が意気投合し、そこから家族ぐるみの生活が始まったんだ。


その頃のハルは引っ込み思案で、いつも不安げに俺の事を見ていた。

俺はどちらかというと誰とでもすぐ友達になる活発な男の子だったから、ハルと打ち解けるのにもそんなに時間はかからなかった。

一度打ち解けてしまえば、お互いの家を行ったり来たりした。

今日は俺の部屋で遊ぼう、明日はハルの部屋で遊ぼう。

お風呂も一緒に入り、一緒の布団で寝たこともあった。

まるで兄妹のように幼少を過ごしてきた。

だからこそ距離が近過ぎて、俺はなかなかハルの気持ちに気付いてやれなかった。


そんな俺たちも中学生になるとお互い思春期もあってやや距離が離れたように思う。

自然とお風呂も一緒に入らなくなったし、一緒に寝る事もなくなった。

兄妹のようにずっと過ごしてきたせいか、心の距離が離れるととても寂しく感じたのを強烈に覚えている。

もしかしたらハルもそうだったのかな?

そんな微妙な距離の俺たちが中学3年生になった時に事件が起こった。


別々のクラスだったため会話する機会もめっきり減って、顏を合わすのも朝ぐらいだった。

たまたま学校の廊下ですれ違った時に、

「ソラく〜ん、今日放課後時間ある?相談したいことがあるんだけど。」

「いや、部活あるし。」

「そうだよね、うん、分かった。ごめんね〜。」

俺はサボる事なく部活に精を出していたので、ハルの誘いを断ったんだ。

この時は何の話かなんて特に興味もなかったし、同級生に付き合ってくれって迫られてるなんて知りもしなかった。


その放課後に事は起こった。

俺がいつも通り部室でユニホームに着替えて、階段を下りていた時に、裏手の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「やっぱりお付き合いはできません。好きな人がいるんです。」

「そんな事言わんとってぇや、ハルちゃん。俺かてハルちゃんのことめっちゃ好きなんやって〜。」

「私は、その、上島くんの事は好きになれません。ごめんなさい。」

「誰なん、ハルちゃんの好きなやつ?俺の知ってるやつか?」

「そんな事言えません。本当にごめんなさい。」


これはハルの声だ。

俺は部室の影から様子を伺う。

もう一人は上島竜也(うえしまたつや)か。

俺の学年でも悪ガキで有名なやつだ。身長もデカくて柔道やってて強いと評判だ。

見た目は不細工で髪は茶髪に染めてやがる。

女関係にも悪い噂が流れているやつだった。

そんなやつにハルが言い寄られている。


「だから誰やねんて聞いてるやろ!ハルちゃんが好きなやつボコって俺の強さ見したるやんけ。」

「ソラくんにそんな事しないで!!」


おい!ハル、何故に俺の名前を!

上島にバレバレじゃねぇか。


「おう、2組の新堂(しんどう)宇宙(そら)かいや。あんなチビのどこがえぇねん。あんなん一瞬でボコボコにしたるわ。」

「やめて!そんな事したってあなたの彼女になんか絶対ならない!」

「うっさいんじゃあ!」


バチィッ。


上島がハルを引っ叩いた。

「きゃぁっ、ふぇ、ふぇ、グス、グス。」

泣きながら左の頬に手を当ててへたり込むハル。

あの野郎女の子に手出しやがった。

しかも、ハルに!

許せねぇ。

俺の中に怒りの感情が溢れ出す。

俺は力一杯拳を握りしめた。


「おう、ハルちゃんやぁ、俺の彼女になるんやったら新堂ぼこるんやめといたるわ。どうする?俺優しいからハルちゃんに選ばしたる〜。」


「グス、グス、・・・になります。」

「はぁ?何て?声小さくて聞こえへんわ。もっと大きい声で言うてぇな。」


俺はハルが言わんとしてる事がわかった。

ハルは俺のために・・・。

もう我慢できねぇ。


「上島くんの彼女になります。」

「なんや、ハルちゃん、最初からそう言ってくれたら叩かんですんだのに。ごめんなぁ。」


俺は飛び出した。

「上島ァ、ボケがぁ!!」

陸部で鍛えた足を活かしダッシュで駆け寄り、上島を思いっきり殴りつけた。


ボコッ。


「おう?なんじゃ、新堂!いきなり現れよって痛いやろが。何しよんじゃ、ボケはお前の方やろが!!」

上島が俺に殴りかかってきた。


ゴッ、バシッ、ボコッ。


上背のある上島に体格差で押し負ける。

諦めるか、クソが。


「ソラくん、やめて。上島くんも、やめて〜!!」


ハルが泣きながら叫ぶが、知った事か!

「オラァ、どうした?新堂、そんなもんか?これでも喰らえや!!」

奴の右ストレートを思いっきり喰らって吹き飛ぶ。

そのまま上島は俺の上に馬乗りになり殴る、殴る、殴り続ける。


「オラァ、どないした新堂。オラ、オラ、オラァ!」

俺は両手を顏の前でクロスして殴られ続けた。


「本当にやめて、ソラくんが死んじゃう!!お願いだから、やめて〜、上島くんの言うこと何でも聞くから〜〜!!」

「ホンマか?ハルちゃん?」

上島の殴る手が止まった。

「うん、もうやめてくれるなら何でも言う事聞きます。」

「わかった、ほな殴るんやめるからここで裸なってくれるか?」

「えっ⁉︎」

さすがのハルも顔が強張る。

「だから裸やって。ここで服脱いでくれって言うてんねん。」


「わかり・・・ました。」

ハルは意を決したのか、ブラウスのボタンを外しはじめた。


「ハル、やめろ!こんな奴の言う事聞くんじゃねぇ!!」

「うっさいんじゃ、お前は黙っとけや。ハルちゃんはもう俺の彼女なんじゃ、ボケが。」


バキッ。


俺の左頬に一発打ち込む。

痛ってぇ、奥歯折れたかも。


ハルがブラウスを脱いだ。

可愛い白のブラが露わになる。

「おお〜、ハルちゃんええ身体してるやんかぁ。スカートも脱いでや〜。」

上島は興奮して顔をハルに向けていた。

拘束が一瞬緩む。

その隙を逃すわけにはいかない。

今だ!!

俺は思いっきり奴の股間を蹴り上げた。


ドゥ。


「ウオォ〜〜〜ゥ⁉︎」


上島が呻きながら悶絶する。

多分下半身が反応してて玉がガラ空きだったんだろうな。

思いっきり蹴りが入った。

すぐさま立ち上がり、ハルの元へ走る。

「ハル、行くぞ!」

「えっ、ちょっ・・・。」


ハルの返事を聞かずにブラウスを着せて手を引っ張り、駆け出す。


「こら、新堂待てや、卑怯やぞ。痛ってぇ、お〜〜ぅ。」


俺たちは猛ダッシュで職員室に駆け込んだ。

事の顛末を先生たちに正直に言い、後は先生たちに任せて2人で帰る。

生徒指導の先生が眉間に皺を寄せて部室の方へ走っていくのが見えた。


帰り道。

あんな事があったので2人共シーンとしてた。


俺は思いきって、

「ハル、あんなボケと付き合うぐらいやったら俺と付き合え!」

「ほえぇぇ〜!!」

ハルがビックリして素っ頓狂な声を出した。

俺は自分の顔が真っ赤になるのがわかった。

勢いに任せて告っちまった。


しばらくしてハルが恥ずかしそうに俯きながら、

「うん、ハルはソラくんの彼女になる。」って返してくれた。

「よっしゃ〜!!」

嬉しさの余りついガッツポーズで叫んでしまった。

「これからは俺が絶対守ってやる。絶対だ。」

「うん、約束だよ、えへへ〜。」

ハルが嬉しそうにはにかんだ。


この日俺たちは約束の証にキスをした。

唇を軽く重ねるだけのキス。

それでも今の俺には十分だった。


俺はこの日から陸部を退部して上島のいる柔道部に入部することに決めた。

将来の夢はもちろん警察官だ。

何でだって?

そりゃ守りたいものがあるからだろうが。

約束したんだ、ハルと。

何があってもお前を守るって。


後日知った事だが、上島は今回の件で学校に親共々呼び出され、こっぴどく叱られた挙句、先生たちに常にマークされるようになったそうだ。


ハルは俺に告白されたのが相当嬉しかったのか、次の日には学年中に俺たちが付き合っていることが知れ渡っていた。

そのおかげで精神的にタフになった気がする。


俺は警察官を目指していたので、高校も柔道が強い学校を選んだ。

ハルはソラくんと一緒の学校がいいって親に直談判し、同じ高校に行く通う事ができた。

付き合いはじめて今年で3年。

月日が経つのは早いもんだ。



そんな昔の事を夢で思い出しながら、俺は朝を迎えた。



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