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補想小説 流れの中で…

作者: 阿井愛

「おそーい、何分待ったと思ってるの?

「そりゃ、こっち着いてから電話した私が悪かったけどさ……。

「そういう言い方ないじゃん、もう! 走って来てくれたりしても良かったのにぃ。

「うそ。走ってないでしょ。だって息切れてないもん。それくらいの推理は出来ますー。誠意ってものが感じられないな。

「あ~、はいはい。遅くに連絡した私が悪かったです。ゴメンナサイ。

「ああん、もう待ってよ。帰らないで。せっかく訪ねて来たんだから。ちょっとぉ、足速いよ、こっちは荷物があるんだから! か弱い女の子を見知らぬ土地でほっとくつもり?! 折角遥々とおーい所から愛しい人を訪ねてきたのにぃ。

「もう! いいよいいよ。今日はここで寝るもんね。全然知らない所だから、何処に行けば良いか分からないし、お金だって全然持ってないんだもん。しょうがないからここで寝るもんね。

「ちょっと、女の子をこんな所にほっとくつもり? 男として恥ずかしくないの?

「あぁそう。ふんだ。いいもんいいもん。ホントにここで寝てやる。どーせ君んち行かなければ野宿するしかないもんね。お夕飯食べるお金だってないんだから。んで、ここで寝てると知らないおじさんとかが話し掛けて来てさ、『君独り? おじさんといーことしようか?』なんて強引に手ぇ引っ張って行かれてムリヤリに……

「分かればヨロシイ。

「いいじゃん。他の人が見てたって。

「そうやって周りを気にする癖、変わってないね。

「うん。昔からそうだったよ。クラスメートがどうとか近所の人がどうとか。自覚してなかった?

「ほんっっと、鈍いんだから。

「でさ。相談なんだけど、君んち泊まらせてよ。さっきも言ったけど。

「親? いいよ、私は気にしない。君んちのお母さん知らないわけじゃないしさ。

「もう君だけが頼りなんだ……。

「ね。荷物持ってよ。何も持ってないんだし。

「いいじゃないのよ。ケチ! まえは優しかったのにネ。

「ふ~ん、恋人じゃない人には優しくしないんだ。案外心狭かったんだね。はぁ、私も人を見る目が無かったなぁ。

「ところで今はどうなのよ。イイ人、いるの?

「私? 私は……いないわよ。いたらこんな所いないって。で、君はどうなわけ?

「ふ~ん、そうなんだ。……ね、私なんてどう? また付き合わない?

「あ、何その突き放した言い方。それが昔の恋人に対するセリフ? 間接的に告白してるのにさ。

「そうだよ。告白。ホント鈍いよねぇ。鈍感。

「あ、ありがと。あ~、やっと少し軽くなった。

「ん、いいよ。一つだけで。それ一番重いやつだし。それより、ね、私お腹が空いたなぁ。

「お腹が空いたなぁ。

「お・な・か・が・す・い・た・な・ぁ!

「うん。そう。おごれってこと。言ったでしょ、お金持ってないって。

「ここに来るのに全部使っちゃった。

「だから、君しか頼る人がいないんだってば。

「あ。信じてないな。切ない女心の妙を察しなさいって。……あ、あの店いいな。大人っぽい雰囲気が……。

「ちょっと待ってってば。そこのお店ぇ。

「あ、あ、あ、見えなくなった。

「ん? 他の店? なんだ、そうならそうって言ってよ。言ってくれなきゃ分かんないよ。前だって。

「んーん。なんでも無い。それより、ね。どこに連れてってくれるの? そこおいしい?

「ケチ! いいじゃん教えてくれたって。

「へ? 会いにきた理由? だから愛しいダーリンに……。

「ごまかしてないもんね。

「……ね。ホントだったらどうする?

「を。ゆれてるゆれてる。まだ脈があるな、こりゃ。

「ね、さっきの話しだけどさ。ホント、君んち泊めてよ。

「バレないように部屋に入れるでしょ? どーせ君の事だから近くの木か塀でも使って……。

「ダメ? そっかぁ。泊めてくれたらそれなりに報酬を払ってもいいと思ってたんだけどな。

「ま、君にも事情があるし。無理にとは言わないよ。

「……。もしかして、ここ? 君の言ってた店って……。

「マックじゃん!!

「もっと他のお店知らないの? 何か、こう、ロマンティックな……。

「へん! ごーつくばり! 守銭奴! 金の亡者! ……昔っから貧乏なんだから。

「あ。開き直ったな。やーい、貧乏貧乏! ……やめた。私も貧乏だもんね。なんか虚しくなってきちゃった。ここでいいから入ろう。マック嫌いじゃないし。

「でも君のおごりだからね。

「えへへ。やった。だいすき。

「? なんで? 好きなもの好きっていったらいけない?

「別に私恥ずかしくないもん。だって私が好きなんだから、いいんじゃない。他の人に危害を与えてるわけじゃないし。

「またそうだ。そうやって他の人を気にする。良くないよ、そーゆーの。君は君なんだから、他の人に何と言われようといいじゃない。

「それと一緒で、私は私なの。私が好きなものは、好き。それ以上でもそれ以下でもないの。私、チーズバーガーのセットね。

「……。

「あ、あそこ空いてるよ。ほら、窓際。

「わぁ。結構眺めイイね。うん。気に入った。

「いただきまーす。

「……チーズバーガーってさ、ジャンクフードらしい安っぽさと、濃すぎるチーズの味の微妙なバランスが良いのよね。金額的にも安いし。

「ううん。別に遠慮なんかしてないよ。この私が遠慮する人間に見える?

「あ、ひどーい。そこまで言わなくてもいいじゃない。ふん!

「……。

「でもさ。ホント久しぶりだよね。突然話題変わるけど。

「中学以来会ってないもんね。三年ぶりくらいかな?

「本当はね。電話して君に会うまですごく心配だったんだ。全然私の知らない人に変わっちゃってるんじゃないか、って。心配って言うよりも恐怖の方が正しいのかもしれない。だって、全然知らない人と会って、何話していいか、どうすればいいか分からないもんね。

「会って安心したよ。あの頃と変わってないから。いい面も悪い面も、ね。

「そう? 私変わったかなぁ? 自分では変わってないつもりだけど……。

「……どう? 女らしく魅力的に成長した私は?

「あ! またそういう言い方する!

「え!? ……別にムリに明るい振りなんか、してないよ。……昔っからこうだったじゃん。

「イヤな事、そりゃあるわよ。でも、そんないちいちイヤな事に落ち込んでられないよ。それじゃ体が持ちません。……あぁ、もう。話してないで早く食べちゃおうよ。冷めちゃう。

「……。

「……。

「へへ、勝った~。私食べ終わるの一番!

「何? 勝負してない? ノンノン! 私はしてたの。だから私の勝ち~。

「なんとでも言いなさい。負け犬の遠吠えに勝者は甘んじて受けようではないか。

「……よし。食べ終わったね。ね。あそこに見える浜辺、散歩しようよ。

「時間? 久しぶりの再会なんだから、そんなの気にしない!

「あ、片付けは私がするよ。おごってもらったしね。

「ほら。行こう!


「わぁ。もうこんな暗くなっちゃった。日が落ちるの、早いねぇ。

「なんかさ、いいね、こういう波の音。

「あそこの茂みに荷物置いてさ、歩こうよ。

「中身? へーきへーき。摂られるような物入ってないから。それに人いないし。

「ここの浜辺ってさ。そんなに汚くないんだね。普通こういう所ってゴミとか流木とかで汚れてるのに。

「ふうん。クリーン運動ねぇ。えらいんだ、みんな。

「あ、そっか。時期が時期だもんね。だから人いないのか。

「……。

「静かだね。

「ね、あの星知ってる? あの紅いやつ。

「あれね、アンタレスって言うんだよ。さそり座の心臓なの。英雄オリオンを殺したさそり。それからね、う……んと。ずっとこっち来て明るい星が三つあるでしょ。あれは夏の大三角形。

「そうそう、中学でやったよね。デネブとべガとアルタイル。白鳥と琴とわし座。それからねぇ……。

「……。

「何となくね。聞いてるうちに覚えちゃった。昔は好きでもなんでもなかったんだけどね。

「うん。前の彼氏。

「そうだね。いい奴だった。少なくとも私はそう思ってる。

「――――うん。

「えへへ……。私らしくないよね、振られて傷心旅行なんてさ。たかが男たった一人離れていっただけなのにさ。

「うん。……本気だった。あのまま、ずっと二人一緒で、……って思ってたのに、それ私だけでさ。バカみたいだよね。あいつ、突然『結婚するんだ』とか言って、二股かけられて、しかも遊びだったのに気付かなくて、本気で……。

「六つ年上。

「あいつの方から言い寄ってきたんだよ。なのに勝手に、結婚する、なんてさ。いい加減だよね、男なんてさ。用が済んだら、ハイさよ~なら。ヤりたいことヤって、弄ぶだけ弄んで。サイテー。

「……。ごめんね、君も男だった。

「何て言うかさ、男だと思えなくて。

「はは。ごめんごめん。そういう意味じゃないんだけどね。

「ね。なんか疲れちゃった。座ろうよ。

「……。

「こうやって暗い中で波の音聞いてるとさ、簡単に昔が思い出せるよね。

「思い出せない? ああん、もう、情緒ってのが足りないなぁ、君には。

「……良い事も嫌な事もさ、何かこう、関係なしに浮かんできてさ。どうでもいいかな、何て。

「あ~、砂の上歩き回ったから靴の中砂だらけ。キモチ悪いと思った。

「んー、これはどーでもよくない事なの。

「そーゆーもん。いいや脱いじゃえ。

「靴下も。あ~。なんかキモチいい。ついでに服も全部脱いじゃおっかなぁ。

「冗談だって。何赤くなってんの?

「暗くったって分かるよそのくらい。

「でもホント、暗いから……わからないよね……。

「……。

「冷たくてキモチイーよ。君もやってごらんよ。靴脱いでさ。

「何だか子供に返ったみたい。

「うわっ!

「……あちゃぁ、スカートびしょびしょ。ま、いっか。代えの服もあるし。どーでもいーや。

「へへ。もうやけっぱち。もう少し奥行ってみるね。

「うわー、なんか変な感じ。水が黒いから。自分が何処にいるのかわからなくなりそう。

「うわっ、ぷ!

「……あー、びっくりした。急に深くなってるんだもん。

「そうだね、気をつけなくちゃ、かもね。ま、いいや。

「見てよ。スカートだけじゃなくブラウスまでびしょびしょ。

「あ、そっか。暗くて見えないよね。えへへ。

「ね。夜の水泳ってしたことある?

「そうだよね。あるわけないよね。……というわけで、今してみよう!

「そう、君と私と、二人で。

「ほら、早くこっち来なよ。

「えーい、イイ男が渋らない。こうなったら力ずくで……

「うう。水から出ると寒いねえ。きっと服が濡れてるからだろうな。

「なんのなんの、これくらい。う~ん、君は服濡れてないから……よっと。

「何恥ずかしがってんのよ、上半身くらいで。ほら下も……。

「うん、素直な男の子はオネーさん好きだなぁ。

「あら、二ヶ月でも年上は年上よ。私の方がオネーさんなの。

「ゴタクはイイから、せ~の!っと。

「へっへっへ。さぁ、もう水に入ったんだから堪忍しなさい。

「どう? 思い知った? 年上の力を。

「さて、と。私も服脱いだ方が良いよね。

「どーせ見えないからへーき。それとも……。

「みたい?

「冗談だってば。全部なんか脱ぎませんよー。

「……と。さて、泳いでみようか。

「……。

「……。

「……。

「ホント、奇妙な感じ。水の中にいるのに、目に見えないから。

「あはは、それいいね。うん、飛んでるみたいだ。

「なんにも縛られず、自由に。

「さーて、じゃあもっと鳥になろう。


「ちょっと疲れたね。

「うん、休憩休憩。

「はぁー。なんかさ、まだ泳ぐには早いんだろうけど、体があったかいや

「うん。プールの後なんかこんな感じだよね。空気冷たいのに体ぽかぽかで。

「……。

「……。

「ね。なんか話してよ。

「なんでもいーからさ。

「……。

「前からそーだったよね。

「私が君に会話のネタを振るとさ、『特に無い』って。

「うん、そう。変わってないね……。

「ホント、君は変わってない。

「……。

「ね。変な話するけどさ、不変ってあると思う?

「そう.変わらない事。

「うん。

「うん。

「そうだよね。きっとあるよね。

「……。

「……。

「……。

「え? 前の彼氏? さっき話したじゃん。

「それ以上話す事無いよ……。

「……。

「……。

「大嫌いだよ、あんな奴。

「……でも嫌いになれない。

「あいつさ、付き合いはじめの頃『俺には君しかいないよ』何て気障な事言ってたんだよ

「なのにころっと態度変えてさ。

「ふふ、そうだね。

「あいつは不変じゃない。

「……。

「不変じゃないものなんて要らないよ。

「……。

「……。

「……あ、流れ星。

「アルタイルのちょっとした。

「そう。わし座のアルタイル。

「そうだね。流れ星はすぐ消えちゃうから不変じゃないよね。

「……。

「でもさ、流れ星の美しさは、いつ、誰が見ても変わらずにキレイだって人に思わせてくれるよね。

「……。

「……。

「……。

「それってさ、人間にも言えるかも。

「人間ってさ、死んじゃうんだから、その存在は不変じゃないでしょ。でも、その人が頑張ったりしたこととか、一生懸命だったりしたこととかってさ、本当にあった事ですごくキレイで……。

「流れ星いいな……がんばって光るんだもの。

「私もがんばったんだけどね。

「……。

「私もさ、流れ星みたいになれるかな。

「うん。なりたい。

「……。


「ふつうにぼけーっと過ごしてるとさ。

「忘れちゃうけど、空って広いよね。

「私の住んでいるとこって、ビルとか建ってて、上見上げても感じないけどさ。

「ここって何も無いじゃん。上にはすぐ空があって、町の明かりもそんなに感じないし。

「空の上には宇宙があってさ、宇宙は何処まで行っても宇宙なんだって。ね、そんな事考えた事ある?

「わかってはいるんだけど、忘れちゃうんだよね。そして思い出せなくなる。

「自分がちっぽけな存在だってこと。

「思い出せないからバカみたいに頑張って、苦しんで悩んで……。

「……。

「ふと気付くとさ、自分が生きてる事が無駄なんじゃないか、って思ってる。

「苦労した事も悩んだ事も泣いた事も、宇宙全体から見れば全く無いのと同じくらいちっぽけな事で。

「……。

「うん。わかってる。それでも……。

「それでも、そう考えちゃうんだ。

「私が存在する意味があるんだろうか……。

「私は、不変なんだろうか……。


「さっきさ。

「さっき流れ星の美しさは不変って言ったよね。

「……。

「でもね、昔は、大昔は流れ星って悪い事が起きる前触れだったんだ。

「降って来る流れ星を見て昔の人達は、怖がって、嫌がって……。

「嫌ってた。

「本当は。

「本当は不変なんて……。

「……だったら。


「ね、もう少し泳ごうか?

「なんとなくね。海につかってる方が安心するし。

「平気だよ、大丈夫。

「やさしいんだね、相変わらず君は。

「さ。泳ごう。


「疲れた?

「じゃあ先に上がってなよ。

「私はもう少し泳いでるよ。

「もう少し。

「大丈夫だよ。心配しなくても。

「……じゃね。


「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「…………

「ゲホッ! ゴホッ! ゴホッ! ……ハァハァハァ。

「なんでよ! なんで! 大丈夫って言ったじゃない! どーして助けたりするの!

「バカでも何でもいい! そうしたかったからしたまでよ。

「だってもうヤなんだもん! どーでもいいんだもん!

「つらいんだもん! わかってよ! わかってよぉ……

「……。

「……。

「……。

「……。

「……。


「それ……。

「それタバコ、吸うための?

「そうなんだ……。


「ごめんね。

「……うん。あったまった。

「うん、もう、落ち着いた。

「……でも。

「助けて欲しくなんかなかった。

「本音。

「もうさ。生きてるの面倒なんだ。ほんと、どーでもいいって感じ。

「別に、悲劇のヒロインを気取ってるわけでも何でもないよ。

「何ていうか。

「もう嫌なんだ。変わっていくのが。

「ずっとこのまま、って私が思っても、それでも変わっていく世界が。

「変わらない幸せが欲しいのに、どんどん変わってっちゃう。

「だったら。死んじゃえば、もう変わらないかな、なんて……。


「昔はさ。

「タバコなんて絶対吸わない、って言ってたよね。

「うん。言ってた。

「やっぱり君も変わっちゃうんだ……。」



二人称小説と言うものがある、と中学のころ習いました。

数は少ないけど、一人称でも三人称でもない小説がある、と。

ただ、いろんな本を読んでも、なかなか二人称小説に出会うことはありませんでした。

『一体全体、二人称小説とはどんなものなのだろう?』という疑問の末生まれた小説です。


これが二人称小説に該当するのか、全然違うものなのかは分かりません。

ただ、自分が「私」になりきったつもりで、「君」に話しかけているつもりでひたすら綴りました。


「私」と「君」のやりとりが、少しでもあなたの想像の中で『補想』出来たら幸いです。

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