最後の龍と7人の王
故郷を滅ぼされた真弥は、初代龍神の言葉どおり7人の王を探し始めた
ここか・・・
院の担当者からもらった名刺を元に俺は赤坂探偵事務所を捜し当てた
そこはとあるビルの地下にこっそりと存在し、担当者が名刺の裏に書いたメモがなければ絶対に発見することは出来なかっただろう
「・・・」
しかし、どうはなすべきか・・・
唐突に7人の王と会いたいといっても話が通じるわけでもない
「何か御用ですか?」
そこへ、スーツ姿の男が現れた
その人は175センチある俺よりも若干低めで、細身の男だった
「えっ、あの・・・」
「・・・ああ、君は龍堂の次男の・・・どうぞ、水原から話は聞いてますので」
がちゃっ
男は事務所の鍵を開け、俺を招きいれた
「散らかっていますが、どうぞおかけになってください」
男は鞄を机に置き、お湯を沸かし始めた
「すみませんね、昨日は皆が遅くまで残っていたものですから出社を遅くしたんですよ」
時刻は11時を回っている
「いえ、こちらこそ急に押しかけてすみません」
「それで何の御用事でしょう?
水原のことでしょう・・・何か困ったことがあったらここを尋ねるよういわれていたりとかですかね」
「えっと・・・はい、じつは・・・」
「まぁ、焦らずとも結構ですよ
今、珈琲を入れますので少しお待ちを」
がちゃり
奥の部屋の扉が開いた
「忍さぁん・・・俺にも珈琲ちょうだい」
「はぁ・・・社長、またここで休まれたんですか?」
珈琲が入ったマグカップがテーブルに3つ並ぶ
「いやはや・・・申し訳ない申し訳ない
この事務所に来客って中々来ないものでさ」
「はぁ・・・」
社長と呼ばれた男は180センチくらいで屈強な肉体をしていた
その体型だけ見ると軍人や警察なんかをイメージしてしまうだろう
「それで、今日わざわざ来てもらった用件って言うのは?
・・・あれかな、君のご実家であった事に関することなのかな」
「!?」
なんでそれを・・・
「ははは、ごめんごめん
そんなにあからさまに驚かれるとこちらも驚いちゃうね
うちの事務所は表の顔も裏の顔も探偵業なのさ
だから院みたいな大きな組織が隠しているようなことでも知っていなきゃいけないこともあってさ
一応、口約束程度の不可侵条約を院と協会には結んでいるけどうちも第3セクターみたいな捉え方されることもあるしね
それで・・・何の用事かな?」
「・・・7人の王にあいたいんです」
「7人の王・・・か
こりゃぁ、また・・・君は7人の王が何たるかを知っているかい?」
「・・・いいえ」
「じゃぁ、なんでまた?」
「それは・・・」
「それはおそらく初代龍神に言われたのでしょう」
しばらく沈黙を保っていた忍という男が口を開いた
「初代龍神?」
社長が首をかしげた
「ええ、龍堂本家の裏の滝の祠に祭られている龍神法の開祖といえる人物です
最も今は霊体となって儀式で得た力で意識を現界させているだけですが」
「ほほぅ・・・」
社長は興味深く頷いた
「最もその存在を知っているのは、龍堂家の代々党首と少しの関係者のみですし・・・」
「ならば、君の兄上の行方を捜しているということにしてはどうだろう?」
社長が提案した
「そうすれば、不自然はないだろう
龍堂家は院に属していたが、協会ともある程度の交渉や取引をしていた間柄だから問題はないはず」
「そうですね、それならば会う理由にはなります
ですが、その程度で王が会うかどうか・・・」
「あの・・・すみません、そもそも王って何なんですか?」
「王って言うのは、王の象徴である秘宝を所有する契約者のこといい、他の契約者とは隔絶した力を持ち、大半は院と協会で役職についている」
「院に在籍しているのは、白と青の王、協会には赤と紫の王がいる
無色の王は研究所という組織をつくり中立の立場を取り、緑と黒の王は行方不明だ」
「協会・・・」
「王ともし戦いになる可能性があるなら、お勧めはしない
奴等は1人だけでも秩序を乱し、混沌をもたらす力を持っている
そうなっていないのは、良くも悪くも王同士の均衡が取れているからだ」
ごそごそ・・・
俺は赤倉からもらった名刺を取り出した
「・・・」
「それは?」
覗き込んできた社長に名刺を見せた
「・・・ほぅ、これは驚いた
これは赤の王本人じゃないか」
協会
「・・・」
秦は高層ビルの自室で外を見下ろしていた
コンコン
「なんだ」
「失礼します」
女性の秘書が部屋に入ってきた
「代表、本家のほうで何か騒ぎが起きているとのことです」
「・・・なんだと?
屋敷には岡田がいたはずだ、連絡は取れないのか?」
「それが、本家の電話も本人のケータイにも繋がらない状態で・・・」
「出かける、準備をしろ」
赤倉組
俺は探偵事務所から名刺の住所へと移動していた
そこはこの街の一等地にそびえる巨大な邸宅だった
もしかして・・・赤倉組って・・・
ゴゴゴゴ・・・・
邸宅の大きな門が開く
ヤ・・・クザ?
ドンッ!!
突如後ろから押され、前のめりになりながら邸宅の入り口へと足を踏み入れてしまった
「おい!なにじろじろうちの組み見てやがった!?」
それは厳つい顔をしたいかにもそっち方向の仕事の人間だった
「え、あの・・・」
「ここがどこだかわかってるんだろうな!?
ここは全国最大勢力赤倉組の本家だぞ!?」
やっぱり・・・
「あ、あの・・・赤倉秦さんに会いたくて・・・」
「なにぃ!!8代目に用だと!!?
・・・てめぇ、さては鉄砲玉だな!?」
話しが食い違い、騒ぎを聞きつけた組員達が表に意識を向け始めた
シャキン!!
「8代目を襲う奴に容赦なんざいらねぇ!!」
そいつはドスを引き抜くと俺の右腕を掴み、刃を振り下ろした
「なっ・・・」
あまりの事態に言葉が出なかった
詠唱がなければ龍の力を使うことはかなわない俺にとって命の危機といえる
ペキィンッ・・・
しかし、今度言葉を失ったのは相手のほうだった
「なん・・・だと・・・」
ドスは確かに俺の右腕を捕らえた
しかし、皮膚に当たったとたんに折れてしまった
そんな・・・力を開放しないとこんな事には・・・
「お、俺の・・・ドスが・・・ドスがぁ!!」
ジャキッ!
その男の手に握られていたのは黒い塊・・・拳銃だ
「!?」
体に緊張が走ると同じくして行動は起きていた
ドスッ!
相手が引き金を引く前に俺の肘が鳩尾を捉えていた
「が、ふ・・・」
どさ・・・
力なく倒れる男に視線を落としていると邸宅の中からぞろぞろと組員が出てきた
「あ、あの・・・」
「・・・お前さんがどこぞの誰とは問わん」
その中でも一際存在感を放つ男が口を開く
「だが・・・屋敷を預かる者として、屋敷内でこんなことされて黙っているわけにもいかんのだわ」
ボキボキ!!
バキバキ!!
「今日、うちに来たこと後悔して・・・逝けや!」
10数人のヤクザがなだれ込んで来た
襲い掛かるヤクザ達は、刃物や鈍器を武装している
とてもじゃないが詠唱して力を解放している余裕はなかった
だが、その死に迫る緊張感から初代が外した封印により眠っていた力が引き出されていく
すなわち、真弥の本来の力が目覚めていく
キィンッ!
皮膚が日本刀を受け止める
龍鱗
龍人法を発動時に現れる現象で皮膚が金属のような硬度を持つ
その強度は龍人法の習熟度により変化する
真弥も力を解放し、龍の腕を表した部分は龍鱗を纏っているが今は普通の状態だ
自分の体に起きた変化に戸惑いながらも、攻撃をかわし、反撃し続けついに1対1となった
「ほぅ・・・お前さん、契約者なんか?」
それは集団の中でも存在感を放っていた男だ
バリッ!!
男は着ていたシャツを破り脱いだ
「それならますます負けれんのぉ・・・」
しゅぅ・・・
空気が焦げた
男の体から熱気が溢れる
「そうだ・・・俺は負けれん」
男の体から火がにじみ出る
「義理はたすため、8代目のため・・・」
にじみ出た火が次第に大きくなる
そして・・・爆発するように火柱となった
「赤坂組若頭、岡田雄・・・推して参る!」
ダンッ!!
それは炎を纏った拳だった
受け止めた腕が痺れるほどの威力があり、体の自由を暫し奪う
ボフッ!!
炎の拳を受けたことにより、その次の蹴りがノーガードで受けてしまった
軽々と宙を舞い、5mほど飛ばされる
「う・・・くっ・・・」
よろよろと立ち上がる
「しぶとい・・・」
男が手を上げると炎が球体となってまとまり始める
「!?」
「往生せいっ!」
直径3mの火球が急速に迫る
がくっ・・・
蹴りのダメージにより、膝がおれ身動きが取れない
ボフッッッ!!!
火球が直撃した
焼ける・・・
どんなに強靭な鱗であろう焼きつくすであろう炎には並々ならぬ覚悟がこめられていた
契約者は後天的に力を得たもののことをいい、全員が例外なく何かと契約を結び、対価を支払うことで力を使用する
その対価は様々であるが力を使用するには、異能者と同様に精気を消費する
さらに強い意志や覚悟をもつことで契約した何かから力をさらに引き出せることがある
龍鱗を無視する熱量が体の内部まで染み込んでくる
「がっ、ぐぅ・・・」
やばい・・・意識が・・・
痛みを超え、意識を侵略する炎が体を焼く
龍人法には、体の内部で各属性を作り出し、体外で活用する技法が存在する
しかし、それを真弥は修得してはいない
ならば・・・
『喰らえ』
体の中から声がした
『その猛火を喰らい、己が力としろ』
それは受け入れる力
それは受け入れる器
それは受け入れる覚悟を示せということ
自身を焼く炎を受け入れて、己の力にするという覚悟
喰らう・・・
構えていた拳を解く
喰らう
己を取り巻く炎を見据え、両の足で立つ
喰らう!
それは呼吸するかのように自然と体内へ吸い込まれた
喰い・・・尽くせ!!
体外の炎を体内へ取り込み、自身の力へと昇華させる
焼けた龍鱗が再生し、猛々しい力が四肢へと流れる
「なんだと・・・」
炎とは力を象徴するもの
その力を凝縮し、一気に爆発させる
ダンッ!!
石畳を割る程の力で地面を蹴り、一気に岡田へと接近する
ボフンッ!!
「ぐっ!!」
空中を舞う岡田に無意識のうちに追っていた
ボッ!!
岡田のように炎を纏う拳で構えながら跳んでいた
「!?
はずれろぉぉぉお!」
咄嗟に我に返り、岡田の顔面に当たりそうな拳を強引にずらした
ドサッ・・・
その勢いで頭を打ち、俺は意識を失った