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後悔したその先は

後悔は先に立たない

掲載日:2012/06/23

綺麗な話ではありません。

人身売買や奴隷、シリアス、暗い話などが苦手な方はお帰りください。

気分を害される内容はありませんが、上記の内に一つでも当てはまるものがあれば速やかにお帰りください。


では、平気な方はどうぞ。







僕は選択してしまいました。

それが愚かなことだったと、後に死ぬほど後悔しました。


―――


目が覚めて、すぐに布団から起き上がるのが習慣でした。

しかし、この狭い鉄の空間ではそれすらできません。

顔の先十センチほどで、狭い空間の天井に当たってしまいます。


僕は人売りに捕まった、奴隷です。

この地域では珍しくないのですが、喧嘩したばかりの僕は警戒を緩めていたので簡単に捕まってしまいました。

ケージに入れられたけれど、他の人のように暴れたり叫んだりはしませんでした。

もう、人生を全て諦めていました。

泣くこともしない僕を人拐いは気味悪がりましたが、他の人のように鞭で叩かれるよりは気味悪がられた方がマシです。


このまま誰かに購入され死ぬまでこき使われ、最終的には捨てられるのでしょう。

仕方ありません。

運が悪かったのです。

諦めて、この状況を受け入れた方が早いです。

希望を打ち砕かれるよりは、最初から何も持たない方がマシです。


カツカツ

仕立ての良い靴の音が近づきます。

この音は人拐いのものではありません。

きっとお客さんのものです。

人を買うお客さんはお金持ちが多いので、きっと履いている靴も上等な物でしょう。

その証拠に、人拐いと誰かが話しています。

「げへへへ。お客様、どのような商品をお望みでしょうか?若い娘ですか?それとも美しい女ですか?」

『若い男がいい。煩くない、静かな男』

「無口な男ですか?それならいいのがいますよぉ」

人拐いの言葉と聞いたことがない言葉が交互に聞こえます。

きっと違う国の人なのでしょう。

買われる人は言葉が通じない国で苦労するのでしょう。

可哀想です。


ぼんやりと買われる人の未来を哀れんでいると、二つの足音が近づくのがわかります。

僕がいるケージは奥の方にあるので珍しいことです。

カツン、ギイイィィ

僕のいるゲームの前に二人分の足が止まりました。

人拐いが屈んでケージの鍵を外します。

「おい、315279番。生きてるか?」

「はい」

「出ろ。お前を買うかもしれないお客様だ」

「はい」

あ、僕が買われることになったようです。

表情には出ませんが、これは驚きました。

どうしましょう。


仰向けだった体を反転させ、ケージを四つん這いで出ます。

地面に座ったまま、お客さんに見えるよう顔を上げました。

お客さんは、子供でした。

人ではない、違う種族の子供でした。

杖を手にしたお客さんは僕の顔をジッと見つめ、人拐いに話しかけます。

『コイツは人形か?目に生気を感じないが』

「人間ですよ。何なら腕を切って血を流させましょうか?」

『いや、傷つける必要はない。しかし、本当に大人しいな。従順で顔も悪くない。身体も丈夫そうだ。それにあまり汚れていない。

ふむ、気に入った。コイツを買おう』

「ありがとうございます!315279番お買い上げー!!」

人拐いが嬉しそうに声を上げます。

どうやら僕はお客さんに買われることになったようです。

言葉の面で不安になりましたが、お客さんは人拐いの言葉を理解しているようなのでこちらの言葉はわかるらしいです。

そのことは僕にとって有り難いことですが、お客さんの言葉を理解できるように頑張らないといけないことには変わりません。


―――


ジャラ

重たい首輪を付けられ、繋がった鎖はお客さんが握りました。

今からお客さんが僕の主人になりました。

奴隷が歯向かうことはできません。

命令は全て従わなければなりません。

僕の自由は、今をもって全て消えました。

仕方がありません。

人拐いに捕まった時点でそのことは決まっていました。


鎖を引く主人の後ろを犬のように付いて行きます。

手の平や膝が痛いですが奴隷なので我慢しなければなりません。

けれど、主人が子供なので遅くて怒られる心配はなく安心しました。

それに、主人は杖を使って歩くので普通の人よりゆっくりです。

『315279番、荷台に乗れ』

「はい」

杖で馬車の荷台を示され、命令通り荷台に乗ります。

奴隷は基本的に荷台に乗せられます。

愛玩奴隷なら主人の隣に座ることもありますが、僕は奴隷なので荷台です。

荷台に座ると鎖は馬車に付けられた棒に繋がれ、主人は馬車に乗り込みました。

きっと国に帰るのでしょう。

これから暫くは馬車に揺られそうです。

雨が降らなければ問題ないですが、見上げた空の雲行きは怪しいです。

とことん運がないです。


仕方がありません。

あの日、家を出る前に育ててくださったあの方に酷いことを言ってしまった罰です。

僕が罰を受けるのが当たり前なのです。

仕方がないのです。

もうあの方に会えないことになっても、仕方がないのです。


膝に顔を埋め、目を閉じます。

奴隷の身分で我が侭を口にしてはいけないのですが、一つだけ思うことを許してください。


最後に、あの方に謝りたかったです。


「〇〇〇〇ー!!」

「!?」

僕の名前を叫ぶ声がしました。

懐かしいその声は疲れきっていましたが、何度も何度も名前を呼んでくれました。

慌てて顔を上げ、周りを探します。

あの方に会えるかもしれないです。

最後に、会えるのかもしれません。

「〇〇〇〇!!おい、〇〇〇〇っ!!!」

「ぁ……」

いました。

人混みの中を走っているあの人が見えました。

沢山汗を流して、必死に馬車を追いかけるあの人がいました。

僕は瞳から涙を流し、唇を戦慄かせました。

汚い顔ですが、どうかお許しください。

これが僕の気持ちですから。


馬車のスピードに人が敵うはずがありませんが、あの人はずっと追いかけてくれます。

僕はあの人に酷いことを言ってしまったのに、どうしてですか?

あの日と同じ服が、綺麗好きのあの人がずっと探してくれていたことを教えてくれます。

どうして、探してくれたのですか?

涙が止まりません。

段々と馬車とあの人の距離が遠くなります。


僕は奴隷です。

ですが、後で罰を受けるので今だけお許しください。

首輪が喉を戒めておりますが気にしません。

戦慄く唇を一度噛み締め、最大級の声量で叫びました。


「ごめんなさいっっ!!!!」


たった一言、けれど思いの全てを込めた言葉を叫びました。

あの人の驚いた顔を、僕は一生忘れないでしょう。


謝りたかったのです。

人拐いに入れられたケージの中で何百回も後悔していました。

何故あんなことを口にしてしまったのか。

何故自分はあの時冷静じゃなかったのか。

何故優しいあの人を傷つけられたのか。

僕は何て愚かなことをしてしまったのか。

たかが、あの人がくださったカップを割られたくらいで。

取り乱した自分が恥ずかしいです。


けれど、あのカップは初めてあの人から貰ったプレゼントだったのです。

大切に大切に使っていました。

どんな物よりも大切な宝物だったのです。

だから怒りました。

一方的に喧嘩してしまいました。

今思えば、あの時の自分は子供過ぎました。

酷い言葉を吐き散らして、挙げ句の果てに逃げました。

最低な人間です。


ガララララ…

馬車の速度が上がりました。

走るあの人が段々小さくなります。

僕の涙はまだ止まりません。


僕は奴隷になることを選択してしまいました。

あの人に二度と会えないことを、自ら選んでしまいました。

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