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そしてひとつの謎が解ける

 アリシアが盗賊ギルドを出ていった後、そこに一人の来客が訪れた。

眼鏡をかけ、褐色の肌をした長身の男。黒い衣装はどこか聖職者を思わせた。

「来たか──呼びつけて悪かったな、ロア。」

ロアと呼ばれた男は椅子に座っているネギヤを見下ろした。

「貴方が私を呼びつけるとは珍しい。いつもなら酒場で待ち合わせするだろうに……。」

そう言ってネギヤの目の辺りをじっと見つめる。

「……生命力が欠けているのを感じる……これが、私を呼び出した理由ですか?」

「ん。まぁそんな所だ。」

ネギヤはフゥっと大きな息を吐き出して「あんたには隠せないな。」と一言漏らした。

「これが今の私の仕事みたいなものですからね。無理せず横になったほうが」

「いや、もうだいぶ気分が良いんだ。それにまだアイツが戻ってくるしな。」

心配は無用、とロアの心遣いに答え、ネギヤは彼に質問をした。


「ロア、お前の所に考古学会の使いは来ていないか?」

「私の所に、ですか?」

少々以外な質問を投げかけられ、ロアはしばし考えた。

「いや、来てませんね。そもそも私は学会を追放された身ですから、今更私の所になど。」

「そっかー。いや俺の所に国から依頼来たし、それに本国で古代文明ブームらしいから、お前の知恵を拝借しに来た奴もいるんじゃないかと思ってなー。」

「ほう。ブーム、ですか。そしてその依頼が貴方の今の幻痛の元、という訳ですかな?」

ロアが探りを入れるように質問した時、部屋のドアがバタンと開いた。


「……やっぱり……私達の依頼が、その、幻痛……」

話を聞かれてしまったのだろう。

アリシアは今にも泣きそうな表情だ。

「お嬢さん、それは──」

その場を取り繕うとしたロアを制し、めんどくせぇという表情を隠さないネギヤが答えた。

「お前のせいじゃ無い。」

「でも、でも、」

「ピンクの毛玉のせいじゃ無い、って言っているんだ。」

ドアの所でまだ何か言いたげなアリシアの両肩に手を添え、アサツキがネギヤの近くまで彼女を誘導した。

「医療部隊でも顔色が悪いのが解らないくらい元気そうだろ?すでに回復に向かっている。大丈夫だ。」

アサツキはアリシアの肩をポンとたたき励ました。

「それより、ここに戻ってきたって事はみやげ話があるんだろ?聞かせろよ。」

ネギヤはアリシアの顔を見てニヤリと笑った。


「あ、はい、でも」

そういうとアリシアはロアの方をチラリと見た。

一応仕事は国家機密なのだ。外部に漏れたらまずい。

「ああ、そいつの名前はロア。古代文学者だから、ま、協力者って事で。」

「やれやれ、どうやら巻き込まれたようだな……私の名前はロア・ロンド。『元』学者です。」

そういうとロアは一歩下がった。

「私を気にせず話を続けて下さい。」

続けろと言われても気になるものは気になる。が、ここで止まっていても仕方がない。

アリシアは話を続けた。

「あの、この仕事の依頼主が、最近国が作ったオーパーツ研究所からだってまでは解ったんですが、一体どのオーパーツに書かれた文字なのかまでは、ちょっと……。」

「国立オーパーツ研究所ね……。オーパーツって『当時の文明ではこんな技術無かった!謎だ!不可能だ!』ってやつだろ?まったく古代人を愚弄するにも程がある。」

「まぁまぁ、落ち着けよ。」

鼻息荒くしたネギヤをアサツキがたしなめる。

「せめてそのオーパーツが特定出来ればいいんですけど、オーパーツっていっぱいありますよね?」

「一つ一つ調べなきゃ解からんか……大仕事だな。今晩は一旦解散して明日出直すか……。」


3人が手詰まり感を醸し出している中で、黙って様子を見ていたロアが口を開いた。

「その『古代文字』を見せてもらえますか?」

「ん?あぁ、こいつだ。」

ネギヤが冒険者ギルドから届いた古代文字の書かれた紙をロアに渡した。

「……これは『クリスタルプレート』ですね。色々な種類がありますが、これは今から50年ほど前に石切場で見つかった水晶の板です。現代技術でもここまで綺麗に研磨できず再現できません。同じ様なプレートが全国各地で見つかっていますが、いずれも文字部分が盛り上がっているのが共通項です。」

ペラペラと詳細を述べるロアを見て、他の3人はただ呆然としていた。

「……何か?」

「いや、さすが『元』学者だなぁと尊敬していただけだ。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「さぁて俺も負けてられんな。現代語訳は俺の仕事だ。」

ネギヤが紙とペンを持ち出し、ヤル気を見せた。

「ロア、確か石切場から見つかったっていったよな?」

「はい。間違いなく。」

「オーケー。じゃあ正答はこうだ。」


【解らない】【死ぬ】【誰か】【掘る】【穴】

【明日】【死ぬ】【自分】【掘る】【穴】


【なぜいつ死ぬか解らぬ者の墓を明日死ぬ我が掘るのだろう】


「その『クリスタルプレート』ってやつはな、神が人の死を哀れんで、ダイイングメッセージを宝石の板に残したヤツなんだ。だから今の技術でも再現出来ない。……それで、だ。」

そこまで話してネギヤは少し顔をしかめた。

幻痛が疼いたのだろう。

後ろからそっとアサツキが回復魔法を使って、その痛みを和らげた。

「……これはおそらく墓石用の石切り場で働いていた奴隷のダイイングメッセージだろう。生きている内に墓を作るのは恐らく王族。この石切場からやや近い、下界を見下ろすような見晴らしの良い高台。そこに王家の墓があるかもしれんな。」

その説明を聞き、ロアが驚きの声を上げる。

「確かに現場近くに高台があります!付近はある程度調査されましたが遺跡は発見されませんでした。もしこれを元に高台に王家の墓が発見されれば、世紀の発見かもしれません!」

「え、あ、そ、そんな、え?もしかしてすごい発見に立ち会えるかもですか?」

アリシアも興奮を隠せない様子だ。

「いやいや、まだ俺の予想ってだけで、本当に墓があるか解からんぞ?気が変わって別の墓を作った可能性もあるしな。」

「いえ、私にとっては十分世紀の発見ですよ。お陰で『クリスタルプレート』の作成方法を知る事ができた。……もっとも、知った所で作れませんがね。」

ロアは満足そうに笑みを浮かべた。

「さて、私はこれから仕事がありますので、ここで失礼させて頂きます。それでは、お休みなさい。」

「おう、遅くまで悪かったな!」

ネギヤは椅子に座ったまま片手を上げてロアを見送った。


「アリシアもご苦労様だったな!これでゆっくり寝られるだろ。」

「はい!すっきりしました!でも……」

そう言うとアリシアはネギヤの側に寄り、アサツキと共に回復魔法を使い始めた。

「ネギヤさんの幻痛が収まるまでは、ゆっくりできません。」

「……ふん。好きにしろ。」

プイっとそむけたネギヤの顔は、どこか嬉しそうだった。

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