依頼の真相
「……で、勢いでここまで走ってきた、と。」
「はい……。」
勢い良く宿屋を飛び出したはいいが、言いたいこともまとまらないまま冒険者ギルドに乗り込んでしまったアリシアは、バツが悪そうに椅子に座っていた。
「まぁお前らの気持ちは解からんでもないがな……ほら、水。」
「あ、すみません……すっかり冷静さを欠いてしまいました……。」
「いや俺が見る限り最初から冷静さは持っていなかったと思うがね。」
ギルド長がアリシアをからかいクスクスと笑う。
アリシアはふてくされた顔をしながら、乾いた喉を潤した。
「国は、なぜ必要な情報を揃えずにタビビトに仕事の依頼をしたのか……ってのが、お前さんの疑問なんだろ?」
「はい、私、どうしても解らなくて。」
ギルド長は大きくため息をついた。
「気を悪くしないで、怒らないで聞いてくれよ?……実験、だったんだ。」
「……実験?」
「そう。腫れ物にどこまで触っていいかの実験。」
ここでいう“腫れ物”とはネギヤの事であろう。
そして腫れ物に触る指の役割が自分だったのだ──アリシアはそう悟った。
万が一触りすぎて腫れ物が疼いても、幻痛が発生してもすぐに対処できる様に自分があてがわれた。
「あいつの幻痛は心因的なものの可能性もあるのでな。初めから深入りさせて重度の幻痛が起こってしまったら、盗賊ギルドは国を完全に『敵』とみなし、我々冒険者ギルドが仲裁に入っても両者の関係修復は不可能となるだろう。」
大人の事情なんだ、解ってくれ。そう説得するギルド長の言葉を聞きながら、アリシアは何かを思い出そうとしていた。
あの時。最初に会話した時。
薬草の香り。
「もう、幻痛、だったのかも。」
「なんだって!?」
彼女がポツリと発した言葉にギルド長は反応した。
「私が会う前から幻痛が始まってて、薬飲んでて、それなのに私、気がつけないで仕事の話して……」
アリシアの目に涙が浮かぶ。
医療部隊として相手の苦痛に気がつけなかった事が悔しいのだ。
「アリシア、俺もあの古代文字の出所は解らん。ただ大元の依頼主は国に新設されたオーパーツ研究所だと聞いている。今日はもう日が落ちる。送りの者を付けるから、今日は宿屋に帰れ。」
「……はい。今日は色々とありがとうございました。」
一礼すると、アリシアは冒険者ギルドを後にした。