タビビトと騎士と盗賊と仕事
「そういえば第3師団っていったら、お前も所属していた事なかったっけ?」
ガサガサと封筒から書類を出しながらネギヤは奥の部屋へ語りかけた。
「……確かに第3には居たが、俺はすぐに第2──遊撃部隊に移動したからな。それに彼女が入隊した頃には俺はもう除隊になっていただろう。」
そう言いながら奥から青い髪で右目に傷のある男がゆっくりと出てきた。
「しばらく一緒に行動するだろうから紹介しておく。」
男は静かに、ネギヤの隣に立った。
身長はアサツキの方が数センチ高い。
「こいつはアサツキ。俺の大切な人だ。」
「はい?」
アリシアは驚きで目を見開きながら、ネギヤとアサツキの顔を交互に見た。
「あー……ネギヤ。その表現は間違ってはいないが、もう少し適切な言葉がありそうだな。右腕とか、懐刀とか……。」
「え?そうか?めんどくさいからなんでもいいや。とにかくコイツは俺にとって欠かせない奴だ。」
「紹介くらい面倒がらずにやってほしいがな……アサツキだ。よろしく。」
「あ、はい!私はアリシアです!ネギヤさんが仕事をサボらないよう監視する為に派遣されました!」
アサツキのややキツイ顔がクスッと笑う。
「お前の性格、読まれているな。」
「うるさい。」
性格を指摘され拗ねた表情のまま、ネギヤはアリシアを呼びつけた。
「書類ってのは、これで全部か?」
封筒を片手に持ち、バサバサと大げさに振る。
「はい、それを1週間で仕上げて持ってくるように言われています。」
「お前、持ってくる前に書類の中身確認したか?」
「いえ、機密書類なので閲覧しないように言われてますので。」
ふーん、と、何か納得していない面持ちでネギヤは封筒を見つめ、そしてアリシアの方に向き直った。
「見ろ。中身はほとんど白紙だ。」
アリシアはネギヤから手渡された封筒を必死になって確認する。
確かに中身は何十枚という白紙と、タビビト対応マニュアルと、そして幾つかの古代文字が書かれた一枚の紙だけだった。
「これを1週間でやれっていう方が面倒だな。翻訳だけでいいなら今すぐでも終わるぞ。」
「えぇ~……私はこの紙1枚を運ぶ為に本国から呼ばれたんですかぁ~?」
アリシアは脱力して、その場にへたり込んでしまった。
「おい、しっかりしろ……まったく団長も相変わらず人が悪い。」
あまりの脱力ぶりに見かねてアサツキが気を使う。
「そっちのソファーで休んでいろ。今何か冷たい飲み物を持ってくる……酒とジュースとどっちがいい?」
「俺ジュースね。」
「お前には聞いていない。」
古代文字が書かれた紙を見つめたまま、顔も上げずに会話に割り込んできたネギヤの要望をアサツキは一蹴した。
アリシアはまだ放心している。
「……やれやれ。とりあえず全部持ってくるか……。」
そう言いながらアサツキは部屋の外に出ようとして、ふと足を止めた。
「お前、さっきジュースって言ったよな?」
「ああ。酒を飲みながら出来るような仕事じゃない。」
口の端を上げニヤリと笑いながらネギヤは言った。
「この俺に仕事を頼んできた奴らの真意を探らないと気が済まん。」
「楽しそうだな。」
「楽しいよ。」
お前らしいよ。そう思いながらアサツキは飲み物を取りに行った。