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初めて見る“タビビト”

 階段を昇り案内された部屋は盗賊ギルド本部とは思えないほど──いたって普通の高級宿泊部屋だった。


入ってすぐに来客用のテーブルとソファー。その近くに作業用の机と椅子。

奥の方はカーテンで区切られているが、おそらく就寝用のベッドがあるのだろう。

さすがに一般の宿泊部屋よりは広いが、膨大な書類を管理する為の本棚以外は目を見張るような物は無かった。


その作業机で書類を閲覧しているローブを着た長髪の男。

彼が盗賊ギルド長ネギヤである。




「お頭、客人です。」

今まで丁寧な口調だった男が『給仕』から『盗賊』に変わった事にアリシアは動揺した。

(何?なんなのこの変わり様。もしかして給仕さん皆こんな感じなの?)

彼女の推測通り、この宿に勤める者全員が優秀な盗賊であり、ネギヤの護衛である。


お頭と呼ばれたネギヤは顔を上げ、訝しげな表情でアリシアを睨み付ける。

「……。」

「あの、グランドリア王国騎士団第3部隊所属、アリシア・ポートレートといいます!本日は冒険者ギルド長より依頼を受け──」

「……ピンクの毛玉。」

アリシアの自己紹介と目的報告を遮り、ネギヤがぼそりと言葉を発した。

言われたアリシアは一瞬事態を飲み込めず、給仕の男は笑いを堪えるのに必死だった。

「えっ?えっ?いやそれは確かに髪の毛ピンクですし、短いし、クセっ毛ですけど!」

書類を持たない方の手で頭を隠しながら彼女は続けた。

「そっちも髪の毛緑っぽくて長くてうねっているからワカメじゃないですかー!」

給仕の男はブフッと噴きだすと堪えきれなくなり、慌てて部屋から出ていった。

「だれがワカメだコラ」

たれ目で睨みを利かせながらネギヤは続けた。

「どう見たって昆布だろうが。」

「コン……」

『この人と口論してはいけない』とアリシアは本能で感じた。

この手の人間は何時までも本題に入らず、わざと場を乱し、こういった混沌とした状況を楽しむタイプだ。

相手のペースに飲まれてはいけない。


仕事だ。そう、仕事。

この書類を相手に渡して……

「あ、あれ?」

「ふーん……“タビビトとの接し方”ねぇ……」

ネギヤはいつの間にかアリシアの手から書類の入った封筒を奪っていた。

「一応タビビトってのは国家機密なんだけどな。まぁいいか。」

ペラペラとマニュアルを読みながら“タビビト”は鼻で笑った。

(ガキ大将みたいな人だ)

それが彼女から見た“タビビト”の第一印象だった。


近くにいるネギヤから、ふと、アリシアの鼻に何か香るものがあった。

タバコでも無い、お香でも無い。

でも何か草の様な、少し苦々しい香り。


「じゃあお前にも解りやすく、この書式で自己紹介してやる。名前はカエデ・ネギヤ。呼び方はネギヤの方で呼べ。壁画が残るような数千年の大昔から飛ばされてきたらしい。らしいってのは仮死状態で意識が無かったから、正直良く解からん。メリットは失われし技術の知識、デメリットは……」

そこまで続けるとネギヤは少し口ごもった。

「……デメリットは幻痛だ。頭のどこかで『自分は死んでいる』と思っている俺がいて、そいつが体の機能を止めようとしているらしい。」


(さっきのは薬の香りだったんだ……)


デメリットを聞いて、アリシアは香りの正体を知った。

そして自分が派遣された理由も。

「アリシア、お前のいる騎士団第3師団ってのは、確か医療回復担当部隊だったな。つまり──」

「あなたの幻痛が発生した場合すぐに治療が出来るように、私が使いに出された…って事ですね。」

「なんだ。思ったより頭の回転が早いな。」

「うううぅ~~~」

怒ってはいけない。ペースに飲まれてはいけない。

この人はこういう性格なんだ。


アリシアは自分自身にそう言い聞かせ落ち着かせた。

この先何度言い聞かせなければならないのか、あまり考えたくは無かった。

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