盗賊ギルド潜入
カールカ街西部、スラム街。
ここは流刑地時代に囚人達が集落を築いた場所であり、今でも当時のような薄暗い空気を醸し出している。
元々治安が良いとは言えないカールカ街だが、スラム街はさらに治安が悪い。
麻薬・売春・盗品売買……それでも殺人が皆無で昼間女性が一人で散策しても大丈夫なのは、スラム街を監視している盗賊ギルドのお陰だろう。
そのギルドを統治しているのが今回の依頼先、タビビトのネギヤである。
(ううう、早く帰りたいよぉ…)
アリシアは脇目も振らず荷物を両手で抱き抱え、足早に歩く。
掘り出し物屋の展示品も薬売りの掛け声も無視し、目的地までただ一直線に進む。
(えっと、確かホテルがギルドを兼ねてるって……あ、あった!)
たどり着いた先はスラム街には…いや、冒険者で溢れるカールカ街には似つかわしくない、本国並みの高級ホテルであった。
何故スラムにこの様なホテルが建っているのか──
一説には本国の権力者がスラムを支配しようと、自らの力を誇示する為に建てたという話もあるが、詳細は不明である。
(本当にここがギルドなのかな……?)
アリシアは心のどこかでギルド長に騙されているのでは……と疑いながらも、目の前にある重い木製の両扉を引き開けた。
「いらっしゃいませ。ようこそ『カズラ』へ。」扉を開けた先には給仕服を身につけた数人の男女が待機していた。
「ご宿泊ですか?それともお食事ですか?お食事でしたら奥の方にあるレストランにご案内致します。」
スーツ姿の男が微笑みながらアリシアに話しかける。
「あ、あ、いや、えーと、違うんです!」
あまりにもスラムには似合わない姿と応対にアリシアは激しく戸惑った。
「その、ネギヤさんに用事があって……あ、騎士ギルドか冒険者ギルドから連絡行ってると思うんですが!」
“ネギヤ”という言葉を聞いて、一瞬男の顔に緊張が走ったが、すぐに営業スマイルに戻った。
「はい、両ギルド長様から連絡を承っております。アリシア・ポートレート様でございますね?」
男はそっとアリシアの手を取り、階段へと促した。
「ギルドは3階になります。さ、こちらへ──」
「は、はい!」
アリシアは緊張を隠せない固い足取りでエスコートされていった。