『昼休み、中庭にて』 ~ グレイヴ ~
「王子、サブロウって名まえの意味、知ってますか?」
両手で包むように握った茶器から顔を上げ、ヤヨイは意を決したように言った。
じきに終わりを告げる二人の時間を名残惜しく思いながら、午後の予定を頭の中でさらっていた俺は、突然のことにやや面食らう。
瞬きしながら左隣を見下ろすと、彼女は必死な面持ちで目元を少し赤らめていた。
名まえの意味。それはもちろん知っている。
三番目の男児、実に簡潔でわかりやすい。そう感想も添えて答えた。
「そ、そうです。三番目の。あの、それで――」
勢い込んで言いかけたのに、ヤヨイは急に黙ってしまった。真っ赤になって唇をかみ、頼りなく視線をさまよわせる彼女はいまにも泣き出してしまいそうで、俺ははっきりとうろたえた。
答えはあっていたはず、なにが問題だったのだろう。
鼓動が嫌な感じに乱れ、庭師と女官がさっきからこちらを窺っているのも忘れてヤヨイの肩に手をかけた。
「あ、なんでも! なんでもないんです、ごめんなさい。ほんとに、どうでもいいこと言おうとしちゃっただけで」
弾かれたように顔を上げたヤヨイは、誤魔化すように笑って首を振る。
それ以上踏み込んでよいものか、判断に窮した。なにを言おうとしたのか、気になって――不安だった。
こんな状態のままでは、午後の任務に障る。また部下たちを余分に走らせてしまいそうだと訴えたら、ヤヨイは両頬をおさえ「うぁぁ、ほんとにくだらないことなんですよぉ!」と目を瞑ってくしゃっと顔をゆがめた。
責めるつもりではなかったのだが、そのあまりの苦悩に申し訳なくなってしまった。肩に置いた手を力なく引っ込めると、不意に小さな声で彼女が言った。
「……わたし……三月生まれなんです……」
意味がわからなかった。
聞き違えたかと思って問い直す。
「えっとだから、三番目の月に生まれて、ヤヨイっていうのは……三番目の月って意味で……」
あわてて耳を傾ける俺をちらりと見やるヤヨイは、朱に染めた頬で、ひどくばつの悪そうな顔をしていた。
「……王子とおそろいかなって、思っただけですっ」
早口で言い切り、膝に顔を伏せてなにやら悶えている。
呪詛のようなものを唱えるくぐもった声。
黒い髪の間から覗く、真っ赤に染まった丸い耳。
ヤヨイが羞恥に身をよじり、果てしなく落ち込んでいてくれて、今だけは本当によかった。
同じくらい茹で上がった顔をしていると、自分でもわかっていたから。




