とある病院で見た、白天使と黒天使
私は、子どものころ怪我が多かった。
その中でも、一度だけ命に関わるような大怪我をして入院したことがある。
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当時の担当看護師は、怖かった。
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事故で腎臓を傷つけ、尿が出にくくなっていた。
出なければ、管を通して排尿させる必要があった。
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ある日、親が病室を離れたときだった。
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担当看護師のAが、私の横まで来た。
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「今日、おしっこが出なかったら管を入れるからね」
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そう言って、少し笑った。
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「昼からやるから。それまでに出さないと痛いよ」
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そのまま、何事もなかったように病室を出ていった。
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私は怖くなった。
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午前中ずっとトイレに座っていた。
激痛が走った。
それでも力を入れ続けた。
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しばらくして、血の塊と一緒に尿が出た。
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親は安心したように、ナースコールを押した。
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私は、看護師に脅されていたことを親に言っていなかった。
だから、コールを押すことを止めなかった。
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担当看護師は病室に来ると、一瞬だけ私を見た。
でも、すぐに親の方へ向き直った。
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「自尿があってよかったですね」
「あと数日、様子を見て問題なければ退院になると思います」
「詳しいことは後で先生から説明がありますね」
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笑顔だった。
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私には、何も言わなかった。
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夜になると、別の看護師が巡視に来た。
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「お腹は痛くない?」
「ちゃんとおしっこは出てる?」
「何かあったら、いつでも呼んでね」
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その看護師は、優しかった。
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私は思わず聞いた。
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「昼の看護師さんは、夜は来ないんですか?」
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看護師は少し考えてから言った。
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「ああ、Aさんは昼だけなんだ」
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「来てほしかった?」
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私は、首を横に振った。
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それを見た看護師は、少しだけ笑った。
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「大丈夫。今日はもう来ないから」
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「安心して寝ていいよ」
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そう言って、病室を出ていった。
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その後、私は何事もなく退院した。
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退院の日、看護師Aの姿はなかった。
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私は、夜勤の看護師のような人になりたいと思った。
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人の気持ちを察して、
安心させることのできる人。
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それが、看護師を目指した理由だった。
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そして私は、精神科で働くようになってから、
もう一度“黒天使”に出会うことになる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
同じ看護師でも、
人によってこんなにも印象が違うのかと、
子どもながらに感じた出来事でした。
あのときの恐怖も、
夜勤看護師の優しさも、
今でもよく覚えています。
だからこそ、
自分はどちら側でありたいのかを、
今も考え続けています。




