花火大会の日、怪人水着仮面と会う
初めまして!あるいは『帝都東京で配信中!』からお越しいただいた皆様、ありがとうございます。
ふらいんぐタートルです
本作は、私が初めての創作としてPixivの企画(夏休み創作チャレンジ)に参加して執筆した、いわば「処女作」にあたる短編です。
待ち合わせの場所に待っていた、狐面にTバック水着の変質者!
大丈夫です。出オチのように見えますがそうじゃありません。
このふざけた男が守ろうとした「約束」の物語を、どうか最後まで見届けていただければ幸いです。
花火大会の待ち合わせ場所には、狐面をしたTバックの水着姿の男が立っていた。
瞬間、脳のバグを疑った。
目を閉じる。目を開ける。
うん。狐面をした水着姿の男、まだ見えるね。
というか、こっちをみて、なんか手を振ってるね。
「かなこー、ここだぞー?気づかないかな、俺だ俺ー!」
やっば!みんなこっち見てんじゃん!
や、やめい!今声かけんな!
しかしあいつは待ってくれない。堂々と私の目の前までやってきて、決め顔(狐面の下に隠れているが断言できる。決め顔だ)でこういった。
「俺を待たせるなんて、相変わらず、かなこは罪な女だな!しかし、お前の浴衣姿、目がとろけるくらい似合ってるな!」
………。うん、もう、なんかなぁ。
私は、走馬灯を見る気持ちで、なぜこんなことになってしまったのかを振り返っていた。
*
「ん?なんて?」
「いや!だから!来週の夏祭り花火大会にはおばけが出るのだ!」
オカ研部長の木下透はそう高らかに宣言した。
いや、おばけて…。せめてもうちょっとそれっぽい表現で言ってくれ。
オカ研、オカルト研究部の部員は私とトオルの2人だけ。しょぼい活動をちまちましているだけの部活だが、意識だけはそれなりのつもりでやっているのだ。
「それなのに、なに?その小学生も鼻で笑うようなレベルのひっくい与太話は」
「与太とは何だ与太とは。花火とおばけは普通に関係あるぞ。
そもそも夏に花火なんてやるのは江戸時代に隅田川で行われた水神祭が起源だといわれているのだ。当時飢饉や疫病で多数の死者が出たことに対し、その慰霊のために水神祭が行われそこで花火が打ち上げられたという話だ。
花火は「送り火」の役割も果たす。それにより迷える霊魂をきちんと送り返そうというだな」
嬉々として、滔々とうんちくを語りだすトオル。
ちょっと得意げに私の方を見ているところを見ると、どうやら事前に予習してきたらしい。
「はいはい、よく調べてきましたね。で?花火と幽霊が関係あるとして、じゃあ、それが来週の花火大会に現れるという根拠は?」
「え。花火大会なら幽霊だってやってくるだろう。幽霊だって花火くらい見たいじゃないか」
なんと。まさかの根拠ゼロかい!
「はい、しゅーりょー」
脱力して私はそのまま読んでた本を開きなおす。
「まてまて!終了じゃない!根拠はあるぞ!……ほら、なんか金魚すくいってやたら網が破れやすいじゃないか!あれはおばけによる妨害の可能性が高い!かき氷が気がついたら溶けてるのも立派な怪奇現象だ。焼きそばが早く売り切れるのだってーー」
どうしてこいつはこうもポンコツなのだろう。なんか話を聞いてあげているのもばかばかしくなるんだが。
「ええい!とにかくだ!花火大会におばけは出る!ならば!そこでおばけにあったりなんだりするべくオカ研も花火大会に参加しようではないか!!」
……ようは花火大会に行きたいのね。始めからそう言え。
「……いきたきゃ1人でいきゃいいじゃん」
陰キャの私にはああいう明るいイベントごとに出向くのは気が重い。みんながなんだか浮かれている中じゃ、絶対浮いてしまうに決まっている。
「いやだ!俺はかなこと花火大会にいきたいんだ!」
………。こいつはいつもこうだ。
うじうじ回りくどいことを言ってくるくせに、なぜかときたまめちゃくちゃどストレートなんだ。
やばい。ちょっと顔が熱くなってくる。なんでこっちが照れなくちゃいけないんだ!
私、こう強く出られると正直よわいんだよ…。
「…………まあ、部活、なら」
「やった!よくいった!それじゃあ、来週は一緒に花火大会だ!!」
そしてやっぱりこっちが恥ずかしくなるくらいはしゃぎまくる男が一人。
はあ……。流されやすいなぁ私……。
「よし!じゃあ、服装についてだが、浴衣で行くことにしよう!江戸時代の水神祭が起源ならでてくるおばけもきっと和装が多いに違いない!なら、浴衣の方がお仲間だと思われて話しかけられそうだしな!」
トオルは、また、自分の欲望をかなえようとやたら回りくどいことを言い出す。はいはい。
「……あの、私、浴衣とかそういうの、あんまりちゃんとしたの持っていないというか」
や。持ってるけどね。なんかね。そういうのいそいそ着ていくの恥ずかしいというかね。
「ん?ないならしかたないな。じゃあ、浴衣っぽければ何でもいいぞ」
……なんか、そうあっさり引かれるのも、それはそれでなんかムカつくな。着てきて驚かしてやろう。
「あとはそうだな。おばけが話しかけやすい装いとして……うん、たとえばお面をかぶっておくとかどうだ?ほら、お面をとったらおばけだった、みたいなヤツあるだろう?なんかそれっぽいし、やっぱり向こうから話しかけてきそうじゃないか」
これまた変なことを言い出してきた。
まあ、こいつ何だかんだ真面目ではあるからな(こいつなりに、だが)。部活の体裁はちゃんと取っておきたいのだろうよ。
まあ、正直クラスのメンバーに浴衣着て浮かれている私とか見られるのはなんか嫌なので、顔が見えないのも悪くはないのかな?
「わかったよ。じゃあ、適当にお面でもかぶっていくとするよ」
「よし!あとは、待ち合わせ場所と時間だな!」
そういってトオルは浮かれた様子で予定を組んでいく。その表情が子どもみたいで、なんとなくかわいいな、なんて思ってしまったのは内緒だ。
そうやって私も内心花火大会の日を楽しみにしていたんだ。
それが………。
*
そして現在。
「……釈明を聞こうか?なんでそんな格好になったのさ」
「や。そういえば俺も浴衣とか持っていなくてな。そこで浴衣っぽい恰好とは何か考えたわけだ。
浴衣とはそもそもは貴族が蒸し風呂に入る時、裸にならないように着ていた湯帷子からきている。
つまり風呂に行くときに、裸になる代わりに着るもの=浴衣だ。
で、現代はそういう時に何を着る?そう!!水着だ!!」
そういって、誇らしげに筋肉をアピールするポーズ(あれ、正式名称なんていうんだっけ?ま、いいか)をとる。やめなさい。あんたひょろいんだから。
「狐面は前の祭りの時に勢いで買ったやつをつけてみた。似合うか?」
「ほとんどパンツ一丁の姿に狐面を付けた姿が似合ったらむしろ嫌じゃない?」
「そうでもない!かなこに似合うといわれるなら嬉しいぞ俺は!」
うん。なんか、一回りしてすごいよ、あんた。
「そういうかなこは完璧だな!その面はちょっと古びているところがイイ感じだぞ!」
「…まあ、家にあったからね。たまたま」
そうやって話し合う2人を、周りの人はいぶかしげな顔をしてチラ見してくる。
地元のちっちゃな花火大会だし人もあんまりいないと思っていたが、そうでもない。思ったよりごちゃごちゃと人でにぎわっている。……私とトオルのまわりをのぞいて、ね…。
うん……そりゃ遠巻きにもしたくなるよね…。わかってた……。こうなることはわかってたさ…。
ほんと、なんでこうなったかなぁ…。
そんな微妙な空気もお構いなしにトオルは思いっきり楽し気に宣言する。
「さて!ようやくメンバーがそろったところでオカ研の活動開始だ!おばけにあうぞ!」
「怪人水着仮面にはもう会ったよ」
「いやいやいや。そういうのじゃなくて。江戸時代の鎮魂されない幽霊とかもっとそれっぽい奴にだよ!」
「会わんでいいよ、別に」
「それじゃオカ研の活動にならないじゃないか!」
「…別にならんでいいし。というか、会うったって何をすればいいのさ」
「ん?んー?そうだな、俺たち話しかけやすい雰囲気だけはばっちりだがそれ以外にどういう行動が必要かというと…」
「よく考えよう?ちっともばっちりじゃないよ?」
トオルはそこで腕を組んで考え込む。結構真剣だ。
……狐面のTバック男(しかも、なんかひょろい)が何か難しそうにうんうんうなっている様子、めっちゃシュールだな。
……なんだか、こう、いろいろ考えるのもばかばかしくなってきた。もういいや。割り切ろう。
「……そんなに真剣に考えないでいいよ。ほらさ?幽霊とかも普通に花火とか見たいからここにきているんでしょ?なら、私たちも同じよう普通に楽しめばいいじゃん。お互い楽しんでたら、そのうち声くらいかけてくるかもよ」
「ん?…そうか。そうだよな!俺たち普通に楽しむのが一番だな!」
ぱぁ、という効果音が出てきそうなくらいわかりやすく元気になるトオル。
「そうとなれば早速行動開始だ!行くぞ!屋台が混む前に一通り回るんだ!」
そういってトオルは私の手を取って走り出した。
仮面の下の顔は、きっとやっぱり私の好きなあの表情をしているんだろう。
*
「ああああ!ほら見たか?網がすぐに破けた!これだ!これこそ怪奇現象だ!」
「さわがない!金魚が逃げてくでしょうが!」
「お、今だ!かなこの手元にいま金魚が言ったぞ、ほらそこ!」
「あ、バカ!いま邪魔しないで……ってああああ、私の網も破けたじゃんかぁ!」
*
「……おかしい。やはりおかしい。俺のかき氷はいつだってすぐに溶けてしまうんだ……」
「そりゃ食べないで走り回ってたら溶けるって、氷」
「俺のかき氷……こんな赤い水になってしまって……無念…無念……」
「…あのさ。ちらちら物欲しそうに見るのやめてくんない?」
「見てない。というか、俺仮面だぞ?なんでわかる?」
「わかるのー。ほらちょっと私のあげるから」
「…なんでかなこの溶けてないんだ?というかさっき食べたのメロン味じゃなかったか?」
「変なこと気にする奴にはあげなーい。あ、ブルーハワイもいいなぁ」
*
「あー、ここの焼きそば、売り切れちゃった」
「まあ、さっき別の屋台のヤツ食べたしよくないか?」
「だってあんたが食べすぎたから。もうちょっと私も食べたかったのに」
「食べ過ぎって程食べたか?かなこの方が食べてただろ。というかむしろほとんど……ってやめろ、引っ張るな!狐面を引っ張るなー!地味に痛い痛い」
*
うん。何だかんだで楽しかった。
周りの人は相変わらず、というかより一層、遠巻きにチラチラ見てくるけど。
…こんだけ人混みがある中、楽に歩き回れるのはラッキーだし、別にいいけどね。
そう。始め気にしてた人の目もついわすれちゃうくらいには、私は楽しかった。我ながら結構図太い性格らしい。
そして今は、いよいよ花火を待って2人して空を見上げているところだ。
花火がよく見える場所は限られているので、流石に今はみっちりすし詰めだ。思ったよりトオルと密着しなくてはいけなくてちょっと落ち着かないような嬉しいようなよくわからない気持ちになる。
「なかなか勢力的に活動したな!オカ研として最大限の活動ができたといっていい!ま、おばけには会えなかったけどな」
一方、トオルはお気楽なようだ。ただただあっけらかんと笑っている。
「だから怪人水着仮面には会えたって」
「それはもういいだろ?」
「いや、よくないからね?ほんと始め見た時帰りたくなったからね?」
「そんなに変か?これ。自慢の水着と仮面だぞ?かなこも似合うといってくれたじゃないか」
「い っ て な い」
そんな他愛のない話をする私たち。
遠くでアナウンスが聞こえる。
「お、はじまるっぽいな」
「……だね」
花火が始まる。
これが終わったらこの夏祭り花火大会は終了。
花火大会とは言いつつも、そんな本格的なものではないから、花火がうちあがったらあとはもう、すぐだ。
…終わってしまう。愛おしい、この時間が。
………本当に話すべきことがあるにもかかわらず、私たちは並んで空を見上げている。
「なあ、花火が上がるときに怪奇現象とかおこらないかな?鬼火が打ちあがる的な」
「また目をらんらんとさせてるけど、そんなこと起きないからね」
「いやだから、俺仮面だぞ。なんでわかるんだよ」
「わかるのー。……というかさ、そっちこそ、なんでわかったの?」
「なにが?」
「仮面付けているのが私だって。浴衣だって、私持ってないとか言って、ほんとはこうしてちゃんと着てきたのにさ」
「いや、かなこのことがわからんわけないだろ?」
「そうかな」
そして私は言う。
「あんた残して、私だけ年取って大人になったのに?」
花火が打ちあがる音がする。その音は、私の声をかき消してはくれなかった。
***
私は花火大会の日を楽しみにしていた。
浮かれて浴衣の準備なんかして、仮面だって急いで適当なものを買ってきて。
なのに。その夏、私は結局、花火大会には行かなかった。
だって、トオルは「来週」になる前に、川でおぼれて死んでしまったのだから。
***
「……当然あの夏は花火大会に行けなくて…。
それからずっとさ。ずっと花火大会には行かなかった。……行けなかった…。
でさ…。大学行って、就活終わって。東京行くために荷物の整理とかしてさ…。
で、そしたら、あのときの、仮面とか、みつ、けてさ……」
見つけてしまった。ずっと隠していたのに。見たくなかったのに。
そして思い出してしまったんだ。あんたのあの馬鹿な言葉を。
『たとえばお面をかぶっておくとかどうだ?ほら、お面をとったらおばけだった、みたいなヤツあるだろう?なんかそれっぽいし、やっぱり向こうから話しかけてきそうじゃないか』
ばかみたいな、それこそ子どもみたいな発想。
でも、あんたならきっとそうしてくれるんじゃないかと思ってしまった。
だから、今更になって、本当に今更になって花火大会に行くことにした。
約束の時間、約束の場所に。
仮面をつけて。
「そしたらさ、あまりに普通にあんたがいるんだもん。しかも水着に仮面姿で」
そして、あまりに普通に私の名前を呼んでくるんだもん。
仮面の下でめっちゃ泣いちゃって、本当にどうしようかと思ったわ。
ずっと水着仮面がわちゃわちゃしているの見てたら、なんとか落ち着けたけどさ。
「……それ、川でおぼれた時の水着だったり?」
「いや、全然。花火大会用の特性水着だぞ。俺、川でおぼれた時は普通に服着てたし」
「なんでだよ!おぼれた時のならしゃーないなー、って我慢してたのに!」
「我慢ってなんだよ!浴衣=水着!この理論は間違いなく正しいだろうが!」
「あんたねー、もしあの夏その格好で本当に待合せたら、私1000%そのまま帰ったからね?」
「え…?そ、そうなのか?」
めっちゃショック受けてるよ。本当に本気だったんだ。
こんな状況なのに笑ってしまう。
「…もしかしてあの夏からずっと待ってた?」
「待ってたなー。かなこ来ないなーって。まあ、ぶっちゃけそんなに意識はっきりあったわけじゃないから、そんな長いこと待っているかんじでなかったけどな」
…それでも
「ごめん…ごめんね……、向き合えなかった…。向き合うのが怖かった……」
「いや、全然悪くないぞ?自分で言うのもなんだが普通俺が待っているとか思わないだろう。それにちゃんと来てくれたしな!なんと浴衣まで着て!」
そういうとトオルはやはり狐面の下で決め顔をした。
「もう一度言うが、お前の浴衣姿、目がとろけるくらい似合ってるからな!」
………もう、ほんとうに、なあ。
「……ずっと、ずーーーっと言わなかったけどさ、トオルって本当にばかだよね」
「え、酷くないか!」
もう、泣いて、笑って、どうしようもなかった。
せっかく花火やっているのに、ちっとも見れてないね。
まあ、それも私たちらしいか。
*
そうして。待ち続けた花火大会は、割とあっけなく終わった。
どやどやとみんなが帰り道に向かって動き出す。
…そんな中、妙に人の流れ、私たちのところだけ避けていってるけどね。
そりゃさ。1人で誰かと話している仮面に浴衣姿の女がいたら避けたくなるよね。
なんでこいつこんだけ目立つ格好しているのに、私のほかは誰にも見えないのかな。
……見えたら見えたで困るけどね。いや、むしろ見えたほうが困るけどね。
「ん。まって?金魚すくいの網とかかき氷とか焼きそばとか、変に宙に浮いてたりしてないよね?そこんとこどうなの?」
「え?知らん。なんか不思議パワーで上手いことごまかせてたりするんじゃないか?」
「なんでいつも変なとこ雑なの?!」
「そー言われてもなぁ」
そんな感じで、私たち2人もまた歩き始める。
どこに向かうべきか、そんなの私もトオルもわからない。とにかくとりあえず歩く。
「……こっからどうするの?」
「んー。俺もよくわかんなくてな。まあ、流石にここにいたんじゃ人の邪魔だしすぐそこの公園とかに行くか?」
「公園とか行けるんだ。この花火大会の会場から離れられないとかじゃなくて」
「あ。どうなんだろ。行けるのかな?」
「おい」
歩きながらもしゃべり続ける。……本当に、ずっとこうしていたいんだけどな。
ちょっと人混みを離れたところで。
割と突然、トオルの姿がぶれ始める。
「お、これはもしかしてついにお迎えか?心のこりも他には別にないし、俺もついに次のステージに…」
「まって」
だめ。
本当は笑いながらお別れできると思ってた。
あれからずいぶん経った。私も大人になった。
トオルとのお別れはずっと昔にすましたし、だから今日だっていつもの私たちみたいに笑っていられるって。
でもだめだった。信じられない奇跡で私はまたトオルに会えてしまった。話してしまった。時間がたったのがウソみたいに、あの時のままに笑いあってしまった。
それがまた別れるなんて。無理だ。
「まって。ちょっとまって。ごめん、でも、あの、心残りないなんて言わないで!
そうだ、ほら、私ずっとあんたを待たせてたじゃない?酷いこととかも言ってたしさ。ね。だから、私を恨んでよ。ねえ、ずっとずっと、もっと私を恨んで、呪って、そばにい続けてよ…!」
そういって必死にトオルにしがみつこうとする。
でもしがみつけない。手が通り過ぎる。トオルがどんどん透けていく。
さっきまで普通にそこにいたトオルは、いつの間にかまるでそこにいないみたいに遠い存在になっている。
「そんなこと言ったって、俺、かなこを恨むとか絶対できないしなぁ」
仮面も少しずつ透けてきて、トオルの表情が見えた。珍しく困った表情をしている。
「だって俺かなこのこと好きだし」
こんなときでも。こんなタイミングでも。いつものようにトオルはどストレートだ。
「好きならずっと一緒にいてよ…!いなくならないでよ!」
もうぐちゃぐちゃだ。みっともない。どうしようもない。ずっと子どもにみえていたトオルの方がずっと大人なのかもしれない。私には無理。耐えられない。
「いなくならないと思うぞ?俺」
そんな私を前にして、トオルはやっぱりトオルだった。
「だって、実際に人が死んで幽霊になることは可能だと実証されたわけだしな。オカルトは正しかったわけだ。なら天国だか地獄だか知らんけど次のステージだってあるだろう。俺はそこで今回みたいにかなこを待っているだけだ。今度こそ、かなこに似合うといわせられる恰好でな!」
不思議なもので、ぐちゃぐちゃな気持ちの中でも、人は笑えたりするものだ。
「怪人水着仮面じゃない姿で?」
「そう!次のステージにふさわしい恰好でだ!どんなステージかは知らんがな!」
「……もしかしたら今度はもっと待たせちゃうかもよ?」
「待たせてくれ。罪な女なかなこが結構好きなんだよ」
「おばあちゃんになっちゃうかもよ?それでも私が分かる?」
「わからんわけないだろ。……多分」
「言い切ってよ。……私はその間またずっとあんたに会えないの?」
「…それはすまん。というか、うん、言えてなかったが……先に死んで本当にすまない」
「………ほんとだよ……いや、そうじゃない、あんたが悪いんじゃない……わかってる、わかってるんだよ」
息を吸う。吐く。吸う。吐く。
…よし。落ち着いたことにしよう。あ、いつのまにか私の仮面も外れてるや。泣いてるの見られて恥ずかしいな。
「……まあ、でも今日みたいに会ったらいつもみたいに話せるなら、…我慢できるよ。私大人になったしね。
―――また会おうね。約束」
そうやって、私は、きっと、笑うことができた。
「…惚れなおした。」
トオルは相変わらずばかなことを言って、そのまま、あっけなく消えていった。
*
「……馬鹿。私の馬鹿。伝えてないじゃん」
そのあと、私はやっぱり後悔をしている。
奇麗に終わることは本当に難しい。
ただ、それが本当の終わりじゃないのなら、別にいいかもとも思っている。
次の約束のときに思いっきり上から目線ができるように、精一杯生き切って。
そして、約束の待ち合わせで、ちょっとしたサプライズをプレゼントしてあげればいいんだと。
「次は浴衣じゃなくて、別の方法で驚かしてあげるよ」
私も、相変わらず、あんたのことが好きだ、とかね。
fin.
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
前半のコメディから一転しての結末、いかがでしたでしょうか。
最後まで読んでから最初から読み直すと、見えているものが違って見える、そんな仕掛けをしてみたいというのがこの話を書くきっかけでした。
後は、もちろん、深夜のテンションです。でなきゃ、怪人水着仮面なんて単語打ち込めませんし、甘酸っぱくて恥ずかしい二人が本音をぶつけ合うシーンなんて書けません。
現在連載中の帝都でも、変わらず私はこの二つを貫いています。
一つは、ちょっとした仕掛け。物語を通底する、ちょっとしたいたずらやルールです。
帝都東京については、割と露骨ですが、独特のルール「情報物理学」なるものをでっち上げ、それをベースに物語を展開しています。
そしてもう一つが、深夜のテンションです。もう、これがないと書けないですよね。新連載もそんなテンション満載です。正気に戻らず赤裸々に。もうこればっかです。
ということで、「怪人水着仮面」と過ごしたこのひと夏の夜をお楽しみいただけた方は、ぜひ連載中「帝都東京で配信中!」も覗いてみてください。あちらでも、癖のある(水着も仮面もしてませんが)面々が皆様をお待ちしております
それではまた、次の物語でお会いしましょう。




