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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第78話 王子の発見

 バタフィー王子は、城に戻って一人で部屋に閉じこもっている。侍従すら追い出した状態だ。

 椅子にもたれかかりながら、今日のことを思い出しているようだった。


「まったく、なんだったんだ。あの昼の違和感は……」


 バタフィー王子は、ずいぶんと頭を悩ませているようだ。

 なにせ、昼食を取ろうとして食堂に入ったはいいが、原因不明の吐き気に襲われたのだから。

 昼からの講義を休んで、ゆっくり体調を回復させてからもう一度食堂を訪れたバタフィー王子。だが、その時は何もなかった。

 一体どうしてなのだろうか、首をひねりながらバタフィー王子は考え込んでいた。

 結局、その得体の知れない状況をはっきりさせることはできず、そのまま時間が過ぎていってしまった。


 夜中を迎え、バタフィー王子は疲れた様子で眠りにつく。

 目を閉じて、意識が遠くなったバタフィー王子は、なんとも懐かしい夢を見ることになった。

 何年前のことだろうか。

 広がる景色は、城の中のようだ。

 きれいな花が咲き乱れる城の庭園。そこで、バタフィー王子は少女と向かい合って話をしている。幼いバタフィー王子は笑顔を浮かべており、その会話はとても楽しいもののようだった。


(なんだ。俺は一体何を見せられている?)


 目の前で繰り広げられる光景に、現在のバタフィー王子は戸惑いを隠せない。

 なぜ今になってこんな光景を見せられているのか。まったく理解できない様子だった。


「あの、殿下」


「なにかな」


 背中を見せている少女が、幼いバタフィー王子に話しかけている。


「殿下に、私と同じような力を感じます」


「同じような? それはどういうことなのかな?」


 少女の話に少し難しい表情を見せる幼いバタフィー王子。その様子を遠目に見る今のバタフィー王子も、言葉の意味がよく分からなくて首を傾げている。

 幼いバタフィー王子に説明を求められた少女は、なにやらあたふたとしている。


「な、なんて説明したらよいのでしょうか。私の持っている魔力と似たような感じがあるように思えるんです」


「それは、もしかして浄化の力かな」


「うーん、そうであるような、そうでもないような?」


 少女はバタフィー王子の言葉に困っている。

 少女の困惑する姿に、幼いバタフィー王子は苦笑いを浮かべている。


「そうか。俺にも君のような聖女と似た力があるというわけか。なら、俺と君とで、この国は安泰かもしれないな、クロナ」


「そうかも知れませんね、バタフィー殿下」


 二人はくすくすと笑っている。

 その様子を見て、現在のバタフィー王子は、ぎりっと強く歯を食いしばっている。


「バカな。俺とあの魔族とがあんなににこやかに話していただと……? くそっ、なんて汚点なんだ」


 数年前の姿を見せつけられたバタフィー王子は、夢の中であるにもかかわらず、怖い顔をしながらわなわなと震えている。よほど、魔族となったクロナのことが許せないようだ。

 だが、ふとバタフィー王子は先程の会話を冷静に思い出してみる。


「待てよ? 俺の中にもあの魔族と似たような力がある?」


 あの会話の中で聞いた、聖女と似た力が自分の中にもあるという内容。


「もしや、俺が気分が悪くなったということは、聖女の力に似た俺の力と何かが反発していたということか?」


 バタフィー王子は、考えを巡らせている。

 だが、今はまだ夢の中だ。考え始めると同時に、バタフィー王子の意識がぐにゃりと歪み始める。


「くそっ……。そういえば、今は寝ている最中だった。だが、寝てばかりもいられん」


 次の瞬間、バタフィー王子は思いもよらぬ行動に出た。


「起きろ、寝ている場合じゃねえっ!」


 夢の中で自分を殴り飛ばしたのだ。

 だが、夢の中では痛覚がまともに仕事をしない。しかし、体を思いっきり動かそうとしたことが幸いする。


「あたたた……」


 ベッドから転がり落ちたことで、バタフィー王子は目を覚ます。


「よし、起きたな」


 狙い通りに目を覚ますことができたバタフィー王子は、早速夢の中で聞いたことを試してみようとする。

 魔法で明かりを確保すると、バタフィー王子は自分の机からペーパーナイフを取り出す。

 そうかと思えば、自分の手のひらをザクっと切り裂いていた。


「つっ……」


 ペーパーナイフとはいえども、意外とさっくりと切れるものだ。切り傷からは血が滲み始めている。

 バタフィー王子は痛みを我慢して、ペーパーナイフを置いて、自由になった右手を左手の平にかざす。


(聖女と似た力があるというのなら、俺もこの傷を治せるはずだ。集中しろ)


 バタフィー王子は、傷のない状態を思い浮かべなら、手のひらに魔力を集中させていく。

 しかし、しばらくはまったく何の反応もなかった。

 それでも、そんなはずはないと力を籠め続ける。

 しばらく念を込め続けたところ、ほんのりと右手のひらが光り始める。


(これは!)


 そう思ったバタフィー王子は、目を閉じて集中していく。

 やがて、傷を負った左手のひらが温かさを帯びていく。

 そっと目を開けてみると、なんということだろうか、左手の傷は跡形もなく消えてしまっていた。

 念のためにもう一度試してみるが、同じように傷は治ってしまった。


「ふふっ、ふははははっ! これならば、魔族どもを倒すことができるかもしれんな!」


 真夜中の部屋の中に、バタフィー王子の笑い声が響き渡ったのだった。

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