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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第73話 潜入の魔族

 魔王の命令を受けたクラウンは、イクセン王国の中へと入っていく。

 偽装と変装は得意な道化型の魔族なので、商人のふりをして堂々と侵入している。


「さーて、さーすがにー、教会にはー、近付けませーん。どーこで情報を、集めましょうかねー」


 偽装した身分証を使い、あっさりと門をも突破していく。さすが魔族である。

 イクセンの王都にも無事に侵入したクラウンは、商人という設定を活かして門番に質問をしてみることにした。


「そういえば、この街の商業ギルドはどこでしょうかね」


 いつものふざけた喋り方が出ないように気をつけながら、商業ギルドの位置を確認している。

 クラウンのことを承認だと信じている門番は、何の疑いもなくクラウンに商業ギルドの位置を教えている。さすがは道化師、見事な擬態である。

 一応、人間のふりをしているので、クラウンは門番にお礼を言って、教えられた方向へと進んでいく。

 偵察に来ているので、街の中の様子もしっかりと確認していく。

 街の中を行きかう人たちは、特に変わった様子もない。この分ではコークロッチヌス子爵領に魔族が出たことは、街の中には広まっていないのだろう。少しばかり、唇を強くかみしめてしまったようだ。


(うーむ、せーっかく挨拶代わりに攻ーめましたのにー、これは意外でーすねー)


 悔しさをかみしめながらも、気を取り直して街の中の観察を続けていく。

 思惑とは違った結果なだけに、ショックを隠し切れないクラウン。だが、魔王の命令ゆえに、おとなしく商業ギルドを目指して歩いていく。


(おっ、あーりましたねー。こーこが商業ギルドでーすかー)


 ようやくクラウンは、目的の場所を探し出したようだった。

 建物の入口には硬貨の入った袋の絵が掲げられている。実に分かりやすい目印というものだ。

 周りにいる人間たちに何度も確認をすると、ようやくクラウンは商業ギルドの中へと入っていく。

 商業ギルドの中にはたくさんの人間がいるため、クラウンは思わず衝動に駆られそうになってしまう。だが、魔王からの命令は潜入して聖女について調べてくることであるために、ぐっとこらえていた。

 いないかどうかだけなら聞いて回れば終わる話だが、念入りに調査をすることを命令されているので、クラウンはしばらく王都に店を構えて様子を見るつもりである。

 さっさと用事を済ませてしまおうと考えたクラウンは、何も考えずに正面の受付へと向かう。だが、その途中で、列に並んでいた人物に動きを止められてしまう。


「おいっ、順番があるんだ。俺たちの後ろに並べ」


「新人か? 順番も守れねえとか、なってねえな。どういう教育を受けてんだ」


 いろいろといわれてしまい、びっくりしている。


「おおっと、そうでしたか。これは失礼をしました」


 いろいろ言われたクラウンだが、とりあえずぐっとこらえて列の最後尾へと並ぶ。

 クラウンもプライドの高い魔族なので、内心はともてカッカしている。だが、魔王から長期にわたる調査を命令されているので、とにかくぐっとこらえている。


(こーなったらー、こーの街をー乗っ取れーるくらいのー承認になってやーるのでーす)


 こなくそと思いつつ、クラウンは耐えながらおとなしく順番を待ち続けた。


 数日後、クラウンは王都の中に自分の店を構える。

 その名もクラウン商会。隠す気があるのかどうか分からない名前である。とはいえ、登録の際に本名であるクラウンを使ったので、そのまま通さざるを得なかったのだ。


「ふっふー。ミーのお店がでーきたのでーすよー」


 いい感じの店構えに、クラウンは満足げである。

 ちなみにだが、この開店資金は、行きがけに狩ってきた魔物たちを売り飛ばして確保していた。

 魔物というのは別に魔族の下僕でもないので、こういうことも平気でできる。だが、これは人間の兵士や傭兵たちも同じなので、別に何も問題のないことである。


「さーて、こーこを拠点にー、調査をすーるとしましょう。意外と口がかーたかったのでー、少しでも油断さーせませんとねー」


 開店を前にして、クラウンは気合いを入れている。

 街にやってから数日間、クラウンは工事を任せながら探りを入れていた。ところが、よそから来たばかりとあってか、街の人たちの口は思った以上に堅かった。結局、この数日間は、何も情報を得られなかったのである。

 そこで、お店をしながら信頼を勝ち取り、情報を集めるという地道な作戦に打って出ることにしたのだ。

 売り物は宝石類なのだが、この宝石の出どころというものが気になるものである。


「ひゃーっひゃっひゃっ。ミーの細工のー腕もー、たーいしたものでーすねー。こーれがよもや、人や魔物の骨とはー、思いますまーい」


 そう、死体を操る自身の力を用いて死体をかき集め、その骨に自身の魔力を作用させて宝石化させたのである。


「やはーり、ミーにはきーれいなものがー似合いますねー」


 骨から作り出した宝石を手に取ると、クラウンはそれを眺めながらうっとりとした表情を浮かべている。本当に気味の悪い魔族である。


「さーあ、この魔宝石でもってー、イクセンのひーとびとをー、洗脳してやーるのでーすよー。ひゃーっひゃっひゃっひゃっ!」


 回転を前にした静かな店内に、クラウンの不気味な笑い声が響き渡るのであった。

 クロナのいない王国の中に、魔族の手がじわじわと迫っているのである。

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