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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第72話 困惑の魔王

 コークロッチヌス子爵の登場によって引き揚げてきたクラウンは、古びた城へと入っていく。

 城の中を歩くクラウンは、別の魔族と鉢合わせをしてしまう。


「おや、誰かと思えばクラウンじゃないか。どうしたのだ、こんなところで」


 がっしりとした体格の男が、クラウンへと話しかけてくる。


「なーんでもあーりませんよー。それよーり、魔王様は、どーちらでーすかー」


「うん? 魔王様ならご自室にいらっしゃる。あまりふざけた態度は取るでないぞ」


「わかーっていまーすともー」


 魔王の居場所を聞き出したクラウンは、がっしりとした体格の魔族とさっさと別れ、魔王の部屋へと向かっていく。


 部屋の扉をノックしたクラウンは、許可を得て部屋の中へと入っていく。

 部屋の中には、立派な角を持った男性が一人おり、鋭い視線でクラウンを見つめている。

 視線を向けられたクラウンは、その眼力に震え上がってしまう。

 そう、この男性こそが、クラウンが話していた魔王その人なのである。


「クラウンか。コークロッチヌス領は滅ぼせたか?」


 何気ない感じで、魔王はクラウンに戦果を尋ねてくる。

 ところが、本当に何気ない感じであるにもかかわらず、クラウンは大きく震え上がってしまう。

 発する一言一言に重みがあるのだ。それが魔王という存在なのである。


「申し訳あーりません、魔王様……」


 クラウンは頭を下げて魔王に対して謝罪をしている。


「よい、説明を続けろ」


「はい」


 魔王からひと言声をかけられると、クラウンは起きたことを素直に話し始めた。

 コークロッチヌス子爵領を攻撃したはいいが、下半身がクモの女に邪魔された挙句、思った以上に早く駆けつけたコークロッチヌス子爵の手によって相方が死に、やむなく撤退をさせられたという事実を。


「……そうか。あやつが一撃で葬られるとはな。さすがはコークロッチヌスというところか」


 報告を聞いた魔王は、淡々と呟いているだけで、特に驚いたなどの感情を見せることはなかった。


「おーそろしいでーすよー。まだ未熟とはいえー、魔族が一撃で倒されるとはー、思いまっせーんからねー」


「しょせんあやつは捨て石よ。だからこそ、お前と組ませたんではないか。クラウン、あれのお守りを任せて悪かったな」


「いーえ、とーんでもあーりませんよー。ミーとしてもー、収穫はーござーいましたからねー」


「ふっ、まあそうだな」


 クラウンの話を聞きながら、魔王も思わず笑みをこぼしている。

 しばらくの間、沈黙が続く。

 そうかと思えば、魔王がおもむろに口を開く。


「聖女は出てこなかったのだな?」


「ええ、出ーてきませんでしたねー。聖女は誕生しーているはずなのですけーれどねー」


「となると、なんらかの理由で聖女がいなくなったということだな。詳しく調べてみる必要がありそうだな」


 クラウンの話を聞きながら、魔王はあごに手を当てて考え込む仕草をしている。


「そうだ。先程の報告にあった、下半身がクモの女性というものを詳しく聞かせてもらえるか?」


「わーかりまーしたーよ」


 魔王はクラウンから更なる聞き取りを行っている。その内容を聞いて、魔王はとても興味を覚えたようだ。


「ふむ。下半身はアサシンスパイダーで、両手で短剣を扱うメイド服の女性か。該当する者は、魔王城の中にはいなかったな」


「魔王様ー。いーちいち使用人をすーべて覚えてらーっしゃるのでーすかー?」


「上に立つ者のたしなみだよ。名前は知らずとも姿かたちくらいならどうとでも覚えられる」


「さーすがでーすねー。ミーたちとは格がちーがいまーす」


 魔王の言い分を聞いて、クラウンは全力で持ち上げている。さすが、魔王に忠実な配下である。よいしょは怠らないのだ。

 だが、お世辞というのは分かっていても、魔王はくすりと笑みを浮かべている程度だ。さすがの貫禄というものだろう。


「そこでだ。お前はイクセンの王都に忍び込んで、実情を探ってみてくれ」


「ミーがでーすかー?」


「そうだ。やってくれるか?」


 魔王から命令されて、クラウンはどうも渋っているような状況だ。


「べーつに構わなーいのでーすがー、どういった意図でしょうかねー」


「なに、聖女が本当に誕生していないのかどうかを探るためだ。今回の作戦は、そのための始まりにすぎぬからな」


 魔王はかなり聖女のことを警戒しているようである。

 クラウンは正直この命令を受けるかどうかは迷ったようだ。


「わーかりましたー。ミーでよければ引ーき受けまーす」


 この任務を完遂すれば、魔王からの信頼は揺るぎないものになると考え、結局引き受けることにしたようである。

 クラウンの返事を聞いて、魔王はにこりと微笑んでいる。


「悪いな。聖女がいるかいないかで今後の行動は大きく変わる。お前に危険な作戦を任せるのは、お前の能力とその判断力の高さからだ」


「おー任せくーださーい。かならーずやー、魔王様のごー期待にそーってみせましょう」


 クラウンは返事をすると、影に沈み込むようにしてその場から姿を消した。

 無事にクラウンが出撃していった様子を確認すると、魔王は大きなため息をつく。


「まったく、一体どうなっているというのだ。必ずや聖女が出てくると思ったのだが、姿を見せぬとは……。何が起きているのだ」


 魔王は窓際まで歩いていくと、外を見ながら一人つぶやくのだった。

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