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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第69話 目まぐるしい戦い

 影に沈みこもうとしたクラウンの動きが止まる。

 何が起きたのかクラウンが確認をすると、そこには一本の短剣が突き刺さっていた。


「なーんでーすかー、これはー」


「元暗殺者をなめてもらっては困りますね」


 驚くクラウンに対して、ブラナはにやりと笑っている。

 そう、暗殺者のスキルである状態異常系スキルのひとつである影縛りである。

 影縛りスキルで動きを縛られてしまったために、クラウンは動きを止められてしまったのである。

 影に沈みこもうとしているために、一人分の影を縛っただけで二人まとめて動きを止められたのは運がよかったと言わざるを得ない。


「くっ、うーごけないでーす!」


 クラウンはどうにか動こうとするも、ブラナのスキルが強力なためにまったく動けないでいた。


「どうやら私の腕は鈍っていないようですね。まあ、暗殺者から足を洗ったとはいえ、お嬢様をお守りするために鍛えていましたからね。魔族にも効いてひと安心です」


「おーのれーっ! このミーをこーけにーするのですかー?!」


 クラウンはかなり怒っているようだ。

 だが、動こうとしてもブラナのスキルがかなり強力なようでまったく動けないでいる。


「お嬢様の未来のため、その未来を破壊しようとするお前たちは許せません。今ここで、倒してあげましょう」


「クモ女ごーときがーっ!」


 ブラナが武器を構えると、クラウンは予想外の事態にかなり焦っているようだ。


「お嬢様の安寧を妨げる存在よ。今ここで侍女である私が打ち砕いてみせます」


 ブラナが攻撃を仕掛けようとしたその時だった。


 ズドーンッ!


 ものすごい衝撃とともに、土埃が舞い上がる。


「くっ! 何事ですか」


 あまりにも突然のことに、ブラナもさすがに焦っているようだ。

 もうもうと上がる土埃。そこにブラナは違和感を感じる。


「ぐっ!」


 何かが飛び出してきてブラナを襲う。だが、さすがは元暗殺者だ。ものすごい反射神経で攻撃をしのいでいた。


「ひゃーっひゃっひゃっひゃっ! どーこの誰だか知ーりませんがー、助かりまーしたー」


「くっ、魔族めが……」


 飛び出してきたのはクラウンだった。ところが、二人に分身していたはずが、なぜか一人に戻っていた。


「なーにをいいまーすかー。ユーも魔族、ミーたちとおーなじなーのですよー」


「私は、違います! お前たちのような、下劣な連中と同じにしないで下さい!」


 クラウンの言い分を、ブラナは必死に否定する。

 とはいえ、アサシンスパイダーと融合したその体は、まさしく魔族そのものなのである。否定できたものではないのだ。

 そう、ブラナも重々承知なのだ。それでも、人を殺して遊ぶような連中と決して一緒にしてくれるなという思いが強い。


「ひゃーっひゃっひゃっひゃ! 認めなさーい、認めたらー……楽になーるのでーすよー?」


「うるさい!」


 ブラナはクラウンに向けて糸を飛ばす。その攻撃はクラウンには簡単に躱されてしまう。

 動きがさっきまでとは違う。まるで別人を相手にしているような感覚だ。

 あまりにも違い過ぎて、ブラナは戸惑いが隠せない。


「ミーも少ーしだけ、本気を出ーすのですよーっ!」


「くそっ。これだから魔族という連中は嫌なのです。人をもてあそんでなぶり殺すのですからね」


「ひゃーっひゃひゃっ! 最高の褒ーめ言葉でーすねーっ!」


 クラウンは鎌を振り回し、ブラナを徐々に追い詰めてくる。

 どんどんと押し込まれていくブラナだが、もうひとつ殺気を感じ取って思わず体を震わせてしまう。


「お前は……殺す!」


 誰かと思えば、少年の魔族だった。あれだけ派手に吹き飛ばしたというのに、ここまであっという間に戻ってきたのだ。


「この俺のプライドを砕いてくれたんだ。全身を粉々に砕いて、魔物の餌にしてくれる!」


 完全に激昂しており、真っ向からブラナに襲い掛かってくる。

 これだけなら対処は簡単なのだが、問題は曲芸攻撃を仕掛けてくるクラウンだ。クラウンのからめ手のせいで、少年の魔族の攻撃がかなり有効になってくるのだ。

 こうなってくると、さすがのブラナもどんどんと追い詰められていく。


「こんなところで、死ぬわけにはいかないのです。私の役目は、お嬢様自信とその幸せを守ること。お前たちごときに負けるわけにはいかないのですよ!」


 叫んだブラナは、アサシンスパイダーの糸と魔法を同時に発動させる。


「なんだ、これは!」


「ひゃひゃっ、こーいつは困りましたねー」


 魔族二人が困った表情を見せている。辺り一帯はクモの糸が張り巡らされており、うかつに動けないようになっていた。

 普通ならこんな広範囲に一度に糸は張れないものだ。だが、ブラナは魔法を併用することでそれを可能にしているのである。

 焦る魔族たちと、肩で息をするブラナ。状況は完全にこう着状態へと入ってしまったようである。


「ひゃひゃっ、こーれはー、攻めるにも動きづらいでーすねー。ですが……」


 クラウンは鎌をしっかりと握ってブラナを凝視している。


「ミーの前でーは、無ー力なのでーすよー!」


 鎌を振り回して糸を切り刻もうとする。


 その時だった。


 ものすごい魔力の塊が、こちらに向かってきている。思わずそのことに気を取られてしまうブラナとクラウンなのだった。


「うわぁっ!」


 次の瞬間、少年の魔族が魔力に飲み込まれる。

 一体何が起きたのだろうか。緊迫した戦いの場の時間が、一瞬のできごとで止まってしまったようだった。

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