第68話 メイドと道化の死闘
ブラナとクラウンは激しい戦いを見せている。
「死体を封じても、なかなかな腕前ですね。さすが魔族といったところですか」
ブラナはクラウンを攻めきれずに、その実力を素直に認めている。
「ひゃーっひゃっひゃっひゃっ! だーてに魔ー族をーしーてませんかーらねー」
褒められて、クラウンはにやりとほくそ笑みながら答えている。
「でーすがー、ミーはあまりー自ー分でー動きたーくなーいのでーすよー」
「そうですか。ならば、もっと動かしてあげましょう。運動不足は、能力を低下させますからね」
「オーウ、こーれはー優しい方でーすねー。うーれしくてー、殺したくなりますよ」
ブラナが挑発すると、さすがにクラウンはブチ切れたようである。
いつものような遊んだ言葉遣いがぴたりと止まり、ドスの利いたような重苦しい声が聞こえてきた。
あまりにも重苦しい声に、辺りの空気がびりびりと震えている。
ところが、ブラナはその雰囲気になぜか楽しそうに笑っている。
「いいですね。実に楽しそうではないですか。私も、久しぶりに殺し屋としての本能がうずいてきましたよ」
「ひゃひゃひゃ、お前も、こちら側というのですね。でーしたらー、楽しみませーんとねー」
怒りがこみあげていたクラウンだったが、ブラナの殺し屋という単語を聞いて、楽しさを取り戻したようである。
「そーれではー、イッツ、ショーターイム!」
「なっ?!」
クラウンがパチンと指を弾くと、なんということだろうか、二体に分裂したのである。まさかの事態に、ブラナも困惑を隠しきれない。
「さすが道化、といったところですか。ですが、魔族ということを考えると、両方とも本物と見た方がよろしいのでしょうね」
「ひゃーっひゃっひゃーっ! そーんなこーとはー、どうでもいいのでーす。なぜならー……」
クラウンはそう言いながら、鎌を構える。
「こーこでー、死ーぬのですからーっ!」
叫ぶと同時に動き始める。
予想外にも、ブラナ目がけて一直線である。
しかし、元暗殺者としてあらゆることをこなしてきたブラナにとっては、それは実に予想の範疇だった。
ただ、問題はあのリーチの長い武器である鎌だ。いくら暗殺者だったとはいえど、大きな鎌を持った相手とやり合ったことはない。ブラナにとっては未知の武器である。
とはいえ、ここで死ぬわけにはいかない。
そもそも一度死んだ身とはいっても、ブラナはクロナに仕える侍女である。主を残して死ねるわけがないのだ。なんとしても、最低限魔族を撤退させて、無事に主であるクロナのところも戻らなければならない。
その強い思いだけで、ブラナは目の前のクラウンに立ち向かう。
「死になさーい」
二体のクラウンが、一気に迫ってくる。
かと思えば、一体の姿が一瞬で消えてしまった。
「なっ?!」
「ちょーっとした隙がー、いーのちとーりなーのでーす!」
ブラナが動揺したところに、クラウンの攻撃が入る。
ブラナは動揺したことで、短剣で受け止めることしかできなかった。しかし、さっきからクモの体がぶわっと毛を逆立てて震えている。嫌な予感しかしないというわけなのだ。
「ちっ、影からか!」
足元から不穏な空気を感じ取り、ブラナは糸を出して近くの木に引っかけると、一気にクラウンから距離を取る。
それと同時に、足元の影からもう一体のクラウンが飛び出してきたのだ。
「ちっ、こーれをー躱すとはー、やーりますねー!」
悔しそうにしながらも、その顔は笑っている。
退避した状態でクラウンの顔を見ながら、ブラナはとても気持ち悪そうに感じている。
「でーすがー、ミーのツーフェイスからー、逃げ切れると思いまーすかー?」
クラウンが不気味ににやりと笑うと、ブラナはぞくっとした恐怖を浮かべてしまう。
暗殺者である自分が、これほどの恐怖を感じたことなどかつてあっただろうか。
いや、実は一度だけ存在している。
(コークロッチヌス子爵様と戦った時以来ですか。あの時は完敗でしたものね。それで、私はお嬢様の護衛兼メイドとして、コークロッチヌス子爵家に留まることになったのです。その時以来の恐怖ですか……)
ブラナは身を震わせながらも、楽しそうな笑みを浮かべる。
「ひゃひゃっ。どうやーら、あーなたもー、気の触れたお方のーようでーすねー。きひひひ、ぜひともたーのしみましょう!」
「ああ、付き合ってやろうではないか。だが……」
ブラナは自分の体を前後に揺らす。
「勝つのは私だ」
前方へと飛び出し、二体のクラウンへと向かっていく。
「ひゃひゃひゃーっ! 無ー策でーすかー。愚かでーすねー!」
クラウンは、影の中に片方を沈ませようとしている。
その時だった。
「ここよ!」
ブラナは短剣をクラウンへと投げつける。
その短剣はあっさりと躱されてしまう。
「この程度でー、ミーの邪ー魔をできるとでもー?」
「ああ、思っているさ」
余裕を見せてブラナを見る食らうんだが、ブラナの方も余裕があった。一体どういうことなのか、この時のクラウンは苛立つだけで分からなかったようだ。
「さーっさと、死ーぬのでーす!」
クラウンが片方を影に沈みこませて攻撃に移ろうとした時だった。
「ぐっ?!」
突然体が動かなくなる。
クラウンが自分の体を見た時、その異変の理由を知ることとなるのだった。




