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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第66話 ブラナと魔族の戦い

 ブラナの目の前には、全身が黒ずんだ肌を持つ人型の何かが二体立っている。


「魔族ですか。好き勝手にお嬢様の領地で暴れているとは、まったく許しがたいですね」


「なんだてめえは。てめえも魔族だろうが」


「ああ、そうでしたね。ですが、私はあなた方とは違うのですよ」


 少年の魔族が挑発すると、ブラナは不機嫌そうな表情を少年の魔族に向ける。


「ぐっ……」


 そのひと睨みに、少年の魔族は思わず飲まれかけてしまう。その視線が、とてつもなく冷たいものだったからだ。


「おい、クラウン。そっちは任せる。俺はこのくそメイドに教育を施してやるからよ」


「わーかりまーしたー。ひーっひっひっひーっ! 死体はーまーだあるのでーすよー。すこーし動けなーくしたーからといってー、ミーは止められませーんよー」


 どうやらクラウンと少年の魔族は、コークロッチヌス子爵兵とブラナをそれぞれ別々に相手にするようにしたようだ。

 少年の魔族はブラナと向かい合う。


「よくも邪魔をしてくれたな。魔族のようだが、俺たちに逆らうとどうなるか、思い知らせてやるぜ」


「面白いですね。私も魔族と一度戦ってみたいと思っていました。お手合わせ、致しましょう」


「ほざけ!」


 ブラナの少し余裕そうな態度が頭に来たのか、少年の魔族はブラナに対して襲い掛かる。

 魔族だというから魔法でも放ってくるかと思ったら、予想外に物理攻撃を仕掛けてきた。ちょっとだけ驚くブラナだが、そこは元暗殺者なためにすぐに冷静さを取り戻していた。


「ほう、肉弾戦を私に挑みますか。これは面白いですね」


「はっ、メイドごときにはこれで十分なんだよ。食らいやがれ!」


 少年の魔族が右の拳を思い切りブラナに叩きつけようとする。

 だが、ブラナはそっと左腕を出して、少年の魔族の右手を払いのけてしまった。


「なっ?!」


 いともたやすく回避されてしまったことで、少年の魔族は驚きを隠せなかった。


「顔だけは勘弁をしてあげます。あまり私をメイドだからと甘く見ないでいただきたいですね」


 ブラナはそうとだけ言うと、カウンターで少年の魔族の腹部に鋭い拳を叩き込んでいた。


「かはっ!」


 なんということだろうか。少年の魔族が目を見開くくらいに鋭い一撃が、少年の魔族の腹部に叩き込まれたのである。

 その怯んだところに、ブラナの足となったクモの部分の回し蹴りが炸裂する。

 ずざざざざという凄まじい音を立てて、少年の魔族はいともたやすく吹き飛んでいってしまった。


「やれやれ。純粋な魔族だということで期待をしたのですが、見た目が子どもなら、実力もその通りだったのですか」


 あまりにも簡単に吹き飛んでいく魔族の姿に、ブラナは期待外れと言わんばかりの感想を漏らしていた。

 さすがにこのブラナの言い分には、少年の魔族は頭にきたようだ。


「おのれ、言わせておけば!」


 ブチ切れた少年の魔族は、力を解放する。

 先程よりも禍々しい力が辺りにあふれ出し、さすがにブラナもちょっと驚いたようだ。


「俺をコケにしたことを、後悔させてやる。いくぞ!」


 少年の魔族は、ブラナへと突進していく。


「力を解放しても、近接型特化というわけですか。魔法でも使ってくるかと思いましたが、まあ、それはそれで楽しめそうですね」


 力を解放されても、ブラナはとても余裕のある様子だった。

 さすがにそんな態度を見せられては、少年の魔族はますますブチ切れていく。


「俺を甘く見るんじゃねえ! 見た目がチビだからって、なめてんじゃねえぞ!」


 少年の魔族は全力の攻撃をブラナに叩き込もうとする。だが、それすらも簡単に躱されてしまう。

 いくら攻撃を繰り出そうにも、余裕を持って躱され続ける。まるで遊ばれているかのようだった。


「くそっ、なんで当たらないんだ」


 少年の魔族は、あまりにも攻撃がかすりすらしなくて焦燥した表情を見せている。


「もう終わりですか。では、こちらからいきますよ」


 対するブラナはこんなことを言う余裕がある。

 すっと腰を落としたかと思うと、先程と同じように、少年の魔族の腹部に強力な拳が叩き込まれる。


「うわあぁっ!」


 対処することができずに、魔族は先程よりも遠くへと吹き飛ばされていく。


「ふむ。これでしばらくは戻ってこれないでしょう。となると、あの魔族もぶちのめしませんとね」


 自分の拳を見てなんともないことを確認したブラナは、スカートの裏から短剣を取り出すと、もう一人の魔族へと向かっていく。


「はーっはっはっはっ! そうでーす。かつてーの仲間とー、こーろしあうのでーす!」


「くそっ、この下劣な魔族めが!」


 クラウンと呼ばれた魔族の方は、辺りに転がる死体を操ってはコークロッチヌス子爵の私兵たちにけしかけている。

 操られた死体は、いくら体を斬られようとも、怯むことなく兵士たちへと襲い掛かっている。

 痛みを感じることも、死への恐怖を感じることない操り人形となった兵士たちを前に、私兵たちはじりじりと追い詰められていっている。


「ひゃーっはっはっはーっ! いいですねぇ、いい褒め言葉でーす。さあ、そーいつらもー、お仲ー間が欲しいようでーす。さーっさとくたばーるのでーす!」


 実に耳障りな笑い声を浮かべながら、クラウンは私兵たちをもてあそんでいるようだ。


「まったく、耳障りな声ですね」


「おーっとぉ?」


 声がしたと思えば、クラウン目がけて短剣が振り下ろされる。だが、クラウンはその攻撃をあっさりと躱していた。


「おーや、ボーイはどうしたのでーす?」


「あの子どもの魔族なら、遠くに吹き飛んでもらいました。しばらくは戻ってこれないでしょう」


「おーやおや、野ー蛮なメーイドでーすねー。よろしい、ミーが教育をしてあげまーすよー」


 少年の魔族を退場させたブラナは、もう一人の魔族とついにまみえることとなった。

 だが、不意を突いたはずの攻撃が躱されてしまったので、こちらは一筋縄ではいかないと直感している。

 ブラナとクラウン。その戦いはとてつもない緊張に包まれていた。

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