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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第50話 黒く染まりゆく聖女

 楽しそうな笑顔を見せているクロナの元に、ものすごい羽音が近付いてくる。普通に聞けば怖いだけの状況だが、これでクロナはまったく笑顔を崩さなかった。


『せ、聖女様。大丈夫でしょうか……』


 アサシンスパイダーのイトナは、天敵の襲来とあってかなりびびっているようである。ブラナも隣でつい身構えてしまっている。

 ただ一人、クロナだけは堂々と構えている。どこからそんな自信が来るのか、まったく理解できなかった。


『我々の聖地に足を踏み入れし者どもよ。警告する、立ち去……れ?』


 目の前で動きを止めたキラーホーネットの群れだったが、クロナを見るなり戸惑い始めた。威圧的に話し始めたはずが、なぜか戸惑った態度を見せている。


『これは、聖女様ではございませんか。ここは聖女様がお越しになられるような場所ではございません。さあ、お引き取りを下さい』


 威圧的な態度が、丁寧な態度に変化していた。スチールアントやアサシンスパイダーのように、クロナのことをきちんと聖女として認識しているようなのだ。


「いえ、私たちはあなた方にお願いがあってやってきたのです。あなた方も、私の置かれている状況はご存じでしょう?」


『それは……』


 なんとも歯切れの悪い反応を見せている。

 この様子を見る限り、キラーホーネットもクロナの置かれている状況は把握しているようである。しかし、先程の口ぶりからするに、どうやら巻き込まれることを避けているような雰囲気すらあるようだった。


『恥を忍んで私からもお願いする。この国の人間は、聖女様を殺そうと全力を挙げてくる可能性があるのです。このわずかな期間にも多くの刺客がやってきたゆえに、私どもの方でもそれなりの戦力を用意する必要があるのです』


『アサシンスパイダーですら、手を焼く相手というのか?』


 イトナの必死の頼み込みを聞いて、キラーホーネットは困惑した様子を見せている。


『子ども相手に手を焼いてしまったのだ。私だけでは、とても聖女様をお守りできる自信がないのだ。頼む……』


 イトナはプライドを投げ捨ててでも、キラーホーネットに頼み込んでいる。そのくらい、ブラナやシュヴァルツ、メープルとの戦いでプライドがズタズタになっているのである。

 聖女を守ると意気込んだというのに、まったく役に立てなかったのだから、こうなっても仕方ないのである。


「覚悟は、決まりましたでしょうか」


 クロナに声をかけられて、キラーホーネットたちはびっくりしている。


『むむむむ……』


 キラーホーネットたちは戸惑っている。


『申し訳ございません。私たちだけでは決めかねます。女王様に確認をしてもよろしいでしょうか』


「はい、分かりました。では、女王様に会わせていただけますでしょうか」


『しょ、承知致しました』


 クロナに笑顔で言われて、キラーホーネットたちは渋々了承したようである。その時のクロナの笑顔といったら、とても言葉で言い表せないくらいに歪んだ笑みだったらしい。ブラナとイトナは見ていなかったので、首を傾げるくらいだった。


 こうして、森林の奥地にあるキラーホーネットの巣へとやってきた。

 そこには、クロナたちのところにやってきた何倍ものキラーホーネットたちが飛び交っている。


『うう、寒気が……』


 天敵であるキラーホーネットに囲まれて、イトナは恐怖のあまり震え上がっている。


『聖女様ですか。このような場所にまで、何のご用でしょうか』


 ひときわ高い声が響き渡る。

 その声と同時に、クロナたちの前に、明らかに体躯の大きなキラーホーネットが姿を見せる。これがキラーホーネットの女王である。


「キラーホーネットの女王でしょうか。本日はお願いがあってやって参りました」


『聖女様の置かれている環境は、妾たちも把握済みでございます。ですが、妾たちをそこに巻き込もうというのは、そう簡単に受け入れられぬというものです。どうぞ、お引き取りを下さい』


 状況を理解した上で、キラーホーネットの女王はクロナたちを追い返そうとしている。やはり、強い魔物とはいっても種を守るために、女王はこのような判断を下したようなのだ。

 だが、この程度、クロナからすれば予想の範疇なのである。

 クロナは自分を狙う連中をどうにかしてやりたい。だが、自分では相手を殺すことができない。なので、少しでも強い味方が欲しいのである。

 そして、クロナは頭に触覚のような角が生えた影響か、蟲の類しか味方にできない。そのため、ここはどうしてもキラーホーネットの協力を取り付けたいのである。


「では、こうしましょう」


『どうするおつもりで?』


「私の聖女としての力を使い、あなた方を必ず守ると約束いたしましょう。種が守られるのであるならば、協力して頂けますか?」


 クロナはこの上ない笑顔を浮かべて、女王に交渉を持ちかける。

 この提案には、女王も悩み始めてしまう。


『……確かに、聖女様の加護を得られるのであるなら、我らが守られる可能性は高まるでしょう。……分かりました。部下をお貸しいたします』


 キラーホーネットの女王が折れた。この瞬間、クロナの笑顔は邪悪に染まっていた。とても聖女とは思えない、それはどす黒い笑みである。


「必ず、キラーホーネットはお守りします。女王様はここでどっしりと構えていて下さればいいのです。私たちがいる限り、汚い王国の者たちをここへとは近付けさせませんよ。ふふっ、ふふふふふ……」


 キラーホーネットを味方につけたクロナは、満足そうに笑っている。

 だが、その雰囲気の怖さにブラナとイトナの表情はすぐれなかった。

 三年間を生き残るためとはいえ、クロナをこのままにしておいていいのか。一人と一匹の苦悩はまだ始まったばかりである。

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