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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第41話 親友の襲来

 クロナたちが潜伏するアジトまでやって来たホーネット伯爵の軍勢。


「メープル、本当にこの辺りに目的の魔族が潜んでいるのか?」


 ホーネット伯爵が娘のメープルに問いかけている。


「はい、間違いありませんわ、お父様」


 問いかけに自信たっぷりに答えている。

 一体メープルのこの自信はどこからやって来るというのだろうか。父親であるホーネット伯爵ですら理解ができていないようである。

 戸惑いの隠せない父親の横では、メープルがじっと目の前の岩山を睨み続けている。


「隠れてないで出ていらっしゃい。さもなくば……焼き払いますわよ!」


 そういった瞬間、出てくる暇も与えないといった感じで、メープルは魔法を岩山に向かって放っていた。

 どんな魔法を使ったのかも分からないほどの、完全な詠唱破棄である。クロナと同じ十歳の少女だというのに、このような芸当をやってのけるとは、メープルは魔法の天才なのである。


「ちょっと。こっちにいきなり魔法を放ってきますか!」


 岩山のアジトの入口に隠れていたブラナは大慌てである。

 だが、考えているような余裕はない。やむを得ないので、魔法を潰すために外に出ていく。


「はあっ!」


 短剣一閃!


 ブラナはメープルの放った魔法を斬り裂いて無効化してしまった。


「まったく、無茶苦茶なのは昔から存じ上げておりましたけれど……」


 ゆっくりとブラナはホーネット伯爵たちの前へと歩み出ていく。


「こればかりはお痛が過ぎませんかね、メープル様!」


 ブラナは本気で怒っていた。

 今回のようにいきなり魔法を放ってきたことは、なにも一度二度ではない。クロナを驚かせようとして、覚えたての魔法をよく使ってきたものである。その度にその対処をしていたのが、何を隠そう、他ならぬブラナだったのだ。


「まあ、魔族風情が、わたくしの魔法を斬り裂きますとはね。なんとも腹立たしいものですわ」


 メープルは反省するどころか、魔法を斬られたことでかなりお怒りのようである。

 相変わらずの自分勝手さに、ブラナはびきびきと顔を引きつらせている。


「まったく、このようなお転婆なお嬢様がクロナお嬢様のご親友で、シュヴァルツ坊ちゃまの婚約者だっていうんですからね。私がいなければ、一体どれだけの被害を被っていたことでしょうか。反省の色がないのは腹が立ちます」


 本格的にブラナはお怒りモードのようである。


「お前のような魔族に知り合いなどいませんわ。さぁ、わたくしの親友を騙っておりました魔族を出しなさい!」


「嫌ですね。お嬢様は、私が命に代えても守ります。たとえ相手が、ご親友であるメープル様であったとしても!」


 ブラナは両手に短剣を持って身構える。


「ふん、死にたいらしいですわね。さあ、ホーネット伯爵家の誇る魔法隊よ、あの魔族を懲らしめてやりなさい!」


「はっ!」


 メープルの命令で、連れてこられたホーネット伯爵家の魔法隊が動き出す。


「構え!」


 一斉に杖を構え、魔法を放つ準備を始める。

 ところが、ブラナがそんな隙を悠長に見逃してくれるわけがない。


「まったく、魔法使いというのは隙だらけですね!」


 魔法隊に向かって飛び掛かってきたのだ。アサシンスパイダーの能力を得たブラナは、以前に比べて足がかなり速くなっている。一瞬で間を詰めてしまっていた。


「甘いですわね!」


 ブラナ目がけて、メープルの魔法がすでに放たれていた。


「ちっ!」


 何かに気が付いたブラナは、とっさに後ろに下がっている。

 駆け抜けようとしていたところから、突如として火柱が上がる。どうやら、メープルが既にトラップを仕掛けていたようなのだ。


「相変わらず、天才といわれた魔法令嬢様は違いますね。無詠唱で魔法を使われたのでは、対処のしようがないというものです」


 少し下がって焦りを感じるブラナ。

 そこへ、準備のできた魔法隊が魔法を一斉に照射してくる。


「撃てーっ!」


「マジックアローッ!」


 魔法隊から、魔力の矢がブラナ目がけて放たれる。

 さすがに数十人からの一斉照射とあれば、ブラナでもひとたまりもないだろう。


『シールド!』


 ボソッと何かが聞こえる。

 次の瞬間、魔法が次々とブラナへと着弾する。


「やったか?」


 魔法隊は手応えを感じたので、思わず声に出してしまう。

 だが、それは使い古されたフラグというもの。


「かはっ!」


「お、おい、どうし……ぐはっ!


 魔法隊の数名が斬り裂かれる。

 何が起こっているのか動揺する魔法隊だが、メープルだけは冷静だった。


「そこっ!」


 その一言で、地面に魔法陣が現れる。


「ちっ!」


 ブラナは飛び退いて下がる。次の瞬間、魔法陣から漆黒の手が伸びてきていた。あの場にいてはからめとられて動けなくなっていただろう。暗殺者としての勘があるからこそ、どうにか回避できたのである。


「このわたくしの魔法を二度ならず、三度までも……。まったく、はらわたが煮えくり返りそうなくらいに頭に来ますわね」


「私としては、このくらいの罠には慣れていますからね。メープル嬢が十歳という若さのおかげで、なんとかなっていますよ」


「名前で、呼ぶのではないですわ!」


 魔族となったブラナに何度も名前を呼ばれて、かなり激昂しているようだ。だが、そのような状況になっても、魔法の精度はまったく落ちる気配がない。

 さすがはクロナと親友であるだけのことはある。ブラナは、メープルの魔法の才能に感心するばかりだ。


 だが、クロナの命を狙う以上、なんとしてもメープルを先に落とさなければならない。

 無詠唱魔法がある限り、どのような作戦を取っても簡単にひっくり返されてしまいかねないからだ。

 とはいえ、メープルにばかり狙いを定めていると、雑魚の魔法隊に足をすくわれかねない。

 クロナを守るために、ブラナの戦いは続くのである。

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