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黒角の魔聖女  作者: 未羊


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第38話 決別の亀裂

 ドーンッ!!


 大きな爆発音がその場に響き渡る。


「……お、お兄様ーっ!!」


 クロナの叫び声が響き渡る。

 ブラナがかばうようにクロナに覆いかぶさっていたが、兄であるシュヴァルツが魔法を使う瞬間を見てしまったのだ。

 そう、シュヴァルツの内側から魔力が爆発する瞬間を、である。


「シュヴァルツ坊ちゃま……。そこまでお嬢様のことを……」


 クロナをかばっていたブラナは、悔しくて唇をかみしめている。

 ブラナの腕の中で、クロナが突然崩れ落ちる。防御壁の向こう側に、見てはいけないものを見てしまったからだ。

 シュヴァルツの持っていた剣、散り散りになった着ていた服、地面に放射状についた血痕。それらのことが指し示すのは、シュヴァルツがクロナを殺すために、自らの魔力を暴走させて果てたということだからだ。


「お兄様……、お兄様ぁーっ!!」


 悲痛に満ちたクロナの声が響き渡る。

 大粒の涙を流しながら叫ぶクロナの姿に、ブラナはもちろん、アサシンスパイダーやスチールアントもかける言葉が見つからなかった。できることは、その姿をただ見守ることだけだったのだ。


『……どういたしましょうか』


「そうもこうも、あれだけ大きな自爆魔法だったのです。おそらくここを知られるのも時間の問題ですね」


『では、ここは捨てざるを得ないと?』


「ええ、気に入っていたのですけれどね、ここは……」


 ブラナは自分の拠点としていた隠れ家を見上げて、もの悲しそうな表情をしている。


「ですが、お嬢様の安全には代えられません。移動を始めましょうか」


 決断を下したブラナだったが、アサシンスパイダーたちは動こうとしない。

 それもそうだ。まだクロナが下を向いたまま涙を流し続けているのだから。

 ブラナは最後にシュヴァルツが立っていた場所へと視線を向ける。


「せめて、墓標くらいは立ててあげましょうか」


 ブラナは地面を掘り、散らばった服の切れ端を埋めると、その上に落ちていた剣を突き刺していた。

 すべてを片付けると、ブラナはクロナへと声をかける。


「お嬢様、移動しましょう。坊ちゃまが命を賭けてまで大魔法を使ったのです。いずれここに代わりの者が攻めてくるでしょう。お気持ちはとても分かりますが、聖女の力とはいえ、死んだ者を生き返らせることは不可能です。さあ、参りましょう」


「ブラ、ナ……」


 まだぐずりながらではあるものの、クロナはブラナの名前を呼んでいた。

 ブラナはこくりと頷くと、自分の背中にクロナを乗せ、素早くこの場を離れることにした。


 ―――


 その頃の王都では、コークロッチヌス子爵が大慌てで動いている。


「シュヴァルツの魔力が消えた。すぐに捜索を始めろ」


「はっ、旦那様」


「探すのは国境の山岳地帯だ。見つけた魔族や魔物はすべて殺せ、いいなっ!」


「はっ!」


 家令がコークロッチヌス子爵の指示を受けて、兵士たちに指示を伝えに行く。

 子爵は一人窓際に立って外をじっと見つめている。


「くそっ……。シュヴァルツのやつ、勝手に動きおってからに」


 窓に拳を叩きつけながら、歯を強く食いしばっている。


「あいつが一番可愛がっていたからな。魔族と知った時のショックは相当だったのだろう。だからといって、単身で飛び出していくとは、我が息子ながらなんと愚かなことを……」


 このような反応になるのも致し方ないことだ。

 なんといっても唯一の跡取りである息子を、魔族に殺されたのだから。


 しばらくすると、部屋の扉が叩かれる。


「旦那様、お客様がお見えでございます」


「誰だ?」


「私です」


「この声は、ホーネット伯爵のところの……」


「はい、シュヴァルツ様の婚約者であるメープルございます」


 声を聞いた子爵は、客人を中へと通す。

 そこに立っていたのは、濃いオレンジの髪の毛を持ったふわっとした髪の毛が特徴の少女だった。


「お久しぶりでございます、コークロッチヌス子爵様」


「久しぶりだな、メープル嬢。本日は何をしにいらしたのかな」


「ええ、シュヴァルツ様とお話をしたいと思いまして来てみたのですが……」


 メープルはそう言うと、表情を曇らせていた。

 シュヴァルツの名前を出した瞬間に、子爵たちの表情に変化があったからだ。メープルはこういうことにはとても敏感だ。反応を見て、すぐに何かを悟ったようである。


「……どうやら無駄足でしたようですね。子爵様、必ずや仇を討ってみせます」


 何も話していないのにすべてを悟ったメープルは、そのまますぐに帰ってしまった。


「やれやれ、相変わらず勘の鋭い子だな」


「そうですな。私どもの表情の変化ですぐに悟られるとは、思ってもみませんでしたな」


「悪いが、もしシュヴァルツの仇を討とうとしているのなら、護衛をつけてやってくれ。あれでも十歳の少女だ。何かがあってはホーネット伯爵の怒りを買ってしまう」


「承知致しました。それでは、捜索隊を同行させることといたしましょう」


「頼むぞ」


「はっ」


 家令はすぐに部屋を出ていく。

 姿を見送った子爵は、大きなため息をついている。


「まったく、子どもたちがこうもすぐに飛び出していくようでは、何を言われるか分からないな」


 子爵は再び窓の外へと視線を向ける。

 そこには、急いで帰っていくメープルの姿があった。


「我が家で発生した問題なのだ。できる限り、この私が決着をつけねばな……」


 子爵は拳強く握りしめるのだった。

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